第23話 遊撃隊に指名され、嘆きの渓谷へ
レイドミーティング当日。
俺たち四人は冒険者ギルドへ来ていた。
サンジオンのBランク以上の冒険者と、近隣からも参加者がいるようだ。
大ホールには四十人はいるだろう。
中には何度か見かけたパーティもあった。
サンジオン最強と呼ばれるAランクパーティ、ラクロスのメンバーたちも顔を揃えていた。
――ただ、注目度が一番高かったのは予想通り俺たち月の墓標だった。
見た目だけなのだが、清楚系・お姉さま系・ロリ系の美女たち。
そんな美女たちを侍らす俺を見る、嫉妬の目。
ギルド登録二か月余りで、最速でCランクまで駆け上がった新進気鋭のパーティ。
本来ならレイドに呼ばれもしないパーティが特別に参加要請を受ける異常さ。
この二か月で大金を稼ぎ、メイド付きの屋敷を買ったことでも有名になっていた。
周囲の視線が痛い――。
俺は目立ちたくないんだ。
やっぱり……モブがいい。
***
「冒険者の皆、忙しい中レイドミーティングに集まってくれて感謝する」
拡声器のような魔道具で挨拶を始める男。
「私がサンジオン支部、ギルマスのガルド・ヴァルガンだ」
筋骨隆々だが、見た目は至って普通。
白髪交じりの五十代の男だった。
あの腕で机を叩かれたら、会議が始まる前に机が壊れそうだ。
俺は思わず、壇上の机から少し距離を取った。
「今からレイドミーティングを始める」
「細かい説明は副ギルマスのセドリク・アルヴァンから行ってもらう」
――代表者挨拶とか、俺たちにも振られるのか?
周囲の視線が、またこちらに集まった気がした。
「シン、説明を聞いて」
横にいたレイに小声でたしなめられる。
俺は黙って前を向いた。
***
登壇した副ギルマスのセドリクが、黒板に大きな地図を貼り出した。
こちらも見た目は至って普通の、眼鏡をかけた生真面目そうな中年男性だ。
「今回、サンジオン北部にある『嘆きの渓谷』にて、大型魔獣の巣窟が活性化している」
「数日中には、数百規模の魔物の大群がサンジオンの町へ向けて進軍を開始すると予想される」
セドリクの言葉に、大ホールに緊張が走った。
数百規模の大群。
まさに町が滅びかねない危機だ。
「そこで今回は連合軍を組織する。前衛で敵の進軍を食い止める盾役には、Aランクの『ラクロス』、およびBランクの各パーティーを担当とする。……そして」
セドリクの目が、大ホールの端にいる俺たちを捉えた。
「特別枠として招集したCランクパーティー『月の墓標』。貴殿らには、遊撃として最も危険な『渓谷の最深部』へ突入し、大群を率いるボス魔獣の討伐、および囮役を要請したい」
……は? 思わず声が漏れそうになった。
囮役? しかも最深部? 一番目立つ上に、一番死にやすいポジションじゃないか。
――俺たちはもう死んでるが。
「おい、待て。ふざけるな」
大ホールの最前列から、不機嫌そうな声が響いた。
サンジオン最強と呼ばれるAランクパーティ《ラクロス》のリーダーで、金髪のイケメン剣士ジェラックが俺たちを振り返り、鼻で笑う。
「セドリクさんよぅ、いくら最速でCランクに上がったからって、ただの運が良いだけのガキどもにそんな大役を任せるのか?」
「囮なら俺たちがやった方が確実だ」
「おい! そこのローブのガキ! Cランクの分際で生意気なんだよ」
「美女三人も侍らせて、いい気になりやがって」
ラクロスのリーダーの瞳には、俺への凄まじい嫉妬の炎がメラメラと燃え盛っていた。
すると、俺のすぐ後ろにいたミサトが、赤いドレスの胸元を軽く揺らしながら、妖艶な笑みを浮かべてラクロスのリーダーを見つめた。
「おお、シンよ。あやつが噂のラクロスのリーダーかの」
「うふふふ、あやつの血はなかなか美味であったぞ。さすがはイケメンじゃのう」
