↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/55

第7話 目立たないために、魔法を極める

 異世界に転生してから、二か月ほどが経った。


 俺は最近、ちょっとした問題を抱えている。


「魔法、もっと覚えないとな」


 洞窟の壁にもたれながら、俺は呟いた。


 今の俺の眷属は、レイとアスカ、そしてマリ。


 この洞窟にいるあいだはいい。


 だが、いつまでも引きこもっているわけにもいかない。


 外へ出れば魔物や人間に遭遇するかもしれないし、とんでもなく強い相手と戦うことだってある。


――俺がまともに使えるアンデッド魔法は三つだけだ。


 リザレクション。


 ダーク・リカバリー。


 ボディ・スナッチ。


 どれも、死んだ俺たちが仮初の生(かりそめのせい)を保つための魔法だった。


 ヒールやグレーター・ヒールも唱えられるが、普通の回復魔法はアンデッドには逆効果。


 自分にかければダメージになるし、仲間に使えば傷つけてしまう。


――あれは魔法というより、嫌がらせだ。


 生きていくための魔法はある。


 だが、外で身を守るための魔法がない。


 改めて考えると、かなり心細かった。



     ***



 そもそも、俺はどうやって魔法を覚えたんだろう。


 実は、ほとんど覚えていない。


 レイを蘇らせたときも、魔法を使おうと思った瞬間、


――こうすればいい。


 という感覚が頭に浮かんだ。


 魔法の名前まで自然に分かった。


 ダーク・リカバリーも、ボディ・スナッチも同じだ。


――何となく魔法を知っている。


 だが、前にアスカの骨を強化しようとして、


「グレート・ボーン・デンシティ」


 と唱えたときは、何も起こらなかった。


 想像するだけではダメらしい。


 魔法には、それなりの法則や理論があるのだろう。


「何だよ、それ。無理ゲーすぎる」


 俺は自分の頭を指で突いた。


 普通、転生するときにチート能力をもらうのが定番だろ。


 神様から「異世界転生特典です」と能力を渡されたり。


――だったら、魔法一覧表くらい付けてくれよ。


 スキルツリーでも、ステータス画面でもいい。


 せめて説明書が欲しい。


 俺は何も知らないぞ。


 そもそも、スタートがただの頭蓋骨だしな。


 あまりにも悲惨すぎる転生だ。


 とはいえ、動けるようにはなった。


 眷属もいる。


――そう思うと、俺、めちゃくちゃ頑張ってるよね?



     ***



 そこで、ふと思いついた。


――説明書なら、生前の記憶にあるかもしれない。


 俺は魔法が出てくる漫画や小説、アニメを大量に見ていた。


 炎、氷、雷、回復、召喚、結界、転移、蘇生。


 魔法の種類なら、いくらでも思い出せる。


――なんだ。俺、けっこう知ってるじゃん。


「よし! 記憶をたどってみるか!」


 紙はない。


 だから、洞窟の壁に石で魔法の種類を書き出すことにした。


 攻撃、防御、回復、召喚、強化、結界、転移、蘇生。


 思いつくものを片っ端から並べていく。


――俺、昔どれだけ異世界ものを見てたんだ。


 だが、具体的な名前や使い方となると、意外と思い出せない。


――炎をドーンって出すやつ。


――氷をバーンってするやつ。


――敵をこう……ズバーッてするやつ。


――ダメだこりゃ。


「シン、何してるの?」


 後ろから声がした。


 振り返ると、レイが壁を見ている。


「魔法の勉強」


「壁に落書き?」


「違う。研究だ」


 レイは壁に並んだ文字を眺める。


「爆発?」


「うん、重要だ」


「何に?」


「俺のロマン」


 レイは無言になった。


――しまった。本音が出た。


「いや、違う。爆発は攻撃魔法として重要だから」


「ふーん」


――視線が冷たい。


挿絵(By みてみん)



     ***



 俺は気を取り直し、今まで使った三つのアンデッド魔法について考えた。


 まずは、リザレクション。


 死者を蘇らせる魔法だ。


 ただ死体を動かしているだけなら、ゾンビと変わらない。


 だが、蘇ったレイはちゃんとレイ自身だった。


――魂を戻しているのか?


