第36話 正義を貫くため、城を新たな拠点に
グスタフ討伐は終わった。
俺たちの可愛いマヤは救出できた。
――しかし。
俺の起こした状況の影響は凄まじかった。
こうなることの覚悟はしていた。
なんで俺はモブからどんどん離れていくんだろう……
***
ミサトは血肉の茶会を綺麗に消滅させるとアスカとマヤと城内へ入って来た。
いつの間にかマヤは一旦家に帰って身綺麗にしてきたようで、いつものメイド服に着替えていた。
うん、かわいい。
ミサトは周りの状況を見渡す。
「まぁ派手にやったもんじゃのう」
「ああ、でもマヤは無傷で奪還できたから良しとする」
「そうじゃの、それが第一じゃ」
「ああ、みんなには悪いが暫く忙しくなると思うけどよろしく頼む」
「任せるのですじゃ、ご主人!」
相変わらずアスカは一番元気がいい。
――82歳のババアだが。
「シン、投降者にグスタフ側の被害状況を確認してくる」
「ああ、頼んだ。ついでに地下牢に獣人の子達がたくさん居るはずだ。その子らも連れて来てくれ」
領主側に、どのくらい犠牲があったのか。
――いや、どのくらい殺したのか。
それは事件の当事者として知っておくべきだ。
投降者と負傷者は中庭に整列して座っている。
スケルトン達がそれを見張る。
「シン、結界は消すか?なんやら野次馬連中もたくさん、結界の外からこちらを見ているようだが」
まぁ、そうだろうな。
これだけの騒ぎは内緒で、なんてことは現実的じゃない。
「まだ暫くそのままで」
結界の外を見ると、見たことがある人達も何人もいた。
「アスカ、城内の金庫や資産状況を確認してきてくれ」
「はいですじゃ!」
「シン、領主側の被害状況」
「ああ。頼む」
「総数三百八十八人、死者五十八人、負傷者百七十四人、投降者と非戦闘員含めて百五十六人」
「――そうか」
俺は決意した。
この結果は全て受け入れる。
否定したら俺の正義はここで潰えてしまう。
「あと、囚われていた獣人の少女達や奴隷達も連れてきた」
レイの後ろには十歳くらいの獣人の子供達が二十人近くいた。
子供たちは皆、疲れ切った様子で身を寄せ合っていた。長く閉じ込められていたことを思わせる姿に、俺は胸を締めつけられた。
***
暫くするとアスカが城内から走ってきた。
「ご主人、これが資産目録ですじゃ」
「ありがとう」
帳簿をペラペラとめくる。
グスタフは相当溜め込んでいたらしい。
桁が多すぎて一瞬フリーズした。
所有の土地や絵画などの美術品、備蓄などが大量に記載されている。
恐らく、記載されていない金や資産もあるだろう。
これなら当面はなんとかなるな。
「ミサト、結界を城壁以内に限定して負傷者は結界を内側から通れるようにしてくれ」
「ああ、良いじゃろう」
「スケルトン達は負傷者達を結界外に連れ出せ」
「残りの者はまだ中庭に待機させてくれ」
俺は大声で手短に指示し、仲間達を城内に集めた。
***
誰も居ない大ホールの片隅で俺たちは今後の事を話し合った。
「俺がした事は領主殺し。国家反逆罪だ」
「――知ってる」
「はいですじゃ」
「うむ、そうだろうのう」
「はい……」
ガウッ。
「拙者はマリの守護者だ。ただ、それだけだ」
思ったよりみんな、状況を理解していた。
マヤ以外は歳上だし、そんなものか。
「俺はここに拠点を移し、ここにある資産で獣人達を保護しようと思う」
皆、黙って聞いている。
「恐らく俺たちは、国から討伐対象に指定されるだろう。でも正義が正義で無くなったらダメだ」
「俺は一人でも戦う。俺は何も街や国を支配したいわけじゃない。ただ、理不尽な事なく、平穏に暮らしたいだけだ」
「シン様。私のため、そして獣人族のためにありがとうございます。私はシン様に従います!またお世話させてください」
マヤは感極まって涙を流した。
「シン、バカの見張りは必要」
レイも肯定してくれた。
「もちろん、わしもですじゃ!なにせ、わしはご主人にこの激エロボディを作ってもらった恩があるのですじゃ!」
「妾もまだ暫くは不自由な幸せを楽しんでいたいからの。皆と一緒じゃ」
――ガウッ。
「マリちゃんも一緒がいいって」
マヤが代弁する。
やっぱりこいつら――最高だよ。
***
「我々は『月の墓標』。代表のシンだ」
俺は中庭に集められた、負傷者以外の人々に向けて声を張り上げた。
「我々は、グスタフ領主によって不当に誘拐された仲間を奪還するため、この城を制圧した。その過程で、多くの犠牲者を出したことも事実だ」
俺の話を聞く人々の目には、明らかな嫌悪感が浮かんでいる。
当然だろう。
ここには、俺たちに仲間を殺された者もいるはずだ。
「我々を憎む者もいるだろう。恨みを抱く者もいるだろう。無理に理解してくれとは言わない」
一度、周囲を見渡す。
「だが、俺は理不尽なことには屈しない。領主の身勝手な都合で、罪のない人間が簡単に命を奪われる。そんなことが許されていいはずがない」
俺は言葉を続けた。
「だから、俺たちはこの城を占拠する。そして、この町で不当に扱われている者たちを保護するつもりだ」
獣人たちの間に、わずかなざわめきが広がった。
「もちろん、国から見れば俺たちは犯罪者だ。だが、ここにいるアンデッドたちを含め、俺たちには圧倒的な武力がある」
人々の視線が、警備にあたるスケルトンたちへと向けられる。
「残念ながら、兵士たちを登用するつもりはない。だが、一般職の者たちには、ここに残って働いてもらうことは歓迎する」
俺は少し間を置いた。
「待遇についても心配はいらない。ここに残る者には、今の給与の二倍を支払うことを約束しよう」
俺は改めて、集まった人々を見渡した。
「俺たちの考えに賛同する必要はない。ここに残るかどうかは、自分で決めてほしい」
「一時間の猶予を与える。その間に、今後どうするのかを決めてくれ。残ると決めた者は、そのままここにいてほしい」
そう伝え、俺は彼らに選択の時間を与えた。
***
結局、獣人の少年少女十五人、獣人の労働者二十六名が残った。
残念ながら人間族は一人もいない。
残念ではあるが、予想もしていた。
屍人使いは元々、一般的には受け入れられない。
それに、でかい使役獣や精霊騎士なども一般的ではない。
あとは何といってもミサトの血肉の茶会のインパクトがでかすぎた。
悪魔なのかと恐れられたようだ。
――ま、似たようなものだが。
これから城の修復など、やるべきことは盛りだくさんだ。
俺は、獣人たちのリーダーとしてアスカとマヤを指名した。
俺は死の軍団で城の修理などのインフラ関連と警備を担当。
マリとイヴァンにも警備を頼んだ。
ミサトには魔法で資材の調達、城内の内装や結界の守護を。
レイには資産管理と経理を担当してもらう。
恐らくだが、明日には国や冒険者ギルドなどから動きがあるだろう。
とにかく、行動には責任を。
自分たちの正義を貫くことを俺は誓った。
10月10日 一挙5話公開 18:00に5話同時公開
10月11日~ 毎日3話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ
10月16日~ 毎日2話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ




