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エルティティスとミハイルの場合 10

大変お待たせしました。

ぴったり10話で終わったことに驚きです。

 『黒服の男』が手を伸ばし、エルティティスの頬に触れた。

 とっさにその手から『読んで』しまったエルティティスは硬直する。正体のわからない、だが猛烈な不快感がエルティティスの胸をつかえさせた。

 その異様な本質は目には見えていない。だが『読んだ』ときに感じた異質さに彼女は息を止めた。能力で見慣れた世界の一部だけが真っ黒だった。男のかたちをしたその黒い何かは、そのシルエットのふちから無数の昆虫の足のような何かを蠢かせて徐々に大きさを増していた。もぞもぞと、ずるずると音を立てそうな緩慢な動きで。しかし着実に。

 エルティティスは虫が苦手だ。もしその苦手な蜘蛛が、ムカデが、ゴキブリが――それらが人間よりも巨大になったとしたら、これだけの不快感があふれるだろうか。そんな存在がエルティティスの足をつかんで、それらが蠢くこの奈落の底のような場所へ彼女を引きずりこまんとしている――

 小さなゴキブリを見ただけでつんざくような悲鳴をあげるエルティティスだ。しかも、それが恐ろしい闇の中へ引きずりこもうとしている。強烈な嫌悪の感覚に囚われた瞬間、頭の中は真っ白になった。


「いやああああああああああああああ!!」


 悲鳴をあげたエルティティスは、とっさにこぶしをくり出した。

 自分の魔力を乗せたこぶしをその黒い影に叩きつけた。こちらに向かってくる、昆虫の足のようなものを粉砕したかった。回路を組む余裕――回路のことを思い出すことすらできなかった。

 声をあげながら、ひたすら両手のこぶしに魔力を乗せて殴り続ける。何度も、何度も、何度も。

 普段エルティティスが意識的に排除しているはずの他者へ対する攻撃的で排他的な感情を、今は止めることができなかった。ここでやらなければ――想像するとぞっとした。そんな感情を持ったのは、今日が初めてだった。絶大な魔力を持つ彼女は、今までどんな局面に相対しても死を意識したことがなかった。


 今日遭遇したこれが、生まれて初めて感じる心臓だけでなく背骨までをわしづかみにされるように強烈な、死への驚異を上回る生理的嫌悪だった。


 がちゃん、と音を立ててエルティティスの周囲を常に浮遊している遠隔装置が地に落ちた。エルティティスから自然に漏れ出る魔力を動力にしている遠隔装置が、動力を失い維持できなくなったのだ。

 エルティティスが自身の魔力の制御を完全に手放したのは、これが二度目だ。一度目は結界を張ってすら大災害と認定されたが――今回は結界すら張っていない。

 普段の彼女ならばすぐに気づいて対策を取るはずだった。通りすがりの人に目撃されても大丈夫なように結界だって張ったはずだ。だが彼女は悲鳴を止めることができず、ひたすらこぶしを繰り出し続ける。

 結界も防護壁も張られていないのないにも関わらずさほど被害が出ていないのは、エルティティスの魔力の大半を『黒服の男』が吸収しているからだった。

 普段なら相手から無理矢理奪い取るはずのそれが、自分に差し出されているのだ。『黒服の男』がそれを無碍にするはずがない。それはまるで喜んでいるかのように震え、彼女の魔力を糧に膨らんでいく。

 それに気づくことなくエルティティスはこぶしを繰り出し続ける。何も考えることができず、何も見ることができず、がむしゃらに。





 どれくらいそうしていただろうか、ふと『黒服の男』の膨張が止まる。すでに黒い闇は直径数百メートルの大きさにまで及んでいた。その黒い何かは周囲の住宅を黒く染め上げ、町の一角を異様な光景にしている。

