第21話 獣人メイドがやってきた
新居を買ったので、冒険者の活動を控えめにした。
金はそこそこ貯まったし、狩りばかりも飽きる。
今後は他の冒険者と同様、日中だけ活動し、それ以外は自由時間としたのだ。
レイとアスカは夜、ミサトから虚無の訓練を受けている。
寝られない身体というのは、案外不便なのだ。
頭は常に覚醒しているため、何かを考え始めたら永遠に続いてしまう。
だから、頭がショートしそうになる。
レイとアスカは夜、ミサトから虚無の訓練を受けている。
寝られない身体というのは、案外不便なのだ。
アンデッドは常に意識が覚醒している。
だから、何かを考え始めると、延々と考え続けてしまう。
俺は洞窟で長い時間を過ごしたことで、いつの間にか考えること自体をやめていた。
だが、レイとアスカはそうはいかない。
特にレイは色々と考えすぎるところがあり、最近は少し神経質になっていた。
そこでミサトに教えてもらったのが、虚無だ。
意識を落とし、何も考えない状態を作る。
数時間でも頭を休めれば、目覚めたときには思考が驚くほどすっきりする。
レイとアスカも、少しずつその感覚を掴んできているようだった。
さらに慣れれば、虚無の状態でも危機意識だけを残すことができるらしい。
そうなれば、周囲に異変が起きたとき自然に意識を覚醒させることもできる。
ミサトが長い年月を石棺の中で過ごせたのも、この虚無のおかげなのだろう。
***
――トン、トン。
玄関の扉をノックする音。
恐らく新しく雇った家政婦が来たのだと察する。
「はいはい――」
俺は玄関の扉を開けた。
そこにはメイド服姿の十五、六歳の女性が立っていた。
「あの、家政婦の派遣でここに来ました、マヤと言います」
「あ、どうも。冒険者パーティ、月の墓標のシンです」
「えと、泊まり込みでも良いと伺っておりまして……」
マヤと名乗った女性は大きなバッグを数個、玄関前に置いていた。
「ああ、どうぞ。泊まり込み歓迎です!」
「ありがとうございます!」
「今日からよろしくね、マヤさん」
「こちらこそよろしくお願いします!」
なんて普通の挨拶を交わした。
「どうぞ、入って」
俺はマヤの荷物を半分持って家の中に招いた。
「おーーい。みんな家政婦さんが来てくれたぞー」
と大声で皆を呼んだ。
すぐに来たのはマリ。
「ひゃっ!」
そりゃ、こんだけでかいグレイウルフが来たらビビるよね。
「大丈夫。使役獣のマリです。マリ、こちらは家政婦のマヤさんだ」
クゥン――。
「マリちゃん、マヤです。よろしくね」
ガウッ――。
「え、マリちゃん、私そんなに可愛くないってば」
――はい? マヤさん?
クゥン、クゥン――。
「ううん。でもマリちゃんだってとっても綺麗で艶のある毛並みだね」
クゥン――。
――なんか、いつものやばい雰囲気がしてきたぞ。
「あ、シンさん。ごめんなさい」
「はい?」
「私、実は動物と会話できるんです」
どっひゃーーーーん!
きたきた、来ましたよぉぉぉおおお、またまた変なのがキタ―――!
――俺は女難の相でもあるんだろうか。
「おや? 獣人じゃないか」
二階の階段からミサトの声。
ん? な、なんですと?――獣人?
ミサトはスケスケのネグリジェで階段を降りてくる。
「マヤです。今日からお世話になります!」
「ああ。妾はミサトじゃ」
マヤは見惚れるようにミサトを見る。
「なんじゃ。妾の類稀なる美しさが気になるのかの?」
「はい、こんなお綺麗な方、初めてお会いしました」
「ほほほ、そうじゃろうて。おほほほほ」
マヤさん、さすがわかっていらっしゃる。
掴みはグーッ。
――そう言えばミサトがマヤを獣人だと言ってたな。
俺は改めてマヤを見る。
あ、彼女の腰の後ろにふりふりと揺れるものが――。
しかもメイド用カチューシャの横からもふっと耳が……。
こ、これは噂のけも耳少女。
許す、多少変でもいや、たとえド変態だとしても俺は許します。
――俺はマヤさんを許します!
天使がハーブを弾きながら頭上を回ってる、そんなテンションになる。
「おはようございますじゃ、家政婦さん」
「おはよ」
アスカとレイも二階から顔を出す。
「おはようございます! 家政婦のマヤです!」
アスカはヒョウ柄のパジャマ、レイは真っ白なシルクのパジャマを着て降りてきた。
アスカ、お前は大阪のおばちゃんかよ……。
俺はアスカとレイもマヤに紹介して、マヤを使用人用の部屋に案内した。
***
マヤが使用人ルームを整理し終えると、俺たちはリビングで紅茶を飲みながらマヤと話をした。
掃除や家事のルール、洗濯や料理。
最後に、この家で知ったことは決して口外しないこと。
ここはミサトが少し脅しを入れながらマヤの合意を得た。
それを踏まえて最後に給金。
相場の二倍を出すと話すと、マヤはかなり喜んでいた。
俺は肌が青白いのはそのままにしているが、女性陣は化粧で少し肌の色を変えている。
やはり、そういうところは女性らしく、気にしているようだ。
将来、俺の魔法でなんとかしてやりたいものだ。
***
その後はマヤの話に切り替わった。
彼女は犬の獣人族で、十二歳。
見た目は十五、六歳くらいに見えるが、獣人族は成長が早いのだそうだ。
一族の中には、時々マヤのようにイヌ科の動物と話ができる者が生まれるという。
本来なら一族の巫女的な存在で、ちゃんとした役目があるらしい。
だが、それが嫌で故郷を離れたとのことだった。
そういうことなら、マヤが特別変な人ってわけじゃなかった。
マヤ――すまん。
家事は巫女の修行でかなり仕込まれたらしく、ほぼ何でもこなせるそうなので俺たちとしては大変助かる。
食事なども俺たちと一緒にして、変な主従関係にはならないように俺が決めた。
多少、ミサトが労使の関係とは。
みたいなのを説いたがまだ十二歳だぞ。
俺が認めん。
「あ、それと皆さん」
「なに?何かまだ質問でもある?」
「いえ、あの……」
「皆さんが、その……アンデッドなのは絶対に秘密にします」
「えっ――」
俺たちの顔色が変わる。
「え。どこからそんな変な噂が……」
「えと…、マリちゃんです……」
「—―おい!マリ!」
マリはビクッとして立ち上がると、ダッシュで家から飛び出していった。
マリも初めて会話ができる相手が出来て嬉しかったのだろうが、言ってはならん事もあるのだ。
ま、仕方ない――。
そんなこんなで俺たちの新生活が始まった。
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