第49話 黒の軍団、誕生
「おおおお、すげぇ!」
俺たちは今、町の外にある林を訪れていた。
俺が手先の器用なアスカに頼んで作ってもらった、マリ専用武器『ダブル・ソード』。
今日はその試し切りをするというので、俺たちは見学に来ていた。
ダブルソードを作ったアスカが言う。
「一番大変だったのが、マリの歯型を取って咥え部分を作ったことですじゃ。だから、しっかりと口にフィットするので、戦闘中に落とすようなことはないはずですじゃ!」
よく、ホホジロザメのようなマリの歯型を取ったものだと感心する。
咥え部分から延びた刃は、左右それぞれ六十センチくらいか。
咥え部分の長さを入れると、武器の全長は一メートル五十センチ近い。
マリがダブル・ソードを咥えた姿だけでも、かなり強者の圧がある。
見た目のインパクトもさることながら、実際の戦闘能力を見なければ始まらない。
「では参るでござる!」
イヴァンの掛け声とともに、マリが加速する。
あっという間に宙へ駆け上がった。
相当練習したのがわかる。
マリはイヴァンを乗せたまま、林の中の木を蹴って飛び移るように移動する。
その残像が消えたあと、バタバタと大木の枝が落ちてくる。
「え? 斬撃の音は?」
「高速と、極限まで研ぎ澄まされた刃の滑らかさで、音すら立てずに切断するでござるよ」
さっと降りてきたイヴァンが、マリに騎乗したままそう話した。
「す、すごい――」
しかも、今の攻撃ではイヴァンは何もしていないという。
もしここにイヴァンの攻撃まで加わったら……ものすごい威力になるのは間違いない。
「さらに! ですじゃ。このダブル・ソードの特徴は折りたためることですじゃ!」
「マリ、やってみるですじゃ」
マリはダブルソードを地に突き刺すと、咥え部分にあるボタンを押して器用に半分に折り畳んだ。
そして、折り畳んだダブル・ソードを咥えたまま、左足に巻き付けた鞘に差し込む。
なんと、マリはダブル・ソードの脱着まで単独でできるのだ。
「これは驚いたのう」
「マリ、凄い」
「マリちゃん、カッコいいよ」
皆が絶賛するので、マリも嬉しそうに尻尾を振る。
「開発したわしにも称賛が欲しいのですじゃ~!」
アスカがいじけていた。
***
「出でよ、死の軍団!」
今日も魔力総量の増大訓練を続けている。
――午前中だけで、もう十二回目だよ。
まぁ、暇ってのもあるが、早くリッチを召喚したいのだ。
訓練を行うたびに軍勢が数人増えている。
俺は十二回目に召喚した死の軍団の人数を数え始めた。
数えやすく整列させているとはいえ、面倒くさいことこの上ない。
縦横を二、四、六、八と数えて計算し、一番奥の端数を個別に数えていく。
「お、さっきより3人増えたか」
「――ん?」
俺は走って軍団の最後尾へ行く。
ジェネラルたちのとなりに一体、ボロボロのローブを被った奴がいたのだ。
「お前、リッチ?」
――コク。
「まじか!」
「うぉぉぉおおおおおおおお!」
俺はまるでキノコ君の『テンションぶち上げ胞子』でも浴びたかのように、その場で飛び上がり、喜んだ。
「シン、何事?」
屋敷の裏口からこちらへ歩いてくるレイ。
「やったぞレイ、とうとうリッチ出現したぞ!」
「ふーん、どれ?」
レイは興味無さそうに聞いてきた。
――お前、俺がどんだけ努力してたのか見てただろ。
「こいつだよ、ローブ着てるやつ」
「ん。うっ――汚なっ!」
その対応に俺はがっくりとするが、隣でリッチも俯いていた。
「シンよ、やっとじゃな」
ミサトも窓からティーカップを持ちながらこちらを見ていた。
「レイがさ、せっかく召喚したリッチを見て、汚いとか言うんだぜ! ったく」
「ボロボロ。事実」
「それならば、もっと魔力を込めればよい」
――魔力を込める?