「ティティ!」

 ここでようやくミハイルが到着し、エルティティスに駆けよった。悲鳴をあげ続けるエルティティスを見て顔をしかめた。こちらの声が届く状態じゃないことを悟ったのだ。

 泣き叫ぶ彼女の攻撃の余波で、周囲のガードレールがへこみ、壁がひび割れ、住宅のガラスが飛び散った。エルティティスと『黒服の男』を中心に、クレーターのように道路がめりこんでいく。エルティティスが『毒』に犯されているのも一目でわかる錯乱状態だ。一刻も早くその影響下から解放したい。

 ひとまずはこれ以上周囲に悪影響を出さないようにと手早く結界を張った。

 と、同時に膨張を止めていた『黒服の男』が再び――今度はものすごい早さで激しく膨張し――そして強烈な衝撃とともに四散した。


「……っ! ティティ!」


 ミハイルはとっさにエルティティスに覆い被さり、防護壁を張り事なきを得たが、起き上がって彼女の様子を見て悲鳴をあげた。

 エルティティスは意識を失っていた。唇は真っ青で、顔は土気色だった。いくら呼びかけて揺さぶっても返事がない。

「おい、ミーシャ!」

 そこへアヴグストが声をかけた。ヤルンやミハイルら、他の隊員たちも到着したらしい。

「おい、ヤツは?」

「……破裂した」

「ハァ!?」

 その言葉にアヴグストが目を見張るが、ミハイルはそれどころではなかった。察したヤルンがアヴグストを止める。

「待て、グスタ。とりあえず周囲に危険がないか確認しよう。あと優先すべきはエルヴィエント嬢の安否だ」

「あ、ああ……」

「安全確認はオレが行くよ。二人は介抱にまわってくれ」

 攻撃特化のパヴェルは介抱に向いていない。言うとベテラン隊員と共に周囲の見回りに出て行った。

「おい、状況は? ……っと、今は無理か」

 ミハイルはエルティティスに負けないほど蒼白な顔で彼女を抱え、目を閉じていた。回路を組んでいるのだと察したアヴグストはミハイルへの問いかけを中断した。

 その瞬間、ミハイルとエルティティスが小さく明滅する。見覚えのある回路に二人は瞠目した。

「『弓幹と弦』か」

「なんでまた、ンなことを……?」

 アヴグストの問いにミハイルは顔を上げた。

「この術は魔力が上回っている人間が施す術なんだ。切るのも、魔力が上回っているなら容易いが、その逆は難しい」

「は? お前とエルティティスさんなら、圧倒的にお前の魔力量の方が下回ってるだろうが。俺より少ねえくせに……」

「いや、よく見ろグスタ、エルヴィエント嬢のこの状態を。俺は入学してからここしばらく、クラスメイトが同じ状態になっているのをよく見た気がする」

「……魔力切れか!」

「よくここまで全力を出し切ったものだな。普通の人間ならば、すべてを使い切る前に理性がストップをかけるはずだが」

「『黒服の男』はこうやって人を堕とすということかもな」

 ミハイルがエルティティスを抱えて立ち上がったと同時に周囲の安全確認を終えた隊員たちが戻ってきた。

「『黒服の男』も消えている」

「逃げられたか?」

 首をかしげている隊員たちにミハイルは来たときの状況を見たままを伝えた。

 隊長が頭を抱えている。

「……つまり、『黒服の男』は途中までエルの魔力を食らっていたが、食い切れなくなって自滅したってことか?」

 その言葉に隊員たちも絶句する。

「昔どっかでニュースになったよな。飯の食い過ぎで胃袋破裂して死亡したやつの話」

「つまり、エルヴィエント嬢が強引に相手の口の中にピザをぶち込み続けたみたいな感じか……」

 全員が遠い目をした。

「エルヴィエント嬢の魔力の量だからできることでしょうが……」

「これは、公にしない方がいいでしょうね」





□■□■





 エルティティスが目を開くと、初老の女性にのぞき込まれていた。

「……ばあや?」

「お嬢様、おはようございます」

 ばあやはにっこりと微笑むと、水を差しだしてくれた。

 もぞもぞと起き上がり、水の入ったペットボトルを受け取って飲み干してから、痛む頭を押さえて周囲を見回した。

「覚えておいでですか?」

「ううん……」

 状況を問う乳母に首を振って答える。そこでようやく部屋にもう一人いたことに気付き目を見開いた。

「ミハイル?」

「ティティ! やっと起きた!!!」

「わあっ!?」

 勢いよく飛びつかれて、エルティティスは目を白黒とさせた。水の入ったペットボトルを取り落としそうになったが、乳母がタイミング良く取り上げてくれたため、枕元を水浸しにする悪夢からは逃れた。

「えっ」

「とりあえず誤解を解いてからと思ったが――もう堪忍袋の緒が切れたからな!