「妾たちに戯言をぬかすのなら、おかわりの血を搾り取ってやろうか? ふふふふ!」
大ホールに、ミサトの艶のある高笑いが響き渡る。
周囲の男どもがミサトの美貌と血を搾り取るという物騒な台詞に息を呑む。
一番前のテーブルにいるラクロスのリーダーが、こいつ何言ってんだ?みたいな顔で青筋を立てて睨みつけてくる。
――が、悲しいかな、ミサトのこれはただの冗談でも脅しでもない。
全魔力の二割しか使っていない分体の状態ですら、Aランク冒険者を一撃で吹き飛ばせるほどの化け物だ。
本気を出されたら、ラクロスなど一瞬で全滅する。
ただ、問題はそこではない。
ミサトは完全に騙されている。
――俺とアスカに。
あんな金にも困ってないお高くとまったAランクのイケメンが、血なんて売ってくれるわけがない。
最初から売ってくれないのは分かっていたから、俺とアスカは確信犯で、最初から路地裏の貧乏そうなおっさんから血を買ったのだ。
俺は隣に座るアスカを盗み見た。
アスカも俺とまったく同じことを考えたのか、俺と目が合うと小さく頷いて囁いた。
――このことは絶対に秘密ですじゃ。
というか、バレたら俺たちの命が危ない。
「シン、矢――あいつの眉間に撃ち込む?」
事情を知らないレイが、俺の後ろで静かに弓に手をかけ、クールな声で恐ろしいことを囁く。
俺はただただ、大人しくモブに徹するのだった。
***
セドリクが大筋の作戦内容を伝えると、後は役割別に集まって、ギルドの担当者と詳細を詰める。
俺たちは特別枠のため、セドリクが直接担当してくれるようだ。
「ちゃんとご挨拶をするのは初めてだね。私がセドリク・アルヴァンだ」
「月の墓標の代表、シンです」
俺は頭を下げ、握手した。
「いやぁ、ラクロスのジェラックの件。すまなかったねぇ」
「いえ、大丈夫です。セドリクさんが謝ることでもないですし」
セドリクは一拍おいて、再び話し出す。
「――彼らもね、普段からあんな風に粋がっているんだが、本当はとても……最悪なんだ」
ぶっ、その言い方。
慌てて虚無を再発動する。
「は、はあ……」
「で、話は変わるんだが――」
え、今の前置き、いる?――何が言いたかったの。
「君たちは先ほど話した通り遊撃で突っ込んでもらう予定だ」
「俺たちCランクですよ? さすがに少し荷が重いというか……」
「いやね。君たちの存在はギルド内では少しおかしいって噂されてるんだ」
「と、言いますと?」
「いやぁ、君たちも気づいてるでしょ。短期間でこれだけの実績があるんだから」
う。家が欲しくて少しやり過ぎたか。
「君たちは本当に実力者なのか。それを確かめるために囮役になってもらう」
「はあ――」
「もちろん危険な役目なので随行員は付けない」
「無理なら逃げ帰ってもいい。後方からくる本隊がいる。だから遊撃なんだよ」
「ボスを討伐したら? 報酬は?」
レイが口を挟んだ。
「もちろん報酬は出る。ボス討伐は三千万ギルだ。それと参加報酬五百万ギル」
「しかも今回は特別枠の報酬も用意した」
「なんですじゃ?」
アスカが期待するような目で問う。
「参加さえしてくれたなら次回からBランク昇格が確定する」
「ん。悪くない――」
レイも納得顔だ。
「三千五百万か。イケメンの血で満たした風呂に入れるのう。うふふふふ」
――おっさんの血だがな。本当にすまんが。
「引き受けてくれるかね。月の墓標の代表、シン君」
一応、みんなの顔を見る。
自信に満ちた顔で小さく頷いた。
「わかりました。お受けします」
こうして俺たちは、レイドの遊撃として『嘆きの渓谷』へ突入することになった。
ただ、俺たちは知らなかった。
このレイドで特別な出来事があることを――。
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