第45話 キノコ君は正義
俺たちが北の屋敷を整備し、その周辺に新しい町を造り始めてから二か月が経った。
移住者も第三陣まで受け入れ、住民は六百名前後にまで増えている。
町づくりは今も突貫工事が続いているが、商店も何軒かでき、食堂まで営業を始めている。
物流については、必要な物資をギルド経由で調達し、こちらからは湖で獲れた魚などを出荷している。
ミサトの転移魔法に頼らなくても町が自立できるよう、今では地下道を使い、荷車で片道半日をかけて物資を運んでいる。
湖の魚は脂がのっていて、とても美味いと評判だ。
そのため、住民の三割ほどが漁業に従事するまでになっている。
レイの胸元にある水色の石からは、
『ふん、余の加護で魚が育つのだ』
などと聞こえてくるが……真偽のほどは怪しい。
水竜の件が片付いた後、俺はマリとイヴァンに、新たな精霊を連れてくるよう頼んだ。
だが、この近隣には精霊の加護を受けた土地がなく、精霊そのものを見つけることもできなかったという。
仕方がないので、ギルドには肥料の調達も依頼した。
肥沃な土地とはいかないだろうが、それでも畑に作物の苗を植えるところまでは進んでいる。
できれば自給分だけでなく、余った作物を売れるくらいの収穫量になってほしい。
旧グスタフ城では、今も弱者の保護を続けている。
相変わらず獣人の比率が圧倒的に多いが、それでも二十人近い人族が暮らしており、今では仲良く生活している。
レイに聞いたところ、移住や保護を希望する者の審査には、約一か月かかるらしい。
城の保護所で一か月のお試し期間を設け、その間に共同生活を送ってもらい、新しい町での生活に適しているかを判断しているとか。
まあ、秩序をぶっ壊すやつはどこにでもいるからな。
選民意識を肯定するつもりはない。
それでも、集団で暮らす以上、必要なことだと思っている。
***
冒険者ギルドの副ギルマス、セドリクの情報によると、国の軍事的な動きは今のところ特にないとのこと。
何やらアヌグエラ教会と王国の軋轢が表面化し、俺たちの対処どころではないらしい。
これはこの国のみならず、他国でも似たようなことが起きているそうだ。
教会勢力ってのは、どんな世界でも面倒な連中だと思う。
また、旧グスタフ領は城が結界のせいで使えないため、代わりに統治したいという貴族がおらず、国側も同じ理由で新しい領主を任命できない。
そのため、しばらくは安泰だろうとセドリクは言っていた。
仕方なく、冒険者ギルドが国の代官として、グスタフ領の管理をこなしているそうだ。
これは俺たちには願ってもない朗報だ。
「シン様!」
マヤとアスカが俺のところまで走ってきた。
その近くにはマリとイヴァンが立っている。
「どした?」
「今、マリちゃんとイヴァン様と一緒に、まだ見ていない、ずっと奥にある町の敷地を見に行こうって言ってきたんです」
「ああ、ミサトが作ってくれた、町の境界線というか、柵の内側をぐるっと回ってきたのか」
俺もしっかりと確認はしていなかったが、随分広い面積になってるのは知っていた。
「それがですじゃ、すんごい事になってたんですじゃ!」
「すんごいこと?」
「はい、柵というか……」
「城壁ですじゃ、あれは」
ま、まじか――。
としか言えない。
「ちょっとミサトを連れて見に行こう」
「ミサト様を呼んできます!」
***
ミサトは屋敷の裏手の湖畔で血肉の茶会をキノコ君たちと楽しんでいたそうだ。
――なぜ、キノコ君?
「なんじゃ、妾は忙しかったのにのう」
「アイ、アイ!」
怒ってないキノコ君たちは今日も可愛いので許す。
「なんか町の柵が城壁になってるとか聞いたぞ」
「ああ、それのう――」
なんか含みのある言い方。
「妾、あまりにも暇で――、どんどん強化してしまったのじゃ」
――ズッコーーン!
と、マヤとアスカがずっこけた。
「お前、他にもやることあっただろ!」
「他にも?――なにが?」
「道路への石畳の敷設、建屋の石材の創成、家具や調度品の製造などなど……」
「もう、今ある分は全部終わってるでのう」
「え……。」
ミサトさんは、有能だった。
俺たちはマリに跨り、屋敷から見て湖畔の東へ向かった。
しばらく進んで――
――絶句。
目に入ってきたのは、柵というより城壁だった。
湖を北側とすると、城壁は東・南・西の三方向を囲むように造られている。
北側だけは城壁がなく、湖そのものを天然の防壁として利用しているようだ。
高さは五メートル近くある石造りの外壁。
その内側には、人が二人並んで歩けるほどの幅を空けて、高さ四メートルほどの内壁が設けられている。
内壁には二百メートル間隔ほどで梯子がかけられており、そこから上へ登ることができる。
さらに内壁から外壁側へ移動すれば、外壁の陰から弓などを放つことも可能だ。
外壁と内壁の間の通路まで含め、城壁そのものが防衛設備として造られている。
アスカが城壁と言ったのも頷ける。
「俺はミサトに任せっぱなしで全貌は見てないんだけどさ、城壁の長さってどのくらいなわけ?」
「しっかり測ったわけじゃないが、大体五キロくらいかのう」
「デカすぎるだろ!!」
「前にシンも良いと言ったであろう」
――ん? そんな許可した?
俺は過去のミサトとの会話を高速回転で巻き戻す。
―― ▶再生
――「シンよ、魔物除けの柵は妾が設置したでの」
――「かなり広くないか?」
――「町一個分だからのう。土地はあっても問題ないであろう?」
――「ま、そうだな」
「うっ……言ってました……」
「だろう?」
この広さなら十万人くらい住めるんじゃね?
「あとな、各方面の中心に大門、角から大門までの中間に小門も作っておいたでの」
「そ、それは助かります……」
「ご主人もすっかり頭が上がらないですじゃ」
「うるせー!」
獣人の設計技師に色々と都市計画をお願いしておこう……。
***
「え?キノコ君たちが大人気?」
俺はリビングでマヤからそんな情報を得た。
「はい、町の人が癒される~って」
まぁ確かにな、可愛いし。
――怒らなければ……だが。
「拙者の眷属が皆に喜ばれるのは、とても嬉しい事でござる」
イヴァンも顔が闇みたいで目だけ光ってるので、表情はわからんけどなんか嬉しそうだ。
「だから最近、キノコ君をよく見かけるのか。なんか納得した」
「みんなから好かれるから、今度キノコ君グッズを販売しようって人もいるくらいなんです」
――それはちょっと大袈裟では。
「キノコ君は――正義」
久々に帰ってきたレイもキノコ君を膝に乗せて抱きながら呟く。
「皆ミーハーだのう――浮かれとるわい」
だらりとソファーに座るミサトが、隣に座るキノコ君の頭を撫でながら言う。
というか、周り見ると、うちの女子今全員キノコ君と一緒にいる。
――ダメだ、女子は皆キノコ君に汚染されている。
「イヴァン、キノコ君って最大何体出せるの?」
「拙者の調子にもよるでござるが、きっちり六体でござる」
――イヴァンの調子関係ねえじゃん。
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