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第35話 グスタフ・ヴァルテン伯爵討伐

 破壊された城門をくぐってすぐの中庭。


 俺とレイの周囲では、領兵たちと死の軍団が激しくぶつかり合っていた。


 スケルトン兵が剣を振るい、ゾンビ兵が敵へ迫る。


 スケルトン騎士が槍を振るい、敵騎兵と激しい攻防を繰り広げていた。


 その後方では、スケルトンアーチャーたちが弓を引き絞っていた。


 だが、敵の弓兵も黙ってはいない。


 城壁や建物の陰から、次々と矢が放たれる。


 スケルトンアーチャーも応戦しているが、敵の数が多く、矢の雨を完全に止めることはできていなかった。


「シン!」


 レイの声と同時に、俺の身体に矢が何本か突き刺さった。


 続けて、レイにも矢が命中する。


「……鬱陶しいな」


 痛みはない。


 ただ、身体にダメージを受けたことは分かる。


 この程度で動きが止まるほど、アンデッドの身体は脆くない。


 レイは自分に刺さった矢を抜き、飛んできた方向へ弓を構えた。


 ――ヒュッ!


 放たれた矢が敵弓兵を射抜く。


「乙女の肌を傷つけるやつは――死。」


 淡々と告げるレイ。


「いや、俺も矢を受けたんだけど……」


「シンは男。――だからオッケー」


 レイは俺に指でOKサインを出す。


「そういう問題かよ!」


 ――その時だった。


 ゴオオオオオ――。


 という音と共に、火の玉が死の軍団に降り注ぐ。


「やべっ、ファイヤーボールか」


 火はあまりにもアンデッドとの相性が悪い。


「レイ、魔導士にタゲ変更」


「ん。」


 俺もすぐさまローブ姿の敵魔導士に向けて《ダーク・ランス》を放つ。


――ドッカーーン、ドゴゴゴ――ン、ドンッ!


 激しい魔法の応酬となり、アンデッドたちは火に焼かれる。


 レイと俺も着実に魔導士を減らしていく。


 魔導士たちが城内に撤収した時には、我が軍団は半分近くを失っていた。



     ***



 俺は中庭の戦況を一瞥し、二体のスケルトンジェネラルに目を向けた。


「お前はここに残って、残った死の軍団を指揮しろ」


 一体のジェネラルが、無言で頷く。


「もう一体のお前は俺たちと来い。スケルトン十体を連れて、城内へ入るぞ」


 残るジェネラルも、恭しく頭を下げた。


 俺とレイはジェネラルと十体のスケルトンを引き連れ、城の正門へと向かう。


 その城門脇から、こちらへ戻ってくる一団が見えた。


 アスカと、マリに騎乗したイヴァン。そして、イヴァンの前には白いローブを着たマヤが乗っていた。


「シン様!」


 マヤが俺に気づき、声を上げた。


「マヤ! 無事だったんだな!」


 思わず足を止める。


「はい……アスカお婆ちゃんたちが助けてくれました」


「うん。よかった……」


 蟲たちの視界を通じて、マヤが無事なのは分かっていた。だが、目の前で見るのとは安心感が違った。


 俺は安堵の息をつき、すぐにアスカたちへ向き直った。


「アスカ、マヤを連れて血肉の茶会へ戻ってくれ。そこでマヤのケアを頼む」


「分かったですじゃ。任せておくのですじゃ」


「マリとイヴァンは、茶会に戻ったら、また中庭へ向かって戦闘に参加してくれ」


「ガウッ!」


「承知した」


 マリが力強く吠え、イヴァンも頷いた。


「よし。頼んだぞ」


 俺は再び城の正門へと視線を向ける。


 マヤを助け出せた。


 あとは――グスタフを潰すだけだ。


 そして俺は深淵の目を解除した。



     ***



 城の正面玄関を固める兵を、俺は《ダーク・ランス》で無力化し、城内へ侵入した。


 入ってすぐの大ホールには騎士たちが並び、盾を構えて陣形を整えていた。


 ホールを囲む二階のギャラリーには弓兵と、先ほど撤収した魔導士たちも配置されていた。


 城門の外の中庭では、軍団の半数を失ったものの、まだ激しい戦闘音が聞こえていた。


 恐らく、マリとイヴァンが戦列に加わったのだろう。


 俺は正面の騎士たちに魔法を放とうと構える。


 ――その時だった。


「お前たちが月の墓標か」


 大きな声がホールに響き、俺は声の主を探して辺りを見回した。


 すると、三階の貴賓席に、随分と恰幅の良いおっさんが女を連れて立っていた。


「お前がグスタフ・ヴァルテン伯爵か!」


「そうだ。私がグスタフ・ヴァルテンだ。大人しく投降しろ」


「いいか、もう抵抗はよせ。さもなくば、この女をここから突き落とす」


 グスタフの前には両手を縛られた猫耳の少女が立っていた。


「……誰?」


 レイが冷静にグスタフに問う。


「ふふ、お前たちの好きな獣人族の少女だろう?」


「好きなのはお前だろ!!!!」


挿絵(By みてみん)