 レイは普通に話し、歩き、考える。


 それなのに、呼吸はしていない。


 心臓も動いていないし、血液も巡っていない。


――魂が、魔力を介して肉体を動かしている?


 俺は壁に、


「魂+魔力→肉体を制御」


 と書き足した。


 少なくとも、アンデッドが動ける理由はこれで説明できそうだ。


 次は、ダーク・リカバリー。


 これは生命活動を回復させるのではなく、アンデッドの肉体そのものを魔力で修復しているのだろう。


 壁に、


「肉体+魔力→修復」


 と書く。


 最後は、ボディ・スナッチ。


 これは魂と肉体に関わる魔法だ。


 三つの魔法を見比べる。


――魔法って、この辺りを操作しているのか?


 なら、どうやって操作する。


 俺は生前の記憶をたどった。


 魔法陣、 詠唱、 魔力、 イメージ、 術式、 属性、 触媒。


 その中で、ひとつ思い当たる。


――魔法をプログラムみたいに考えている作品があったな。


 目的を決める。


 魔力を流す。


 術式で制御する。


 そして、結果を出す。


 俺は壁に、


「目的」「魔力」「術式」「制御」「発動」


 と書いた。


――よし。


 これなら、少し分かる。


「試してみるか」



     ***



 俺は手のひらに魔力を集め、炎をイメージした。


「ファイア!」


 ボッ。


 小さな炎が出た。


「おお!」


 成功だ。


「もっと大きく!」


 ボンッ!


「うわあああ!」


 炎が一気に膨れ上がり、洞窟の天井に燃え移りそうになる。


「消えろ、消えろ、消えろ!」


 慌てて魔力を止めると、炎は消えた。


 天井が少し黒くなっている。


「……危なかった」


 その後も、炎の大きさや形を変え、魔力の量を調整して何度も試した。


 失敗と成功を繰り返すうちに、少しずつ魔力の流れが分かってきた。


――ただ魔力を出せばいいわけじゃない。


――目的に合わせて、魔力を組み立てるんだ。



     ***



 考え始めてから、一週間が経った。


 洞窟の壁には、魔法についてのメモが増えている。


 まだ分からないことだらけだ。


 それでも、魔法を思い出すだけではなく、どう組み立てればいいのかを考えられるようになった。


「……これなら、もっと色々できそうだな」


 俺は腕を組み、アスカを見た。


 今のアスカは獣の身体を持っている。


 受肉して、スケルトンだった頃より丈夫になった。


 でも、人間の身体ではない。


――人間の肉体を作る魔法。


――アスカは人間ではないが、肉体はすでにある。


――なら、肉体を分解して再構築することは?


――魂と魔力。そこへ、構築する細胞の調整。


 うまくいけば、老若すら意志どおりにできるかもしれない。


「……できるかもしれない」


 もちろん、すぐには無理だ。


 もっと研究が必要だ。


 それでも今なら、考えることができる。


――既存の魔法を組み合わせて、新しい魔法を作る。


「俺、ちょっと魔法使いっぽくなってきた?」


「シン。顔、嬉しそう」


「そりゃ嬉しいだろ。魔法だぞ?」


 十四歳の中学生が異世界で魔法を使える。


 テンションが上がらないわけがない。


「でも、最強にはならないからな」


「どうして?」


「目立つから」


 レイは呆れた顔をした。


「簡単に言えば、誰の邪魔もなく、ひっそりのんびり暮らしたいだけ」


 俺は言い直す。


「シンは変」


「うるさい」


 俺は壁に、最後の一行を書き加えた。


――目立たないために、魔法を極める。


「……完璧だ」


 どう考えても矛盾している。


 でも、俺は本気だった。

10月10日  一挙5話公開 18:00に5話同時公開

10月11日~ 毎日3話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

10月16日~ 毎日2話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
応援をよろしくお願いいたします!
, ,

,

,

,

,
,
,
テキスト系

,
, , , , ,
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。