 ティティになんと言われようが、オレたちは婚約者だ! もう婿捜しはするんじゃないぞ!」

「えっ、えっ、えっ」

「坊ちゃん。それだとまったく意味がわかりませんよ。

 あと、いくら婚約者でも寝起きの女性に飛びつくのはいけません」

「あ、すまん」

 ミハイルが抱きしめていたエルティティスを解放する。

「今回だけはお嬢様が心配かけたことが悪いのですからね。旦那様には内緒にしておきましょう」

「ありがとう」

 ミハイルがほっと胸をなで下ろしている。

「じゃあ、とりあえず説明からかな。どこまで覚えてる?」

 ミハイルの言葉にエルティティスは少し虚空を見つめる。

「学校帰りに急に『黒服の男』が現れて、触れられた拍子にうっかり読んじゃって、すごく、怖かったのは覚えてる。

 ムカデの足部分が全部ゴキブリの足になってるみたいな……」

 言ってエルティティスはぶるりと震え上がった。

「あー、それだめなやつだな。それは思い出さないでいい」

 ミハイルがエルティティスの手をぎゅっと握った。同時に彼女にたまった魔力をふっと拡散させる。

「ティティは自分が魔力暴走を起こしたことは覚えてるか?」

「えっ……ううん」

「じゃあそのあたりから記憶が曖昧なんだろうな。『黒服の男』の毒に中てられてパニックになったんだと思う」

「あの……被害は?」

「幸い、あの周囲の道路とガードレールが全損、民家のガラスと塀がダメになった程度。けが人はなかった」

「そっか……よくないけど、まあ……」

 人的被害が出ていないのは不幸中の幸いだろう。エルティティスは胸をなで下ろす。

「それから、オレが到着すると同時に『黒服の男』は消滅。技師と警察で事後処理中だ。

 ティティが目を覚ましたから、あとで事情聴取されることになると思うが」

「うん。わかった」

 ミハイルの言葉にティティはうなずくと、首をかしげた。

「それで……どうして私とミハイルが、その……」

「婚約することになったかって?」

 ミハイルが実に皮肉げな笑みを浮かべたので、気圧されたエルティティスはベッドの上で少し身を引くが、握られていた右手で引き戻される。

「まず聞くが、ティティは婚約は嫌じゃないよな?」

「いやというか……無理」

「無理かどうかじゃなくて、嫌じゃないよな?」

 握られたままの右手の甲をミハイルが親指でなぞるので、むずむずした。エルティティスは視線で乳母に助けを求めるが、乳母は部屋の死角へ移動していた。

「ティティ」

 しばらくの沈黙ののち、急かされたエルティティスはあきらめて口を開いた。顔が熱いのを左手で隠す。

「いやじゃない……です」

「そうか、よかった! じゃあ、婚約成立な」

「えっ」

 ぎょっとして顔をあげると、ミハイルに抱きしめられた。

「さすがにティティの気持ちを無視して勝手に婚約話が進むわけない」

