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第43話 湖畔の新天地

 俺たちは転移で北の屋敷へ来ていた。


 屋敷もしっかりと維持されていたわけではなく、一部が朽ちかけている。


 ちょうど俺たちが以前住んでいた家と同じくらいの大きさだった。


 ここは将来、俺たちが住もうと決めているので、しっかりと直しておきたい。


「少し中を覗いてみようか」


 中に入ると、埃だらけでカビの匂いも凄かった。


「これは妾では無理じゃ。早く空気を入れ替えねばのう」


 ミサトが魔法で屋敷の空気ごと入れ替えた。


 俺は再び辺りを見渡した。


 うん――。


 少し建付けを直せば、十分暮らせそうだ。


 ――まぁ、万が一に備えてグスタフが用意した屋敷だしな。


「ちょっとシン、来て」


 レイがソファの下を見ながら俺を呼んでいた。


「ここ、たぶん隠し財産あると思う」


「まじか!」


 レイは金目のものを嗅ぎ分ける能力が、なぜか高い。


 だから俺たちの金庫番を任せているのだが。


 怪力のレイは片手でソファをずらすと、床板の継ぎ目に指を入れる。


 そして、床の一部を一気に上へ引き上げた。


 すると、その下から収納ボックスが現れた。


「ん。――何かある」


 ――レイ様、お見事です。


 レイは収納ボックスの蓋を開けた。


 残念ながら金目のものではなく、一本の巻物が入っていた。


 かなり古い巻物らしく、触るとボロボロと表面の飾り紙が剥がれ落ちる。


 慎重に、少しずつ巻物を広げていく。


 そこには『双子石と忍びの里』という題名と、その伝承のような話が書かれていた。


「なんだこれ」


「ちょっと見せて欲しいですじゃ!」


 ずっと黙って様子を見ていたアスカが、急に巻物に興味を示した。


「これ、忍びの里の伝承ですじゃ」


「なに、それ」


「わしの住んでた村でも聞いたことがある、おとぎ話みたいなものですじゃ」


 期待していたわりに、変なものが出てきただけだったので、皆すっかりこの巻物には興味を失っていた。


「これ、わしがもらっても良いですじゃ?」


 俺は周りを見ても、誰も何も言わないことを確認してから答えた。


「いいよ。持ってったら?」


「ありがとですじゃ! 凄く懐かしいのですじゃ!」


 ま、喜んでくれて何より――。



     ***



 屋敷の裏には巨大な湖が広がっている。


 対岸が見えないほどだ。


 対岸の向こうには、魔物が棲む森がある。


 屋敷の正面には、広大な荒地が広がっていた。


「確かに、ここは誰も住まないような荒れた土地じゃの」


 ミサトは一面の荒地を見ながら呟いた。


「ああ、だからこそ開拓のし甲斐があるんだ」


「シンは前向きじゃのう」


「ご主人、わしも頑張りますじゃ!」


「ん。――やるしかない」


「はい。頑張りましょう!」


 いつも元気なマヤの声には癒される。


 イヴァンが荒れた地面に手を触れている。


「この地には精霊がおらぬ」


「ん? どういうこと?」


「普通はどんな地でも精霊がいるのでござる。棲む精霊の強弱はあっても、いないというのは考えられないのでござるよ」


「何か理由がありそう――」


 レイが胸元の水色の石のペンダントを握り締める。


「それに、ここへ来てからずっと石が震えているみたい」


「震えているとは、どんな感じですじゃ?」


 アスカがレイに近づき、握り締めた石を見る。


「小さな振動というか、そんな感じ。なぜなのかはわからない」


「恐らく他の石と同じく、何かに共鳴でもしておるのかの」


「レイ様、不快感とかあるのですか?」


 心配そうにマヤが尋ねた。


「――ない。大丈夫」


「精霊がこの地にいないことと、レイの石の振動……何か関係があるのかもな」


 とりあえず、レイが大丈夫なら調査は後だ。


 まずは土地の開発をしなくてはならない。


 俺はスケルトンたちをできるだけ召喚し、整地作業にあたらせた。


 ――アンデッドをこんな使い方していいのか?


 明日からは、獣人たちの第一陣、百五十七名がやってくる。


 中には建築士だった者、左官屋、調理師、農民なども混ざっていた。


 彼らには、この土地を切り開いてもらわなくてはならない。



     ***



「シンよ、魔物除けの柵は妾が設置したでの」


 宙に浮かびながら、ミサトが地平線の方から飛んできた。


「かなり広くないか?」


 柵が全然見えないので、かなり広範囲に作ったのだろう。


「町一個分だからのう。土地はあっても問題ないであろう?」


「ま、そうだな」


 屋敷の傍では、物凄い勢いで建築や道路整備が始まっている。


「みなさーん! そろそろご飯ですよー!」


 マヤたちが大量に炊き出しを行い、お腹いっぱいになるまで食事を提供する。


 皆、大変そうだが笑顔だ。


 スケルトン騎士《ナイト》が、骨馬に切り出した木材を運ばせている。


 アンデッドたちは二十四時間フル稼働なので、建設スピードはかなり速い。


 約三週間後。


 百五十戸の木造住宅と、独身者用の集合住宅を五棟造り上げた。


 商店などの区画も、獣人の設計士が図面を引いた。


 さらに中央広場、公共役場や冒険者ギルドとなる予定地なども区画割りされていた。


 道路はミサトが素材生成魔法で作り出した石畳だ。


 レイは城に残って事務や資産管理に追われ、こちらの現場にはほとんど顔を出すことはなかった。


 昼食が終わり、ひとしきり皆と休憩をしていると、ミサトがやって来てこんな話をする。


「何度雨を降らせても、農作物エリアの土壌が改善しないのじゃ。やはり地の精霊とやらの不在が関係しているのかのう」


「いや、ここまで酷いのはおかしいのでござる。キノコ君に種を撒かせてみても、全く定着しない。まさに死んだ土地でござる」


 イヴァンが言うには、土と水さえあれば、たとえ痩せた土地でも地の精霊は僅かながら土着していくとか。


 それが全くないこの土地は、異常だと言うのだ。


「ここで農業ができないのはまずい」


 俺はようやく、この問題の大きさに気付く。


 ――本格的に調べてみるか。


 念話でレイを呼び出し、この地での石の振動と、地の精霊不在との関連があるのかも含めて調査を開始した。



     ***



「ん。こっちへ行くと振動が少しだけ大きくなる」


 レイは水色の石のネックレスを握り締め、湖畔の方へ歩く。


 俺たちは屋敷を中心に、湖畔をまずは左、次は右へと歩き、レイの石の反応を確かめる。


「ん。どっちも振動は少し弱まる」


「ということは、湖の中心方向に何かあるのかの」


 ミサトは思い立ったらすぐに空中に浮かび、高度を上げた。


「ふむ。湖の中心らしいところに、小さな島と祠のようなものがあるの」


「祠? めっちゃ怪しいですじゃ」


 普通に考えたら、確かに怪しすぎる。


「ミサト、その島は俺たち全員が立てるくらいは広いのか?」


「うむ。直径が三十メートルはありそうじゃから大丈夫じゃの」


「それじゃ全員、転移を頼む」


 俺たちは祠のある小さな島へ移動した。


挿絵(By みてみん)

10月10日  一挙5話公開 18:00に5話同時公開

10月11日~ 毎日3話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

10月16日~ 毎日2話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

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