第6話 受肉したら、アスカが毛むくじゃらになった
『受肉』――。
神や悪魔のような精神体が、肉体を伴って顕現すること。
だが――
俺が考える受肉は、それとは違う。
そもそもアスカは神ではない。
精神体とかでもない。
ただの――
エロババアだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
俺はアスカや自分自身に――
骨以外の全てを復元したいと思っている。
アンデッドとはいえ――
人間の姿に拘りたいのだ。
――そして。
俺はアンデッド魔法を思い出す。
マナ・ドレイン。
魔力を相手から吸収。
ダーク・リカバリー。
アンデッドなど、闇属性に属する者のダメージを回復。
リザレクション。
死者蘇生。
そして――
『ボディ・スナッチ』
新鮮な死体から――
肉体を再生する魔法。
――あ。
これじゃね?
ボディ・スナッチか。
よし――
試してみよう。
***
――レイ……頼みがある。
「却下――」
またこの件かよ……。
――あのさ。試したい魔法があるから、その辺で適当な動物を狩ってきて。
「なぜ」
――アスカや俺に、肉体を付与したいんだよ。
〔おお。ご主人!〕
アスカが食いついてくる。
〔わしは元通りにさえなれば、それでいいのじゃ〕
――八十二の婆さんに?
〔いえ。わしが死ぬ前と言えば――身長百八十センチ、体重五十五キロ。金髪で名古屋巻き。上からB九十五、W六十、H九十で股下は九十センチ。笑うとえくぼが可愛く、肌は雪のように白く滑らか。男どもは夜な夜なわしを思い出してシコって――〕
――グレーター・ヒール!
〔ぎゃぁぁぁああああ! いつもより熱い~~!〕
――そもそも。
骨格が全く合わないだろ。
燃え盛るババアを放置して、話を戻す。
――レイ、マリも連れてっていいぞ。
「ん。行く」
ガウガウッ!〈行く行く〉*俺の意訳
即答かよ。
――じゃ、頼む。
***
――なにこれ?
大量の死骸が――
山積みになっている。
見たこともない獣たち。
いや――
魔獣?
それと――
人らしき死骸もある。
――おい。人間も殺したのか?
「死んでた……だから拾った。……と思う」
……本当だろうな?
レイの目が泳ぐ。
「人も動物。差別反対――」
ちょっと意味分からないことを言ってる。
――レイは。
人の心が消えちまったのだろうか。
ゾンビだけに。
俺は人間の死体を眺める。
見た感じ――
二十歳くらいの男の死体。
やはり冒険者風で、ローブを纏っている。
魔法使い的な感じだと思う。
顔が陥没しているので――
何かの攻撃が当たったのか。
それとも――
誰かに――
殴られたのか?
レイのパンチじゃないことを祈るのみ――合掌。
――まぁ。
結果的に、俺を受肉させる材料としては都合がいい。
他の獣の肉は――
アスカの受肉用に進呈しよう。
***
――アスカ、俺の前に立て。
〔はいですじゃ〕
アスカは待ってました! とばかりに走ってくる。
――そこの死骸の横に立って。
〔はいはい、ですじゃ〕
――違う。人の死骸の横じゃない。
〔は?――〕
――お前はそっちだ。
俺は、イノシシのような獣の死骸を指さす。
アスカは――
がっくりと肩を落とす。
〔ぅぅ……しくしく……あんまりじゃ……〕
――しくしくとか言って泣く奴はおらん!
俺はアスカと獣の死骸。
その両方が見える位置に立った。
最近、少し心の余裕が出てきたせいか――
以前の厨二ムーブが降臨する。
――我が身は、虚空の狭間より引き寄せた、無数の瘴気の渦。
――深淵の力を束ね、古の魔法を紡ぐ……。
――自在に操るこの力は、善悪を超越した時空の結晶……!
『ボディ・スナッチ!』
ふふ。
決まった。
アスカと獣の死骸が――
黒い靄のようなものに包まれる。
急激に獣の死骸が腐食し――
崩れていく。
そして――
黒ずんだ一塊の肉塊へと変化していった。
――おえっ。
キモっ。
そのドロドロとしたものが――
アスカの身体にまとわりつく。
――俺の予想通り。
アスカは――
全身毛むくじゃらで、筋骨隆々。
喩えるなら――
某SF映画のチューバッカみたいな姿。
しかも身長は、骨格に比例してか――
百五十センチくらいしかない。
びっしりと顔まで毛が生えている――
焦げ茶色の毛。
銀色で長い髪の毛だけが――
この生物が雌であることを理解させる。
――ぶっ。
――ぎゃはははは!
――アスカ……おま……ぎゃははは!