「え、じゃあ……さっきのは嘘?」

「嘘じゃない。オレの決意表明だ!」

 エルティティスは絶句した。

「ともかく」

 ミハイルは衝撃から立ち直れていないエルティティスの背中を撫でてなだめると、話を続ける。

「跡取りの問題については、ティティのお父上にかけあってみた」

「えっ、父さんに?」

「うん。そもそもティティに無理させる気は二人にはないみたいだったしな。

 だからティティから了承を得られれば、オレが婿養子に入ることもやぶさかではないってことで」

「でも、それじゃ……ミハイルの家が……」

「オレはオレで家の仕事は継ぐし、婿養子に出てもそこは問題ない。跡継ぎだけは心配だけど、オレか姉ちゃんが子供作れれば大丈夫だろう。

 ……いや、オレの子の場合だと、ティティにがんばってもらうことになってしまうんだがな」

「そ、そこはだいじょうぶ。がんばる」

「うむ。とにかく、姉ちゃんかオレの子を親父が養子にすれば、戸籍上はややこしくなるが、血縁上は問題ない」

「できるの……?」

「できる! ……ようにちょっとコネを使ったけどな」

 ミハイルは苦笑いした。

「こうなるとそっちの家は、ティティに継いでもらうことになる。それはアリだって前言ってたな?」

「うん」

「ティティは、それは嫌じゃないか?」

「私が継ぐこと? それは全然へいき」

 婿のなり手がいなくなることを憂慮していただけで、自分が継ぐことが嫌なわけではない。

「あの……あのとき……ええと、前に私に家を継ぐのはありかって聞いたとき。

 もしかして、ミハイルはこれを提案しようとしてた?」

「ああ。考えながら話してから、順序がごちゃごちゃで、誤解を招いたが」

「ご、ごめん……」

 じゃあ、ミハイルは自分に婚約者を紹介しようとか、そういうことを考えていたわけではなかったのだ。

 完全に自分の早とちり。勘違いだ。


(で、でも……ヤルンさんたちが、演技とは言え婚約者に名乗り出るとか言うからてっきり……)


 エルティティスは縮こまった。おそらく自分の勘違いを逆手に取られてあの作戦は立てられたのだろう。そうでなければ普通はあんな流れにならない。

「誤解は解けたか? これでいいよな?」

「……ううん」

 エルティティスは少し考えて首を振った。

「ええ!? まだ何か問題があるのか!?

 こ、これ以上はオレには……」

「そうじゃなくて。ミハイルばっかりがんばらなくてもってこと。ミハイルのお姉さんが大変じゃない。その方法だとお姉さんがお婿をもらわなくちゃいけないことになるもの」

 ミハイルの姉がどこかへ嫁いでそこで子を産んだら、普通に考えればその子は嫁ぎ先の家の子だ。養子のお願いをするには嫁ぎ先の家を説得することになる。それを避けるには、婿になってくれる相手を探すことになるが、それはミハイルの姉に負担を強いることになる。

