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第38話 戦争の準備

 俺たちはミサトが新たに魔法で用意した豪華なダイニングテーブルに座り、今後の戦いについて話し合っていた。


「俺たちに国軍の討伐が決定したようだ」


「ほう。やつらはそんなに死にたいのかの」


 まぁ、ミサト目線ならそんな感じだろうな。


「でもミサト様の結界があるので心配要らないと思います」


 なんか、マヤもすっかり俺たちに馴染んだ感じだ。


「それがそうでは無いのじゃ」


 ミサトは不安なことを言うが、その表情には余裕がある。


「あれは我らバンパイアの血を媒介に展開する強度の高い結界じゃ。かといって弱点が無いとも言えん」


「ま、まさかニンニク?」


「シン――黙って」


「あのな。ニンニクは臭いから嫌いだというだけで、別に妾たちの弱点ではない」


 そうだったのか――。


「ではその弱点とは、なんですのじゃ?」


 アスカが話を戻す。


「うむ。妾たちの対極にいる存在、つまり『神』じゃ。その信仰心で編まれた魔法に我らは弱い」


「……神聖魔法」


「うむ。其方たちと同じ弱点じゃな」


 黙って聞いていたイヴァンが身を乗り出す。


「拙者には効かぬ」


「はい! 私もです!」


 マヤが元気に手を挙げる。


「…………」


 ――論点はそこじゃない。


 と言いたいが、マヤが可愛すぎて言えないのでスルーする。


「だが其方たちよりは神聖魔法に対する耐性は高いがのう」


「十字架とかが効く?」


 俺は前世の記憶でミサトに問う。


「十字架も神への祈りを込めてなければ、ただのガラクタじゃ。まぁ、これ以上は妾の弱みも言えぬがな」


「とにかく、神聖魔法を使われると結界が破られる可能性があるということか」


「うむ。かなり強固な結界じゃ。高位の神官でなければ、そう簡単には破れぬと思うがの」


      ***


 それから具体的な防衛策に話が変わる。


「シンは何体アンデッド、出せる?」


 レイがこちらを向く。


「大体、この前より少し多い百二十体くらいかな」


「妾の魔力を使っておるのに、たったそれだけかの」


 ――ミサトも痛いとこつきやがる。


「魔力は十分にあるんだけど、俺の魔力容量がまだ小さいんだよ」


「魔力を入れる袋みたいなもんですじゃ?」


 魔法が使えないアスカが俺に聞いた。


「うん、そんな感じ」


「そればかりは訓練せぬと増えぬしのう。妾など、この結界内の容量でも足りぬぞ」


「お前は超長生きしてんだろ!」


 ――七百歳超えと一緒にすんなよ。


「ミサト、俺の死の軍団を強化できないか?」


「そうじゃのう……」


 ミサトは少し考える素振りを見せた。


「……妾の結界を骨どもに付与できそうじゃな」


「おお、火系魔法なら耐性上がりそうだな」


「うむ。だが神聖魔法には脆いぞ」


「ま、その辺は仕方ないか……」


 レイが思いついたように顔を上げる。


「ミサト。それなら味方全員にも付与できる?」


「……確かにの。可能じゃ」


 多少は安心できたが、敵に神聖魔法の使い手が登場したらヤバい。


 考え込む俺を見てミサトがこう口にした。


「シンよ。妾の魔法を解放して良いなら、無傷で敵を消滅させられるがの」


 ――またすぐに、そういう事をいう。


「……でも無慈悲な勝利は大陸全土を敵にまわす可能性もあるし、ミサトの高位攻撃魔法は最後の砦として温存したいんだ」


「ほう、妾を温存かの。ふふふふ」


 ――相変わらずチョロい。


「最悪は俺たち全員を転移魔法で逃がしてくれればいい。だからミサトは結界の維持とAランク冒険者程度の魔法で支援してくれ」


「ふむ、よかろう」


「それと、みんなの配置と役割を決めておこう」


      ***


 俺は皆を見回した。


「まず、俺とマリ、イヴァンは光学迷彩を使わず、そのまま姿を見せて戦う」


「承知した」


 イヴァンが頷き、マリも「ガウッ」と鳴いた。


「獣人たちは全員、光学迷彩で姿を隠す。もちろんマヤもだ。敵の攻撃対象にされないためだからな」


「はい!」


 マヤが元気よく返事をする。


「ミサトは光学迷彩を使って、結界の維持に専念してくれ。結界を破られないことが最優先だ」


「うむ。任せておくがよい」


「レイは高所から戦場全体を見渡してくれ。光学迷彩を使い、弓で敵を射ながら戦況を把握するんだ」


「ん。分かった」


「アスカは光学迷彩で敵陣に入り、敵の魔導士を暗殺してくれ」


「分かったですじゃ。魔導士を見つけ次第、始末するのじゃ」


「そうだ。特に神聖魔法を使う奴は優先して排除してほしい」


「承知したですじゃ」


「死の軍団は、スケルトンアーチャーが三十体。うち十体は光学迷彩を使わせる」


「弓兵を隠すの?」


 レイが尋ねた。


「ああ。敵から見えない位置から射撃させる。残りの二十体は通常の配置だ」


 俺は続けて説明する。


「スケルトン兵が六十体、スケルトン騎士が二十体、将軍が二体。そして、光学迷彩を使うゾンビが八体だ」


「ゾンビを八体も隠すのかの?」


 ミサトが興味深そうに尋ねた。


「ああ。こいつらは敵陣に放つ。光学迷彩で接近して、敵兵を噛み、ゾンビを増殖させる。敵の中で仲間が次々とゾンビになっていけば、パニックになるはずだ」


「敵の目に見えぬところから、仲間が次々とゾンビになるわけじゃな」


「そういうこと。敵の戦列を崩すための役割だ」


「なかなかえげつない作戦じゃな」


「戦争だからな」


 俺は一度、皆の顔を見渡した。


「それと、死の軍団が三割ほど消耗したら、俺が補充する。ほぼ百二十体まで戻すつもりだ」


「三割ほど消耗したところで、補充するのね」


 レイが確認する。


「ああ。敵がアンデッドを倒しても、一定数まで減ればまた補充される。レイは高所から弓で戦いながら、その様子も見ていてくれ」


「ん。戦況を見ながら、シンが補充する様子も見ている」


「ただし、俺の魔力容量が限界だから、百二十体を大きく超えることはできない。無駄に消耗させないようにしたい」


「分かった」


「最後に皆との連絡手段として何か良い方法は無いか?」


「通信の魔道具はどうですじゃ」


「あれは少しデカいから持ち運ぶのは手間だ」


 んー………。


 みんな考え込む。


「妾が念話を使って全員と繋げれば良い」


「――念話?」


 マヤが首を傾げた。


 ――念話か。異世界モノでよく聞くスキルだな。


「要するに魔法で相手と通信する手段じゃ。通常は個人間で行うものじゃが、妾が皆と同時に念話を繋げれば、全員で会話ができるというわけじゃ」


「 ????」


 ミサト以外、皆が理解に苦しんでいるようだ。


「まぁ、妾が皆と繋いで念話を始めればすぐに理解できるから、気にせんで良い」


 ――要するにミサトを中心にしたグループ通話のようなものだな。


「よし。これで役割は決まったな」


 俺は皆を見回した。


 国軍がどれほどの兵を送り込んでくるのかは分からない。


 だが、こちらも準備はできる限り整えた。


 あとは、敵がどう動くかだ。


      ***


 王城の軍議室。


 長机を囲むように、軍の将軍や神官たちが集まっていた。


 その中央には、グスタフ伯爵領で起きた事件についての報告書が置かれている。


「私は王国軍務大臣、エルンスト・ヴァルデン。今回の討伐軍編制を取りまとめる」


 ヴァルデン大臣が報告書を閉じると、隣に座る男が口を開いた。


「王国軍総司令官、ローデリク・グラーツだ。領主を殺し、城を奪うなど、国王陛下への反逆に他ならん! ぐずぐずしていれば、他の領主たちまで侮るようになるぞ!」


「王国軍参謀総長、エドガー・フェルナーだ。まあ、待て。少し落ち着いて考えた方がよい」


 フェルナー将軍は眼鏡の位置を直した。


「王国アヌグエラ教神殿・神官団長、セヴェラン・ノルドだ。我ら神官が同行すれば、アンデッドなど恐れる必要はない。神聖なる力の前に、死者の軍勢など無力だ!」


挿絵(By みてみん)


「その神聖魔法を使える神官は、何人同行できるのだ?」


 フェルナー将軍の問いに、ノルド神官長は一瞬言葉を詰まらせた。


「少なくとも、アンデッドへの対策として神官は必要だ。だが、相手がどれほどの魔法を使うのかも分からない。神聖魔法だけで解決できると考えるのは早計だろう」


「慎重なのは結構だが、時間をかけすぎるのも問題だぞ」


 グラーツ将軍が机を指で叩く。


「国王陛下の命令で任命された領主を討ったのだ。これは領主個人への反抗ではない。王権そのものへの反抗だ。見せしめも兼ねて、速やかに討伐せねばならん!」


「その点については、私も同意する」


 ヴァルデン大臣が静かに口を開いた。


「討伐を遅らせるわけにはいかない。だが、必要以上の兵を動かすことも避けたい」


「必要以上とは、どの程度だ?」


「千名で編制する」


「千名か。少数の相手には十分だろう!」


 グラーツ将軍が満足そうに頷いた。


「城を包囲し、複数方向から攻めればよい。相手が逃げようとしても、兵で退路を塞げる」


「千名ならば、周辺の領主たちに過度な警戒を与えずに済む。大軍を動かせば、余計な憶測を呼ぶ可能性もある」


 ヴァルデン大臣の言葉に、フェルナー将軍も頷いた。


「ただし、神官は必ず同行させるべきだ。アンデッドへの対策を怠るわけにはいかない」


「当然だ! 我らが同行すれば、勝利は揺るがん!」


 アヌグエラ教のノルド神官長は、神聖魔法への絶対的な自信をにじませていた。


「……勝利を確実なものとするためにも、相手の魔法を侮らないことだ」


 フェルナー将軍の言葉に、ノルド神官長は不満そうに鼻を鳴らした。


「ふん。神聖魔法の力を疑うとはな」


「疑っているのではない。知らないことを知っているかのように語るなと言っている」


「何だと!」


「そこまでだ」


 ヴァルデン大臣の一言で、二人の言い争いが止まった。


「討伐軍は千名。神官を同行させ、アンデッドへの対策を講じる。指揮系統と部隊編制は、これより詰める。異論はあるか?」


 グラーツ将軍は満足げに頷き、ノルド神官長も不服そうながら口を閉じた。


 フェルナー将軍だけは、報告書に目を落としたままだった。


「……相手の情報が少なすぎる」


「何か言ったか?」


「いや。何でもない」


 フェルナー将軍は眼鏡を直し、静かに椅子へ背を預けた。


 こうして、千名からなる討伐軍の編制が始まった。


 彼らはまだ知らない。


 自分たちが討伐しようとしている相手が、どれほどの力を持っているのかを。

10月10日  一挙5話公開 18:00に5話同時公開

10月11日~ 毎日3話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

10月16日~ 毎日2話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

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