第5話 アスカの骨密度
俺――
自称ネクロマンサー。
男。
十四歳。
レイ――
ゾンビ。
女。
十七歳。
アスカ――
スケルトン。
婆。
八十二歳。
そして――
ペット枠のマリ。
ゾンビグレイウルフ。
雌。
年齢不詳。
***
マリは、レイにぶっ殺されたあと、ゾンビ化された。
だから、ペットとしては申し分ない。
少しデカいが。
なにせ、食費がかからない。
ま。
俺たちもだが――。
アスカは、俺が自分の骨だと思ってリザレクションをかけたら、実は他人の骨だった。
その結果、予定せずに復活した八十二歳のババアだ。
羨ましかったのは、髪があること。
俺はつるっつるの、よくある頭蓋骨らしい。
「ですじゃ」という話し方からして、ババアムーブ全開。
そしてレイ。
元々、超のつくほどの美人だっただけあって、回復させたら色んな意味で眩しすぎた。
すっかり腹からはみ出ていた中身も、ひっこんだ。
胸当ての上からでも隠せないふくよかな胸に、引き締まった腰。
細長いへそがセクシーだ。
そして、プリケツ。
さらに、すらりと伸びた脚。
青白い肌も相まって、趣向によってはサキュバスと見間違えそうな容姿だ。
ただ、性格がアレなのが残念だが。
***
――そういえばレイ。
――お父さんのところに行かなくてもいいのか?
俺は、生前のレイが残した最後の言葉を思い出した。
――たしか、「父さん……」って言ってただろ?
「あいつはくそ親父。
次に会ったら、殺す」
――えええええ?
――なんで……?
「あいつ、私の稼いだ金を全部盗んだ」
〔そりゃ、びっくりですじゃ〕
――でも、最後に「父さん」って言うくらいなんだから――。
「父さん。 次に会ったら絶対、ぶっ殺す。と言った」
――なんて苛烈な最後のお言葉。
レイから、もう少し詳しく事情を聞いた。
将来のために冒険者として貯めていたタンス預金を、親父がごっそり盗み、ギャンブルに使い込んだらしい。
それを知ったレイはブチ切れた。
賭場で遊ぶ親父を見つけ、半殺しにしたところで、客や店員に止められたという。
そして森に大物狩りへ出かけ、一発逆転を狙ったわけだが――。
「逆に、狩られた」
――あれま。
「マリに……」
マリがビクッと起き上がった。
そして、いつでも逃げられるよう身構える。
そういえば、レイはグレイウルフに致命傷を負わされ、この洞窟で息絶えたんだった。
俺のリザレクションで復活したレイはパワーアップ。
その後、レイを襲ったグレイウルフを探し出し、撲殺した。
そしてレイは、復活したグレイウルフをマリと名付け、勝手に下僕にした。
――まぁ。
――みんな色々あるもんだ。
***
マリはレイに撲殺され、ボロボロだった。
だから、少し身綺麗にしてあげようと、ダーク・リカバリーの魔法をかけた。
すると、額の緑の石まで――。
ポロリ。
と取れてしまった。
レイが、輝く緑色の石を残念そうに拾う。
「可愛かったのに。 残念。 もう一度嵌める」
クゥン――。
キャンキャンキャン。
〈無理、無理、むりぃ~〉*俺の意訳
マリが泣き叫びながら、洞窟から飛び出していく。
レイがマリの額にどうやって石を埋めたのかは知らない。
額の石の周りから血が滲む姿を見ると、怖くて想像もしたくない。
マリには相当なトラウマだったようだ。
そして、マリが逃げ出す勢いでアスカにぶつかり、アスカは弾き飛ばされた。
ガシャガシャガシャッ!
――バラバラになった。
――おぃ――何やってんの。
〔ご主人。 元通りにお願いですじゃ〕
――自力で戻れるだろ、スケルトンなんだし。
〔ご主人冷たい。 しくしく〕
――泣き真似が全く可愛くない件について。
――しかたねぇなぁ……。
俺は、アスカの散らばった骨のところまで歩く。
――ダーク・リカバリー!