「ミハイルの言った方法をとるなら、私の家には兄さんがいるから。

 だから、ミハイルがうちにお婿に来るんじゃなくて、私がミハイルのところにお嫁に行った方がいいと思うの。

 そうすればミハイルのお姉さんも自由にできるし……っ」

 背に回った腕に力が入り、エルティティスは言葉を止めた。

「ミハイル?」

 返事のないことが不安になり、エルティティスは首を回してミハイルの顔をのぞきこもうした。もぞもぞと上半身を動かすが、びくともしない。

「ね、だめ?」

「……だめじゃない」

「そっか。じゃあこれ、両親にも話してみるわね」

「うん」

 強く抱きしめられすぎて顔は見られなかったが、耳が真っ赤になっているのはわかった。

 泣いているのか、照れているのかはわからなかったが、怒っているわけではなさそうなので、エルティティスはミハイルの顔を見ることをあきらめた。

 その代わり、エルティティスもミハイルの背に手を回してぎゅっとしがみついた。

「ねえ、ミーシェンカ」

「うん」

 ミハイルの声がくぐもって聞こえたのでエルティティスは苦笑した。これはおそらく泣いている。

「勘違いして怒ってごめんね」

「いいんだ」

「きらいって言ってごめんね」

「……もう『小さな可愛い子ミーシェンカ』って言わないなら許す」

「あら、『愛しいあなたミーシェンカ』はいや?」

「いや……いい、それで」

 エルティティスはくすくす笑って、ミハイルに体重を預けた。

 しばらく静かだったミハイルがいつもの調子を取り戻して、大声で泣き始めて、そして落ち着くまでそのままでいた。


「う、うわあ~~~~~ん! よ、よかったあああああ~~~!」


 泣き叫ぶミハイルの声を耳元で聞くのは慣れている。

 おそらくこれからもずっと、何度も聞くことになるだろうなあと思いながら。





================================================================



「おい人騒がせバカップル。仲直りしやがったか?」

「うん、グスタ。おはよう、そして本当にありがとう」

 後日、登校したミハイルは、すでに教室にいたアヴグストにそう声をかけられ、そしてその場で土下座した。

 アヴグストはぎょっとして座っていたイスから飛び退いた。

「うわっ、お前! なにしてやがる!」

「礼だ。心からの礼だ」

「怖えよ! 立て、馬鹿野郎!」

 アヴグストは悲鳴のような声でミハイルの襟をつかんで無理矢理立たせると、まだ登校していないクラスメイトのイスに座らせた。

「……その様子なら仲直りはできたってか?」

「うん。それにティティの親父さんの説得も想像よりずっと早く済んだ。

 アヴグストがティティにつきまとってるフリをしてくれたおかげだろ? オレのためにわざと評判下がるような行動させてしまって悪かったと思ってる」

「あ? なんで俺が」

「ティティの親父さんが言ってた。オレの話すグスタと、ティティの婚約者候補として名乗り出たグスタが同一人物とは思えなかったってな。

 学校に乗り込んで校門でティティに絡んだんだって? そんなこと、普段のお前なら絶対しないのに」

 ミハイルの言葉にアヴグストは眉をしかめた。

「お前、総監と何話してるんだ……?」

「父とティティの親父さんが仲良いんだ。技師が外で飲むといろいろ障りがあるから、よくうちに飲みに来る。

 で、酔っ払った親父さんに捕まることがわりとよくある。二週間に一度くらいの頻度で」

「けっこう頻繁だなァ、オイ!」

「まあ慣れた。で、学業のことや友人のことをよく聞かれるのでな。小中と同じだったヤルンやパヴェルのことはわりと話し尽くしたから、今のもっぱらの話題はグスタのことだったんだ」

「やめろォォォォォォ!」

「今回のことで、あまりにも聞いてた話が違うから、叔父さん……隊長に聴取したり、日頃の生活態度とかも調査を入れたって言ってたな」

「怖えェェェェェ!!」

 アヴグストはがっくりとうなだれた。幸いにしてあの一件以来アヴグストもおとなしくしていたので、なにか(悪い意味で)目に留まるようなことはなかっただろう。

 ミハイルにはいろいろ言いたいことがあったが、すべてあきらめて先を促す。

「……で?」

「たぶん、タチの悪いやつに娘を取られるより、オレの方がマシだって思わせたいんだろってな。

 友達思いの優しいやつだって苦笑いしてたぞ。ありがとうな」

 アヴグストはもう限界だった。


「うっせええええぇぇぇぇ! てめえなんて友達じゃねえぇぇぇぇぇ!」


 ミハイルの頭をひっぱたくと、教室から飛び出していった。

 登校してきたばかりで教室に入ろうとしていたクラスメイトは、弾丸のように一目散に走り去るアヴグストを見てぽかんとした。話を聞いていたクラスメイトはみんな腹を抱えて笑っている。パヴェルとヤルンもその中にいた。

「グスタのやつ、かわいそうに……っ! しばらく戻って来れないぞ」

「授業が始まる頃には戻ってくるだろう。なんだかんだと真面目なやつだからな」

 腹を抱えて立上がれないほど笑っているパヴェルが言うと、ヤルンが真顔で震えながら答える。

「ちなみに、礼なのか仕返しなのかわからないな、お前の行動は」

 ヤルンの言葉に頭をさすっていたミハイルは首をかしげた。

「ん? オレは心の底から感謝してるぞ?」

「……天然とツンデレはどっちが強いんだろうな」

「ヤルン、いつも言うけど笑うなら相応に表情動かして。無表情で震えてるの怖い」

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