第42話 新天地への道
勝利にわく城内。
しかし、俺は内心モヤモヤしていた。
ミサト頼りの戦いが、俺たちの戦力不足を物語っている。
――もっと強くならないとな。
少人数対大人数の戦いは、如何に少数精鋭と言えども、数の暴力に飲み込まれる。
こんなのは単純な算数と同じだ。
一人が十人分の働きをしても、十倍の人数を相手にすれば限界がある。
ミサトクラスの化け物ではない俺たちは、仲間を増やすか、もっと強大な力を手に入れなければならないと身をもって感じた。
その手立てを考える前に――今だ。
戦後処理が残っている。
今回は結界が破られたあと、比較的早く決着がついたため、被害としては城門の補修と中庭の修繕くらいだろうか。
戦利品は、討伐軍の装備と兵糧の一部くらい。
得たものに比べ、城門と中庭の修繕にかかる手間は大きい。
籠城戦は、勝っても消耗が激しい――それを身をもって知った。
***
マヤから報告が来た。
「シン様、町の獣人族が多数保護を求めて城内に来ています」
「え、そうなの?」
「シン様が獣人を保護すると宣言し、その情報が広まったあと、討伐軍を追い払ったのを見た人たちが来たようです」
「なるほどね。何人くらい?」
「百人は超えていると思います。これからも増えるかもしれないですね」
「え、そんなに?」
ちょっと驚いた。
「はい」
「しっかりと働いてもらう――」
レイはいつも通り冷静だった。
保護はいいけど、城に収入がないと将来立ち行かない。
どうしようかと悩む。
ふと、冒険者ギルドのガルドとセドリクの顔が浮かんだ。
――ちょっと相談してみるか。
***
「それにしても驚いたな。いきなり部屋に来るとは」
俺とレイは椅子に座った。
俺たちは冒険者ギルドのサンジオン支部ギルマス、ガルドの部屋に来ていた。
ガルドが驚くのも無理もない。
俺たちは転移魔法で室内へ一気に来たからだ。
「お前たちの戦い方は凄かったな。俺たちも魔導士たちの魔法で戦場を俯瞰してたんだ」
「はあ、そうなんですね」
そこからひとしきり、俺たちの戦争について色々と聞かされた。
「――失礼します」
副ギルマスのセドリクが入って来た。
どうやらセドリクが来るまでの雑談だったらしい。
「で、どうしたんだ?」
ようやく本題に入る。
そこで俺たちは今後について話し合った。
***
「――なるほどな。だが、相当厳しいぞ。お前たちは国のメンツを潰したんだ。城を拠点にしている限り国からずっと狙われるはずだ」
ガルドは真剣な表情でそう話した。
隣のセドリクも口を開く。
「私たちの予想では正直、月の墓標では討伐軍には勝てないと思っていたよ。戦死は無いにせよ、負けて逃亡するだろうとね」
現実的な予想だと思う。
何せ、千対五の戦いだ。
ソファーにどっぷりと腰を下ろし、考えるように顎に手を当てていたガルドが話し出す。
「お前たち、城を捨てないか?」
「え?――」
「――どういうこと?」
思わずレイが答えた。
「いやな。あの場所に立てこもっていてもじり貧だ。それを分かっているからここに来たんだろう?」
「まあ、そうなんですけど」
「そこのお姉ちゃん、確かグスタフの資産目録は確認してるよな?」
「ん。全部見た」
「ここから北に二十キロほど行くと大きな湖がある。そこにグスタフの別邸があるのは知っているか?」
「ん。知っている。裏帳簿に載っていた」
「そうか、なら話が早いんだが、その場所にお前たちで町を造れ」
「はい?」
いきなりの話で思考が停止した。
「あのあたりは魔物も多くてな。グスタフが不正発覚時の逃げ場所として用意していた別邸なんだ。あの辺りは広くて何もない。町を造るのにはちょうどいいだろ?」
そんな事いきなり言われても――。
「ちょっと待ってください。なぜ町を俺たちが?」
「なんだ。お前らは獣人保護を宣言したんじゃないのか?」
あ――、そういうことか。
「保護した獣人たちとそこで町を造って暮らすんですね?」
「簡単に言えばな」
ガルドはまだ何か言いたげだった。
「ただ町を造ればいいってわけじゃない。誰からでも守れる町にするんだ」
――ピンときた。
理不尽に負けない居場所。
俺のモブ生活の体現の町だ。
「そうですね。前向きに考えます」
「ああ。あとな、グスタフ城の地下に隠し通路があるのは発見したか?」
俺はレイを見る。
「知らない、聞いてない」
「奴は万が一に備えて、隠し通路から北の別邸まで直接繋げたらしい」
「え? ここから二十キロメートルでしたよね?」
「ああ、奴はそれを十年かけてやりやがった。どんだけ用意周到なんだよ」
「と、いう事は……」
俺はその通路の使い道を考える。
「ああ、好きに使え」
この地下通路から北に移動すれば、誰にも見つからずにそこへ行ける。
しかも、馬車一台分の幅があるらしい。
同行したい獣人も連れていくことが可能だ。
「そういうことだよ、シン君」
いきなりセドリクが、このことを知っていた風に話した。
「え。この計画って……」
「ああ、君たちが国と敵対した時からギルマスと話していたんだ」
ガルドがニヤリと笑う。
さっき考える素振りをしていたのはブラフだったのかよ!