すぐにアスカは元通りになった。
〔ありがとですじゃ。 チュッ♡〕
俺の頬骨に、アスカの歯がガチッと当たる。
――うげぇぇぇえええええええ!
――なにすんじゃボケェ!
――このエロババアがぁぁああ!
〔うふっ。 てへぺろっ☆彡〕
――ヒール!
〔ぎゃぁああああ、熱い熱い! 勘弁じゃぁぁ〕
――ったく。
――マジで焼き払うぞ。
***
ちょっと、アスカの骨が思った以上に脆い。
すぐ折れる。
骨が外れる。
そのたびにダーク・リカバリーで治すんだが、頻度が高すぎる。
――年齢的に。
骨粗鬆症の疑い、大。
さて、どうしたものか。
骨の密度を高める魔法なんて、聞いたことがない。
ま、やってみるか。
――アスカ……ちょい、こっち来て。
〔はい、なんですじゃ〕
――お前、骨が脆いから強くする魔法を考えてみた。
レイやマリも集まってくる。
〔おお、ご主人。
優しいですじゃ〕
「お手並み、拝見」
ガウッ。
〈がんばれ〉*俺の意訳
――いくよ……。
アスカを見つめる。
――グレート・ボーン・デンシティ!
*great bone density――素晴らしき骨密度。
〔かもーーん!〕
数秒経過。
〔…………〕
「…………」
――…………。
クゥン。
〈しょんぼり〉*俺の意訳
――はい。
――解散!
魔法の名前を考えただけじゃ、やっぱりダメだったか。
「シン。 バカなの?」
――くっ。
――失敗は成功の母って言うだろ!
――ちくしょう。
――馬鹿にしやがって。
考えろ。
時間はある。
というか、無限にある。
アスカの骨を丈夫にするのだ。
***
悩むこと三日。
魔法なんて、作り方を知らない。
では、どうすればいいのか。
長期間、牛乳を飲むという手もある。
時間は無限にある。
いつかは骨も丈夫になるだろう。
しかし、あいつはスケルトンだ。
飲んでも、顎から牛乳がダラダラと零れるだけだ。
そんなことを、俺は考え続けた。
――――。
近くでは、マリがアスカに体当たりしてバラバラにしていた。
それをレイが足の先から組み立てる。
まるで立体パズルだ。
そんな遊びを、三人とも楽しそうにやっていた。
***
そして俺は、ついに画期的な方法を閃いた。
俺の魔法では骨を硬くできない。
なら、硬くしてもらえばいいじゃん!
――的な。
――なぁ、レイ。
「――却下」
――まだ何も言ってないだろ!
「――なに」
――あのさ。
――コカトリスかメデューサとか、この辺にいない?
「……なぜ」
――やつら、魔法みたいなもので相手を石にするだろ。
「ん――」
――で、奴らがアスカを石にするんだよ。
――だから、骨も硬くなる。
〔それは名案ですじゃ〕
ガゥッ。
〈ナイス!〉*俺の意訳
――おお、アスカとマリも聞いてたのか。
みんな、期待に満ちあふれた顔をしている。
――骨とゾンビだけど。
レイは、ふぅ、と一拍溜息をつく。
「バカシン」
――バカは余分だろ!
「アスカ。 目が無い。 視線が合わない」
…………あ。
「はい。 解散――」
マリとアスカが散っていく。
――ああ……。
――俺の三日間が。
***
魔法が作れないのなら、既存の魔法を何とか思い出して試すしかない。
普通の人間なら、骨が弱い場合はカルシウムを摂取したり、筋肉をつけて骨への負担を減らしたりするのが一般的だったと思う。
それなら――。
『受肉』。
要するに、肉体を持つということだ。
少なくとも、アスカは骨だけの今より丈夫になるはずだ。
しかも、レイを見ていて気づいたのだが、リザレクションでゾンビ化すると並外れたパワーを持つようになる。
俺の推測だが、死んで復活すると脳のリミッターが外れて、桁外れのパワーが出る――んじゃね?
さすれば、アスカも骨の弱さなど気にならないはず。
俺は『受肉』について考え、過去の魔法の記憶を必死に辿った。
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