「しくしく……」
お。
アスカが声を出してる。
声帯も復元できたらしい。
「アスカ。大丈夫。髪は長い。……ぷぷっ」
日頃、抑揚のない表情と言動で過ごすレイ。
その彼女までもが――
俯き、手を口に当て、小刻みに肩を揺らしている。
しかも――
「大丈夫。髪は長い」
って――
何のフォローにもなってないし。
マリは、自分と似たような姿になったアスカを見て――
擦り寄っていく。
クゥン、 クゥン。〈仲間だね♡〉*俺の意訳
「い、嫌じゃああああああ!」
アスカは大声で叫びながら――
物凄い勢いで飛び出していった。
洞窟の外では――
魔獣たちが悲鳴のような声を上げている。
まぁ。
見たこともない化け物が、急に出てきたんだから仕方ないよね。
うん――。
アスカの肉体は――
無事に強化されたみたいだ。
***
さて。
次は――
俺の順番なわけだが。
男の死体を眺めながら――
俺は思考を巡らす。
とても重要な懸念点に――
気付いてしまったのだ。
――ちょっと。
こいつのアソコ……見ておくか。
サイズは――
男の誇り。
女には理解できぬプライド。
受肉後に――
がっかりするのだけは嫌だった。
でも。
ここの周囲には――
女と雌しかいない。
堂々とアソコチェックを行うのは――
流石に憚られる。
「どうしましたのじゃ?」
いつの間にか戻ってきた――
ミニ・チューバッカこと、アスカが聞いてくる。
――黙れ……思案中だ。
本当のことを言えるわけがない。
――その時だった。
アスカが死体の目の前まで近づいたと思うと――
しゃがみ込む。
「お宝ぁぁあああ――」
「チェ――ック!」
アスカは――
ペロンッと。
男のパンツを躊躇なく下す。
「ふむ――」
「まぁまぁですじゃ」
ニヤリ。
含みのあるような顔で――
俺の顔を見上げる。
――ヒール!
「ぎゃぁぁあああ!」
「熱い、熱いのじゃぁぁあああ!」
そりゃそうだろ。
――毛まで燃えてるんだし。
本当に懲りないやつめ。
レイは両手で顔を隠し――
小声で。
「キャッ」
とか言っていた。
しかし――
お約束というか。
指の隙間から――
しっかりとソレを見つめていた。
***
とりあえず――
アソコは及第点だ。
――遺憾ながらアスカのチェック結果を信じることにした。
早く魔法をかけたかったので――
厨二用語で盛り上げる儀式は割愛する。
――ボディ・スナッチ!
先ほどと同様。
俺と男の死体に――
黒い靄が纏わりつく。
そして男の死体の腐食が――
一気に進んで肉塊となる。
俺の身体に――
肉塊が絡まっていく。
臓器。
筋肉。
そして――
最後に皮膚。
血色は――
やっぱり良くないな。
アスカと同じ。
「おおおおお。ご主人は男前なのじゃ」
「シン。おめ」
ガゥ、ガゥ。〈まぁ、いい男〉*俺の意訳
ちなみに――
マリの言語は、ずっと俺の意訳だ。
俺は伸びた髪を――
手櫛で整えた。
目線は高い。
身長は――
百八十センチ近いんじゃないだろうか。
顔は――
自分では確認できない。
今後のお楽しみだ。
――よし。
そして。
男の死体があった場所に――
視線を向ける。
ずっと気になっていたアイテムが――
そこにある。
男が着ていた――
黒いフード付きのローブ。
――ふふふ。
これぞ――
ネクロマンサーに相応しい。
俺はローブを着込み、フードを被る。
なに、この興奮。
熱い気持ちが――滾りやがる。
冥府の覇者が今、誕生したのだ。
俺はゆっくりと。
皆に聞こえるよう――
言葉を発した。
――我は闇の中より降臨し、混沌なる冥界を統べる者。
――古の呪文に挑み、究極の禁忌をその手に宿す者なり。
――我が漆黒なる深淵の子らよ!
――この世を闇で覆いつくすのだ。
ローブを翻し――
――我が眷属達。
ここで一拍置く。
―――蹂躙せよ!
レイ達を――
ビシッと指差す。
完璧。
――パーフェクト。
スーパーグッド。
レイが、俺の姿を見て目を大きくする。
ふっ、とうとう俺に惚れたな――。
「シン――。」
「――フルチン」
「はっ……」
下を見る。
「ぐあああああああ!」
灼熱のごとく――
俺の頬が染まる感覚。
俺は全身の力が抜け――その場で崩れるように仰向けになった。
「さぁ、今すぐ俺を殺せ」
レイとマリは――
少し気まずそうな顔。
アスカは――
横たわる俺に。
せっせとパンツを履かせていた。
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