 こいつはヤバい。


 違う意味で怖いんだが……。


「ふむ、まぁよい。折角の同じ趣味同士、お前の出方次第では我がコレクションを少しだけ下賜してもよいのだぞ?」


「はい?」


 ――だめだ、話が全く噛み合わん。


「もうダメ。打つべし、打つべし、打つべし――」


 レイが何かを諦めたらしく、グスタフに矢を何本も放つ。


 矢はグスタフの頬をかすめ、背後の壁に突き刺さった。


「ひぇぇ」


 グスタフは少女を置き去りにし、奥へ逃げた。


 少女はその場に取り残されたが、近くのスケルトン兵が彼女を庇うように立ち、敵兵から守っていた。


 それを合図に、ホール内の戦いの火ぶたが切られた。


 俺の背後から弾丸のようなスピードでマリとイヴァンが俺たちを追い越し、そのまま敵兵の槍衾《やりぶすま》に突っ込む。


ドッカーーン!うぎゃぁああ!


 悲鳴と共に敵騎士は吹っ飛んだ。


 そして、マリたちはゆっくりと振り返り、こちらへ歩いてくる。


 二階の弓兵や魔導士のファイヤーボールを背中に受けながら、どこか変な達成感を滲ませ、『我らの活躍、どう?』みたいに気取っていた。


「おい、背中背中。燃えてるって!」


 レイが慌てて腰に巻いていた上着をほどき、マリとイヴァンの背中を叩いて火を消す。


 それにしても一撃かよ。


 マリとイヴァンのコンビもやべえ組み合わせだな。


 そんなことを考えている横で、レイは上着を再び腰に巻き直すと、二階の弓兵たちを淡々と射っていた。


 ――全てがヘッドショットだった。


 よ、容赦ねえ。



     ***



 ガチャガチャと鎧や骨を鳴らしながら、死の軍団がホール内に入って来る。


「ん? 中庭は?」


「――制圧したでござる」


 イヴァンたちの破壊力、凄まじいな。


 ふとレイを見ると、イヴァンやマリに刺さった矢を抜き、自分の矢筒に戻していた。


 この、しっかり者め。


 辺りを見渡すと、武器を捨てた者と負傷で動けない者、死んだ者が横たわっていた。


 大体、死んだやつは頭に矢が刺さっているんだけどな。


「じゃ、俺たちは行くか。軍団はここに残れ。武器は全て回収せよ」


 ジェネラルに指示を出しておく。


 俺は降伏した者は全員、大ホールに集まるよう伝えた。


 グスタフが置き去りにした猫耳の少女は、スケルトン兵に守られて無事だった。


 俺は彼女の拘束を解かせ、血肉の茶会へ連れていくようスケルトン兵に命じた。


 そこでマヤと一緒に保護してもらおう。


 レイとマリ、イヴァンを連れて階段を上がる。


 大ホールの戦いの結果で勝敗は決したようだった。


 非戦闘員は手を挙げて降参の意思表示。


 兵たちも武器を捨てて両手を挙げている。


 階段を上り、俺たちは最上階へたどり着く。


 あとはグスタフの自室まで一本道だ。


 その廊下にも武器を置いて手を挙げる兵士ばかり。


 誰にも抵抗されることなく、グスタフの部屋へ入った。



     ***



「ふふふ。よくぞここまで来たな。月の墓標の諸君」


 グスタフは豪奢な椅子に座り、腹を揺らせながら、余裕の表情でワインを飲んでいた。


 ――何か伏兵でもいるのか?


「グスタフ、貴様はもう終わりだ」


「ふふふ。いや、まだ終わってはいない」


 俺たちは、部屋に何か仕掛けがないか見渡した。


「まだ何か策でも?」


「いや、無い」


 ――ん?


「だからお前は終わりだ。裁きを与えよう」


「いや、まだ終わりではない」


「だからお前は終わりなんだよ! 他に何かあるのか?」


「いや、無い」


「だから、お前!! まだ――」


――ヒュッ、ドンッ。


 横からレイが見事なヘッドショットを決めていた。


「バカは死――あるのみ」


 なんか、俺のことも言われてるような気がしてならなかった。

10月10日  一挙5話公開 18:00に5話同時公開

10月11日~ 毎日3話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

10月16日~ 毎日2話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

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