第47話 シンマチの十か条
俺たちの屋敷にシンマチの町長、サンズが来ている。
町の運営方針について意見交換をしたいと言うのだ。
「方針か……」
日頃考えたことでも口にするか。
「率直に言う。基本方針は『弱者が安心して暮らせる町』とする」
「はい」
サンズは当たり前だと言うように頷いた。
「細かい基本ルールは以下の十か条だ――」
①町長と議会を中心とした政治を行う
②町には司法府、行政府、立法府の三つの機関を置く
③月の墓標は政治には関知しない。
ただし、外交、防衛、予算、大規模事業などの重要な案件は都度報告する
④町内の警備、防衛は月の墓標が担う
⑤種族差別、奴隷制度は認めない
⑥一部のアンデッドにも人権を与える
⑦犯罪は厳罰化する
⑧子供の教育を義務化する
⑨町内では武器の持ち込み、使用は許可制とする
⑩予算の五割は弱者保護、福祉に充てる
「あの、一つだけ伺っても?」
サンズは疑問を口にした。
「アンデッドも人権……とは?」
「ああ、それか」
予想していた質問に俺は答えた。
「俺はアンデッドを使役するネクロマンサーだ」
「はい、存じ上げてございます」
「一部のアンデッドには自我があり、この町のために色々と働いている」
「あ、なるほど。我々の仕事を手伝ってくれている方々ですね」
「うん、そうだ。彼らにも人ほど複雑ではないが、心もある。それに俺の影響下にはあるものの、基本的には皆と大して差は無い」
「――了解いたしました」
さすが霊媒師だけあってアンデッドに対する見方は柔軟なようだ。
「とはいえ、まだまだこの町の人数は二千人足らず。人材の不足は否めませぬ。シン様はどのようなお考えを?」
その通り。
だから俺は準備していたのだよ。
「うん、足らない人材については俺が自我を持つアンデッドを送り、皆の仕事を手伝わせる。もちろん不眠不休で働けるので、かなりの戦力になるはずだ」
「なるほど、それは助かります。しかし、インフラ工事、雑務などでも相当な人材が足りていません。その辺も大丈夫でしょうか?」
「単純作業は自我を持たないスケルトンなどを派遣する。だから自我持ちと一般労務の必要人数を調べ、俺に伝えて欲しい」
「はい、わかりました」
サンズは仰々しく頭を下げた。
「あと、アンデッドの貸し出しは代わりの人材が確保できるまでだ。永遠に貸し出すことは無いので、そのつもりで考えておいて欲しい」
「もちろんでございます。では、これにて失礼いたします」
いそいそとサンズは部屋を出ていく。
――こんなもんか?
――ん。大体いい。
俺は最近覚えた念話でレイに確認した。
――後日、聞きなれないルールに戸惑ったシンマチの役人たちが俺に教えを請いに来た。
まぁ、絶対君主制が普通の世界だし、普通はわからないよね。
俺は学校で習った知識を必死で思い出し、皆に伝えたのだった。
***
早速、俺宛にサンズから書面が届く。
――住民約百人に対して一人、議員を選んだこと。
――副町長や三府それぞれの長を町長が指名したこと。
――町の開発計画を設計技師と冒険者組合と行政の三者で決めていること。
――当面の間、レイに町の開発や運営のアドバイザーに就任してほしいこと。
――各施設の建設と各行政のサポートで、自我持ちアンデッド四十七人、一般アンデッド約二百人を貸し出して欲しいこと。
アドバイザーにレイか。
サンズも分かってらっしゃる。
――俺の無能を。
今、俺のアンデッド召喚人数はようやく三百五十を超えたあたりだ。
サンズのアンデッド貸し出し要請と、町の警備に必要な人数はなんとかなりそう。
それにしても、いつになったら俺は魔法使い系を召喚できるのだろうか。
***
レイがあまりにも忙しいので、最近はアスカとマヤと一緒に過ごすことが増えた。
マリとイヴァンは相も変わらず町を巡回中だ。
犬系の特徴なのか、巡回というよりもイヴァンを乗せてそこらじゅうを走りまくってるイメージ。
広大な敷地とはいえ、町はドッグランじゃないっての。
ミサトも資材創成や建築補助などの仕事をサクッと終わらせ、キノコ君を侍らせて血肉の茶会で優雅に紅茶を飲んでいる。
ミサトは毎日魔法の講師もアスカたちにやっているのに、いつ見ても余裕がある。
できる女はやはり違うな。
俺はなにしてんの?
