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第3話 その名は――レイ

…………。


「…………」


…………。


「…………」


 沈黙が続く。


 俺は今――


 完全にパニクっている。


「……あなた?」


…………。


「私に話しかけた人。いや……骨?」


 抑揚のない、無機質な話し方。


 少し感情が乏しそうな印象だ。


――俺に話しかけてるようだけど、――残念ながら声を出せないんだよね……


「ん。やっぱりあなた。聞こえる。私の頭の中で」


 ビシッ!


 と、俺を指差す。


――え。まじ?


「ん。本当」


 ――こ、これは。


 異世界でいうところの――念話なのか?


 トクンッ。


 と、俺の胸が脈打つような感覚。


 ――骨だけど。


 すぐに高まる気を落ち着かせる。


 本当に心の声が聞こえるなら――


 彼女と会話せねば。


――あの……変なこと聞くけどさ。


――俺って――頭蓋骨だったりする?


「ん。頭の骨。というか、あなた何者?……お化け?」


――うわっ、質問に質問で返してきたっ。


 しかし。


 俺はお化けなのか? と問われれば――


 なぜか、否定してはいけない気がする。


 ――それにしても。


 予想通り、俺は頭蓋骨だった。


 ナイス、俺の推察能力。


 さらに。


 今まで気になっていたことを、彼女に確認しておこうと思う。


――俺って、人の頭の骨だよね?


「……ん。人の頭」


――良かった、動物の頭だったとか泣けるもん。


 それにしても何か月ぶりだろう。


 言えば――返ってくる。


 この感覚。


 自然と笑みがこみ上げる。


 骨だけど。


 彼女は俺――頭蓋骨を、まじまじと見つめる。


「……あなただよね?」


――え?……


「私を蘇らせてくれた人……骨?」


――はい?……


「意識が薄れていく時……なんとなく声が聞こえた」


――と……言いますと?


「頑張れ、頑張れって……」


 俺は思い出す。


 あっ……。


「あとから『リザレクション』って聞こえた。それは蘇生魔法」


 え。死んでても俺の声が聞こえるもんなのか?


 まぁ。


 同じ死者同士だから?


 ってことで納得しておこう。


 考えても、全くわからんし――。


 とにかく――


 俺は魔法を使ったっぽい。


 やったぜ。



     ***



 彼女が死ぬ前の名前は、エマ。


 十七歳。


 独身。


 職業は、予想通り冒険者で弓職。


 ――なんで独身だなんて、わざわざ言うのかって?


 こちらの世界では、十五歳くらいからが適齢期らしい。


 だから十七歳だと、既婚者も結構いると言っていた。


 で。


 ――なぜ「死ぬ前の名前」という前置きで、エマを紹介したのか。


 彼女は、俺が蘇らせたのだから。


 俺に、新しく名前を付けてほしいと言うのだ。


 名付け。


 ――なにそれ。


 犬にも名前なんて付けたことないのに。


 俺は、そういうセンスが全くないのだよ。


 マジで。


 真剣に悩み、いくつか候補を挙げる。



     ***



――ミサエ


「却下」


 ――却下とかあるのか。


――ヒマワリ


「却下」


――チヒロ


「却下」


 めんどくせー。


――ポチ


「顎の骨……砕く」


 ――怖っ。


 えーと。


 この抑揚のない、世捨て人のような話し方。


 とあるロボットアニメのヒロインを思い出す。


 親父も好きなやつ。


――君の名は……レイだ


「……ん」


 無表情だが――


 どうやら肯定してくれたらしい。


 水色ではなく茶髪だが――


 ここに、レイが誕生した。


 ――つ、疲れた。


挿絵(By みてみん)


     ***



「あなたの名前。教えて」


 逆に聞かれる。


――俺は……


 神崎神(かんざきしん)などとは――


 絶対に言いたくない。


――碇(いかり)シン……


 いや。


――シンと呼んでくれ


「わかった。シン」


 彼女がレイだけに、思いついた苗字まで言いかけてしまった。


「シンは何歳?」


――ん? 十四だが?


「ガキか……。でも、今は私の主人」


――おい


――今、聞き捨てならんことを言ったよな?


「聞き間違い。若いって言っただけ」


――語呂すら合ってねえし……



     ***



――ところで――お腹から中身出てるんだけど……痛くないの?