「シンたちが勝っても負けても、国との対立は避けられない。そう考えて、逃げ道を用意しておこうと思っていたんだ」
「討伐軍との戦いが劣勢なら、すぐに話そうと思ってたんだがね」
セドリクは、いつの間にか用意していた移住計画の書類を俺の前に置いた。
「これが俺達が考えた落としどころだ」
ガルドがどうだ、まいったか! 的ないやらしい笑みで俺を見た。
「すぐじゃなくてもいいから、考えがまとまったらまた来い」
「あとな。今、町中で大騒ぎだぞ。お前たちを英雄だと騒いでる」
今度はセドリクがニヤリとする。
「その辺は私が協力させてもらったよ」
きっと俺たちの良い噂を町中にばらまいてくれたんだろう。
「色々とありがとうございました」
俺は頭を下げた。
「――でした」
レイも半端に頭を下げた。
こうしてガルドとセドリクの支援で、俺達はこの難問を脱出できそうな糸口を掴んだ。
***
城内の会議室で、俺たちは今後について議論していた。
「地下を確認したところ、やはり隠し通路を発見いたしました。それを辿り、屋敷と巨大な湖、屋敷と湖の向かいには魔獣の棲む森もありました」
受肉したジェネラルのアダムが報告した。
「まさかギルマスたちが、ここまでわしらを気にかけてくれておったとは驚きですじゃ!」
「保護希望の獣人の皆さんからも、月の墓標は英雄だって言ってました!」
マヤも鼻が高そうに元気よく言った。
町中では俺たちが英雄扱いされているらしい。
だが、そんなことよりも――。
俺たちがこれからどうするかだ。
俺たちだけなら、どこかへ逃げればいい。
だが、保護を求めてきた獣人たちを連れて行くなら、そうはいかない。
それでも――。
「で、俺はこの話に乗ろうと思う」
「賛成ですじゃ!」
「私も賛成です!」
「――シンが決めたらいい」
「妾も良いと思うぞ」
ガウッ!〈賛成です〉*俺の意訳
「では移動の準備をしようか」
俺たちは新たな可能性に向けて歩みを進めるのだった。
***
「了解した。サンジオンの将来にもつながる話だ、協力しよう」
冒険者ギルド、サンジオン支部ギルマスのガルドは、快く俺の頼みを引き受けてくれた。
「でもいいのか? 資産の半分だぞ? これからお前たちも金が必要だろうし」
「はい、構いません。自分たちで稼いだわけでもないですしね」
「そうか。では受け取っておく。有効に使うとするよ」
セドリクも俺の意図を理解してくれたようだ。
俺は彼らに、いくつかのお願いをした。
・城はこのまま結界で覆い、武装していない者しか通れない。
・城内は月の墓標が監視している。
・月の墓標は城を放棄して失踪。表向きはギルドに管理を任せる。
・城は獣人族の保護所としても機能を続ける。
・保護所の希望者、およびシンたちの審査に通った者だけが北の町へ移住できる。
・その運営費用として、セドリクたちに資産の半分を預ける。
・人間、他の亜人でも保護を求めるのであれば、審査のうえ受け入れる。
・ギルドは月の墓標が頼んだ資材などを集め、有償で提供する。
以上だ。
こうして俺たちは、獣人たちを連れて新天地へ向かった。
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