「わからぬか。簡単に言えば、召喚する数を減らして全魔力を使えばよい」
「すると、どうなる?」
――語彙力が無い俺には、いまいちピンとこない。
「装備や能力が向上するのじゃ」
「な、なにい!」
「それを知らずして、骨どもを召喚していたほうが驚くわ」
――なんか前にも言われたような……。
よし、一旦軍団を消して、召喚する数を減らしてみるか。
「やってみるなら、早うやれ」
「ちょっとディレイがあるから待て!」
全魔力を使って召喚しているので、大体十五分はディレイだ。
「ふっ、軟弱な……」
今度は召喚する軍勢を今までの三割くらいに減らし、全魔力を使う。
「よし、いくぞ。出でよ、死の軍団!」
地から湧き出る軍団。
スケルトン兵は剣だけ持っていたが、今は銀の鎧に兜、盾まで装備していた。
スケルトン槍もアーチャーも同じく、装備が増えて弓も金属製だ。
ジェネラルも豪奢な軍服を身にまとい、銀色のサーベルを腰に差している。
そして十数体のリッチたち。
さっきのボロ布ではなく、派手な装具と豪奢なマントを羽織り、頭には冠が乗っていた。
しかも、今は浮遊している。
これぞ、俺の描くリッチ。
見栄えも富豪だ。
「す、すげえ……」
僅か百五十体程度の軍勢だが、めちゃくちゃ強そうで格好いい。
「ほう、こうして見ると少しはやれそうじゃの」
「ん。強そう」
俺はとうとう魔力総量が増え、念願のリッチが召喚できるようになったのだ。
よし、温めていた構想をぶち上げる時が来た。
「俺はここに宣言する!」
俺はレイとミサトを見ながら、握りこぶしを高々と上げる。
「今後、死の軍団は黒の軍団と呼ぶことを!」
――レイは無言で立ち去り、ミサトはそのまま窓を閉めた。
***
屋敷裏の湖畔。
俺は血肉の茶会の席で、ミサトに頭を下げていた。
「ふむ。魔力総量を急激に上げる方法のう……」
「このままじゃ、黒の軍団の数が……」
全力で黒の軍団を召喚しても最強装備の軍勢は僅か二百足らず。
俺的には少なくとも千体は欲しい。
毎日何回も召喚を繰り返し、魔力総量は増やしてはいるが微々たるもの。
「今の練習を三百年ほど続ければ、結構な量になるぞ?」
「長げえよ!」
こいつら長生きし過ぎで、時間の感覚がバグってる。
「そうじゃの。かなりの苦しみがあるが、やってみるか?」
「どうやるんだ?」
「なに、簡単なことよ。妾の魔力を高圧縮でシンに送り込むだけだの」
「――俺に魔力を送り込む?」
「風船に水を入れ続けたらどうなる?」
「風船が限界まで膨らんで、爆ぜる」
ごく当たり前の答えをする。
「それよ。爆ぜるまで魔力を送り込むだけじゃ」
「それって危険なんじゃ?」
「そりゃのう。魔力総量は風船ほど伸びないから、かなりの負荷じゃろう」
「もし、爆ぜたら?」
「爆発して召されるのう」
――召されるって……怖っ。
「あの、もう少し優しい方法はないですかね?」
「まぁ、毎日五パーセントくらい増やして一旦止めて、翌日にまた五パーセント増やすとかなら、多少のリスクは減るが」
「それくらいならいけるかな。」
「無理やり広げるのじゃ。かなり苦しいが、良いのか?」
――俺には虚無があるし。
「なんとかやってみる」
「シンよ、虚無は無駄じゃぞ?」
「え……。」
「あれは自分が消滅しても気付かんからの」
麻酔を打ったまま心臓が止まって昇天する、みたいな感じか。
「わかった。やる! まずは一パーセント増量からで」
「ばか言うでないわ! 妾も暇ではないんじゃぞ。そんなにも付き合っていられるわけなかろう。やるなら五パーセントじゃ」
「や、優しくしてね……」
こうして俺は魔力総量を急激に高める特訓を始めたのだった。
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