 ちょいグロいし。


 ぶらぶらしていて、気になって仕方がない。


「あ。痛くない。不思議」


――あ、左様ですか――


「というか、どこも痛みを感じない」


 レイは自分のそこらじゅうを、ボカスカ殴る。


――ちょっ……待てって


 レイは少し表情を曇らせる。


 ――少し凹んでる?


「もしかして私……無敵?」


――そっち!?


 レイの様子を改めて眺める。


 髪は雨で濡れたまま乾いたせいか、ボサボサ。


 口からは黒い液体が首筋まで。


 全身キズだらけで、黒い血の跡。


 脇腹から――中身露出。


 そして。


 肌は青白いまま。


 こ、これは――


――レイって、ぞ……ゾンビ?


 無表情なレイ。


 だが――


 瞳がクワッと広がる。


「シン、失礼。頭カチ割る」


――や、やめて。一回割れてるんだから……生前に。


 レイは胸から下あたりを見回す。


 しかし――


 首から上の自分を見る術《すべ》がない。


「ちょっと――自分。見てくる」


 そう言うと。


 レイは洞窟をダッシュで出て行った。


――なんなの、あの子――。



     ***



 十分ほどしただろうか。


 洞窟の外が騒がしい。


「ガゥゥ……ドシャ、ズシャ――」


 争うような獣の声。


 激しい音。


 まるで――


 レイが致命傷を負った時のようだった。


――や、やばい。


――もしかして、レイがまた襲われてる?


 洞窟の入り口に、人影が映る。


 ふらふらと。


 踏ん張るようにして――レイは帰ってきた。


 バカでかい狼みたいな動物を――引きずりながら。


 川に入ったらしく、全身が濡れていた。


 だから、黒い血糊は取れている。


――え。そのデカいの、どしたの?


「私を襲ったグレイウルフ。まだ居たから絞めた」


―ーええええ……。


――どうやったの?


「撲殺。私、強くなった」


…………。


……これ、食べるの?


「食べたい気はする。でも、お腹が空かない。シン、食べる?」


――いやいや――俺が食えないの、見ればわかるっしょ。


 それに。


 レイも死者だし、食えないと思うぞ。


 しっかし――


 このグレイウルフってのは、本当にでかい。


 ヒグマを超えるんじゃね? ってくらい。


 頭から尻尾まで、三メートルくらいありそうだ。


 これを――撲殺。


 レイの腕力、パネエな――。


 ちょっと彼女の取扱いは要注意だ。


 そう、心にメモした。



     ***



「シン、これリザレクションして」


 突然、レイがグレイウルフを指差して、変なことを言う。


――え、なんで……?


「乗って移動する」


――なるほど。


 もし、こいつが蘇っても俺に従順なら問題ないか。


 というか。


――死体を蘇らせたってことは。


――俺……もしかして、冥界の王(ネクロマンサー)なのでは?


「根暗……マン……?」


…………。


――お前、今わざと間違えたよな?


「ネクロマンサーは災害級のアンデッド。皆が恐れる」


――ふむふむ……。


 思わずニヤける。


 ――骨だけど。


「洞窟で動くことすら出来ない頭の骨だけのシン」


「ネクロマンサーの可能性、かなり低い」


――くっ……。


 正論すぎて、返す言葉がない。



     ***



――リザレクション!


 グレイウルフに向かって、俺は唱える。


 レイの時と同様。


 グレイウルフに変化が生じる。


 薄明るい白色光が、グレイウルフの全身を覆う。


 そして――


 激しく震えだす。


 ガタガタと暴れるように、グレイウルフは痙攣(けいれん)する。


 ――僅か数秒の沈黙。


 そして。


 シャッキーン。


 グレイウルフは、元気よく立ち上がった。


 全高も、レイ――百六十センチくらい――を少し超えている。


――あ、焦ったぁ……。


 ゾンビは、復活時に突然立ち上がるのがデフォなのか。


 グレイウルフは辺りを見回し――


 俺を見つけた。


「クゥン」


 服従の証(あかし)なのか。


 俺の頭頂部を、ペロペロと舐めだした。


「シン、危険。犬科の動物は骨が大好き」


「たぶん、齧(かじ)る」


――えええええ。


――そっち??


 こうして――


 ゾンビ少女とゾンビ狼が仲間になった。


10月10日  一挙5話公開 18:00に5話同時公開

10月11日~ 毎日3話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

10月16日~ 毎日2話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

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