第29話 ご、ござる。……だと?
俺たちはマリに乗って、来た道を戻る。
無数の魔物たちの死骸を見つけながら、買取価格の高い素材に絞って回収した。
やがて、レイド戦を行った戦場が見えてきた。
所々に血痕や武器、防具などの装備類が散乱している。
見渡す限り、冒険者の死体はない。
しかし、ここにも無数の魔物の死骸があった。
回収する間もなく撤退したのだろう。
俺たちは参加者へのせめてもの報酬代わりにと、素材を回収した。
死者が出なかったのか、それとも死者を運びながら撤退したのか。
ギルドに戻って確認するしかない。
俺たちが素材を回収し終わった頃には、すっかり夜になっていた。
***
ギルドに入ると、大ホールはさながら野戦病院と化していた。
あちこちでけが人が倒れ、治療を受けている。
そして大ホールの片隅には、レイド参加者らしき十人ほどの遺体が安置されていた。
「すまなかった。月の墓標のみんな」
俺たちを見つけたセドリクが、奥の方から歩いてきた。
「君たちは……無事だったようだな」
全員の安否をさっと確認したセドリクは、そう話した。
「ええ。なんとかミノタウロスも倒しました」
その言葉に、大ホールが静まり返った。
「本当なのかね、あのミノタウロスを……」
皆がこちらを注目している。
俺は、大袋五個を担いだレイに袋を床に下ろさせ、中から角を取り出した。
「これが討伐の証です」
「こ、これは……確かに……。一応ギルドで鑑定させてもらうが、良いかね?」
「もちろんです」
ホールの中がどよめく。
俺たちは持ってきた大袋を全て床に置く。
全部で十二袋ある。
「セドリクさん、これはレイドで倒した魔物の素材です」
「か、回収してくれたのか」
「はい。あまりにも魔物の死骸が多すぎて、高めの素材だけですが」
「レイド参加者の皆に、ギルドのルールに従って分配してもらえればと思います」
「す、すまない。本当に助かる」
「あと、君たちの調査結果だが、報告は可能かね?」
「はい、大丈夫です」
「では、ギルマスの部屋で報告を受けよう」
俺はレイたちに先に帰るよう指示を出した。
面倒な報告に全員を付き合わせる必要はない。
少しでも早く帰って、休ませてやりたかった。
そして、俺はギルドマスターの部屋へ向かった。
***
ギルマス、ガルド・ヴァルガンの執務室にて。
「そうか。渓谷の深部に世界樹が……」
俺が提出した『枯れた世界樹の枝木』を見ながら、セドリクは沈痛な面持ちだった。
渓谷の深部は魔物が多く、霧も濃いので、何が存在しているのかはよくわかっていなかったらしい。
「で、ミノタウロス以外のボスはいなかったというわけだな?」
「はい。枯れた巨大な世界樹があっただけでした」
もちろん精霊騎士の話は言わない。
「しかし、瘴気があれだけ濃いと確認もできないな」
ガルドが怪訝な顔をする。
「瘴気の発生元だと思われる岩のようなものは破壊しましたので、今後は瘴気が少しずつ薄れ、魔物の発生も減っていくと思います」
黒い石を持ち帰ったことも言えるはずはなく、こちらもごまかした。
「そうか、今後は渓谷の魔物が減って瘴気が薄くなっていくのか。それは僥倖だ。残念ながら犠牲者は出てしまったが、レイドである以上、珍しくはないことだ」
「この件が少し落ち着いたら、今回のレイドの総括と報酬などを発表する予定だ」
「はい、わかりました」
「最終的にボスの討伐は叶った。嘆きの渓谷の深部の状況も把握でき、瘴気の元も破壊できたのだ。犠牲は痛いが、レイド成功と見なしても良いだろう」
「そうですか……」
冒険者家業は命がけだと知ってはいたが、実際に目の前で見ると「これがレイド成功なの?」って気持ちになった。
恐らく、目的を果たせたのだから犠牲はあれど、成功にしたいのだろう。
地方ギルドの実績にも関わるし、失敗となると補償や色んな面でギルド側に不都合があるのだと推測される。
ま、大人の事情だ、きっと。
――ふぅ。なんだかなぁ……
死者が死者を見て落ち込むとか、どんな皮肉なんだよ。
***
レイドから三日後、俺たちはギルドの大ホールで、今回のレイド総括に参加し、報酬を受け取っていた。
レイドは成功と見なされたため、パーティー形式での総括だった。
俺たちは壇上で、ギルマスのガルドから、|サンジオンの新たなヒーロー出現みたいな過大な賛辞を受け、報酬の目録を受け取った。
関係者から拍手喝采を浴びる。
――モブ志望にとっては、まさに生き地獄だった。
報酬として、ボス討伐二千万ギル、参加報酬五百万ギル、魔物討伐報酬二百五十万ギル、調査達成報酬千五百万ギルを受け取り、B級ランクに昇格した。
パーティーが始まり、テーブルでジュースを飲んでいると、Aランクパーティー、ラクロスのリーダー、ジェラックが俺を見つけてやってくる。
「よう少年。この前はお前に突っかかって悪かったな」
「いや。――問題ないよ」
「まあ、そんなに警戒するな。俺は認めたんだよ、お前らの実力を見てな」
短い間だったが、ミノタウロスとの初戦では共闘した。
その時に俺たちを認めてくれたのだろう。
「まさか、お前らがあれほどやれるとはな。いやはや、わっはっはっは」
思ったより良いやつなのか?
「でな。ボス討伐で結構もらったんだろ? 俺たちだってかなりダメージは与えたんだ」
「だから報酬は山分けってことにしようぜ」
「は?」
「それかお前が侍らせてるねーちゃん。誰か貸し出してくれよ。どうせお前の使い古しなんだしよ」
こ、こいつ――。
やっぱり最悪だ。
怒りのあまり、視線を外すと、セドリクが報酬明細を几帳面に揃えて抱え、こちらを見て苦笑いをしていた。
***
家に帰る。
「シン様、お帰りなさい!」
獣人メイドのマヤが元気な声で出迎えてくれた。
しっぽフリフリ。
うん、癒される。
リビングではみんなが紅茶と、マヤが焼いたクッキーを楽しんでいた。
ん??????
おい………。
ダイニングテーブルで見慣れないやつがレイやアスカ達と談笑している。
床で寝そべるマリの近くの椅子に座るこいつは――。
「イヴァン! お前、ここでなにしてんの!」
「うむ」
マリの守護者、精霊騎士のイヴァンがカップを手に寛いでいたのだった。
「こういうのは久しぶりでな――つい」
「何が『つい』なんだよ!」
――もっと寡黙なやつかと思ってた。
「シンよ。其方も大概、狭量よのう。良いではないか」
くっ。まあ、マリを通してだが、仲間と言えば仲間か――。
「あ。マヤ殿、紅茶のお代わりをお願いでござる」
ご、ご、ござる。――だと?
お、お前の先祖は武士なのか?――武士だったのか!?
「はい! イヴァン様!」
もう、馴染んでやがる――。
なんか、また変わったやつが勝手に増えていた。
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