と、言われれば。
――モブってます、としか言えない。
モブ万歳!
と言っても、魔力量を上げる訓練は続けている。
魔法使い系を召喚できてこそ、ネクロマンサーだからだ。
ネクロマンサーがネクロマンサーを召喚するって、可能なのだろうか。
ま、今はいいか。
俺は政治には興味ないし、金にも執着しない。
人を統べるような支配欲もないし、性欲もな……。
ん?――。
人間の三大欲求って睡眠欲、食欲、性欲だったはず。
アンデッドって睡眠欲も食欲も性欲も無い。
これが人間を辞めるということなのか。
――ちょっと凹んだ。
***
「レイ、儲かってまっか?」
机で事務仕事をしているレイに横から声をかける。
「ん。ミサトが魔法で作る石畳と軍団たちの労働力が、全てサンジオンからの支払いだから結構大きなお金が入る」
「いつ完成するわけ?」
「ほとんど完成。あとは街灯の魔道具を設置するだけ」
「え。むちゃくちゃ早いな」
「不眠不休――」
ああ、そうか。
軍団には休憩すら必要ないもんな。
「それと――」
レイが話を続ける。
「工事に参加していた獣人や人達から、シンマチの噂がサンジオンにも流れてて、こっちで暮らしたい。商売したいって人が増えてる」
「そうなのか」
人が増えれば奉公に出してる軍団の回収も早くなるし、良いことだ。
***
今日はミサト講師による魔法勉強会の成果を披露目してくれると言う。
俺が暇だからという理由では決してない。
お披露目会は屋敷と湖畔の間の敷地で行った。
まずはアスカだ。
「アスカには自身の身体強化やアジリティを向上させる魔法と、光学迷彩を中心に教えたでの」
アスカは立ち位置から十メートルくらい離れたところに何本か立てておいた丸太をターゲットにしたようだ。
「いきますじゃ!」
身体強化とアジリティ向上のバフを自らにかけたらしく、アスカは一瞬だけ薄黄色の光に包まれた。
すぐさま光学迷彩によって不可視となる。
――光学迷彩か。
これは知っている。
だが――。
ダッ!
一瞬、風を切るような音が響いた。
「……え?」
俺が音のした方向を見る。
丸太が、綺麗に真っ二つになっていた。
「おお、すごっ」
俺は思わず声を上げた。
――いや、待て。
これ、アスカがやったのか?
俺の知ってるアスカって、こんなに速かったっけ?
光学迷彩が解け、自慢げな顔のアスカが現れた。
「あとは、動いた際の音を消す『サイレント』を覚えなければの」
ミサトも納得顔でアスカを見た。
「次、私行きます!」
元気よくマヤが手を挙げた。
「マヤには本人の希望で水系の魔法と火系の魔法を教えたでの」
「本人の希望……」
マヤは腰を少し落とし、両手を重ねて丸太に向けて構えた。
「ウォータージェット!」
マヤの手から、勢いよく水の束が飛び出した。
太い水流が前方へ伸びていく。
だが――。
水流が徐々に細くなっていく。
太かった水の束が、みるみるうちに絞られていく。
最後には一本の糸のような細さになって、物凄い勢いで射出される。
――ズバッ!
丸太が綺麗に真っ二つになった。
「木や石程度なら簡単に切断可能じゃの」
「おおおおー」
またしても感嘆の声。
マヤを応援していたキノコ君たちがアイアイ!と飛び跳ねる。
――マヤ、すげえ。
マヤは両手から出る水を止め、同じ姿勢で今度は湖に両手をかざす。
「ファイヤーボール!」
今度は、直径三十センチほどの火の玉がマヤの手の前に生まれた。
ゴウッ――。
熱気を撒き散らしながら、火の玉が射出される。
放たれた火の玉は直線を一気に進み、やがて弧を描いて湖へ落ちる。
――ドォン!
湖面が大きく弾け、水柱が立ち、蒸気が一気に沸き上がった。
できる子だとは思っていたが、まさかここまでとは――。
「なんでこの魔法を選んだんだ?」
俺は素直に疑問をマヤにぶつけた。
「はい、水も火も家事をするにはめっちゃ便利なんですよー!」
「そっち?!」
その場でキャッキャッするマヤを見る。
もう……マヤが可愛すぎて目に入れたい。
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