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第20話 モブ志望、黒龍弾を放つ

 俺たちは今、魔物を狩っている。


 目の前には、三メートルはありそうな巨大な魔物。


 魔物が雄叫びを上げ、こちらへ突っ込んでくる。


「来るぞ!」


 俺は魔物を見据え、右手を前へ突き出した。


 ……以前なら、こんな相手を前にしたら必死だっただろう。


 だが、今は違う。


 戦いにも慣れ、魔力の扱いにも余裕が出てきた。


 ならば――。


 俺は魔力を右手に集める。


「我が右手に宿りし漆黒の力よ……」


 魔力が渦を巻く。


「今こそ、その封印を解き放て!」


 そして――。


「黒(・)龍(・)弾(・)!」


 ドンッ!


 放たれた黒い魔力の塊が、魔物の胸に直撃する。


 魔物の動きが一瞬止まった。


 ……決まった。


 やっぱり「魔弾」なんて名前より、黒龍弾のほうが圧倒的にカッコいい。


「レイ!」


「ん」


 レイが弓を引き絞る。


 ビュンッ!


 放たれた矢が魔物の肩を貫いた。


 魔物は構わずこちらへ向かってくる。


「まだ」


 レイがさらに弓を引く。


 矢に青白い光が集まり、弓全体が大きく震えた。


「――怒弓」


 放たれた矢が魔物の胸を撃ち抜く。


 魔物の巨体が大きく傾いた。


「今ですじゃ!」


 アスカが一気に駆け込む。


 魔物の懐へ潜り込み――。


 ミスリルの短剣を、その胸へ深々と突き刺した。


 狙いは――急所。


 確かな手応えが伝わった。


 魔物の身体から力が抜け、その巨体が地面へ倒れた。


「これなら、素材も結構取れそう」


 レイが倒れた魔物を見ながら言う。


「そうですじゃ」


 アスカも満足そうに頷いた。


 ……早い。


 戦闘開始から、ほんの数分。


 しかも、全員に余裕がある。


 レイの弓も、以前より明らかに威力が増している。


 アスカの動きも速くなった。


 そして俺自身も、魔法の扱いに慣れてきた。


 戦いを重ねるたびに、俺たちは少しずつ強くなっている。


 そんな実感があった。


 そして何より――。


「……今の黒龍弾、かなりカッコよかったな」


 俺は自分で言っておきながら、満足していた。


 誰も褒めてくれないなら、自分で褒めればいい。


 そのとき――。


 ズドンッ!


 少し離れた場所で、ミサトが別の魔物を一撃で吹き飛ばした。


「妾にかかれば、この程度の魔物など敵ではない」


「……お前は別格だろ」


 俺が呟く。


 さらにマリも、倒した魔物を咥えて戻ってきた。


 ……なんというか。


 俺たちのパーティー、強くなりすぎじゃないか?


 冒険者ギルドでミサトを新たに登録し、俺の使役獣という形でマリも登録することができた。


 登録した翌日にはFランクを卒業し、三日後にはEランクも終了した。


 今はDランクパーティーとして『月の墓標』は活動し、ホームグラウンドとなる家を購入するため、昼夜を問わず頑張っている。


 ギルド内では、俺たちの異例の出世に加え、パーティーメンバーや使役獣のインパクトが凄すぎて、Dランクながらも注目の的となっていた。


 ――最悪だ。


 俺はモブりたい。


 目立ちたくない。


 誰からも注目されず、ひっそりと生きていたい。


 なのに、どうして俺の周りには、こんな目立つ奴ばかり集まってくるんだ……。


 冒険者の稼ぎは結構良く、アンデッドながら食事もできるので、宿を借りながら結構楽しくやっていた。


 魔物を狩るたび、素材をギルドで換金する。


 ミサトが加わってからは、以前なら手を出せなかった強力な魔物まで狩れるようになり、素材の売却額も一気に増えた。


 宿代や食費を差し引いても、稼ぎの大半を家の購入資金に回せるほどだった。


 これもミサトの加入が大きかった。


 とにかくミサトは超絶強いのだ。


 これで本人の魔力の二割程度だというのだから、ミイラだった頃の彼女との戦いは、本当に運が良かったとしか言えないだろう。



     ***



 さらに一か月が経った。


 俺たちは念願だった家を購入したのだ。


挿絵(By みてみん)


「ご主人、この家は凄いですじゃ」


「ん。――合格」


「まあまあかの。我が城と比べるのは酷というものじゃ」


 ガウッ、ガウッ。


 とうとう、家を購入した。


 最近は宿暮らしだったとはいえ、やっと洞窟生活から本当の意味での卒業だった。


 マリも嬉しそうにしている。


 なにせ一か月もの間、魔物を狩り続けたのだ。


 ――アンデッドだけに。


 素材を売っては貯め、また狩っては売る。


 その繰り返しで、二千八百五十万ギルの家を買えるだけの金額に届いた。


 ランクも、既にCに昇格していた。


 ここまで早いCランク到達は史上初だったらしく、ギルド中が大騒ぎだった。


 目立ちたくないのになぁ――。


 もはや、以前のように『月の墓標』をバカにする者はもういない。


 新居は少し町の外れだが、二階建ての木造建築で、部屋は六部屋。


 一階は広いリビングに厨房、ダイニングセット、風呂とトイレ、それに納戸《なんど》と使用人部屋まである。


 二階には六部屋の個室があり、風呂とトイレも備え付けられている。


 まあ、俺たちはトイレを使わないのだが。


 ミサトが言うには、食事が可能なアンデッドの飲食物は、すべて魔力へと変換されるため、排泄などはないらしい。


 ただし、飲食物の種類によって、魔力に変換される量には差があるそうだ。


 簡単に言えば、食べるものによって栄養が違うようなものだと思えばいい、とミサトは言っていた。


 この例えはわかりやすい。


 例の高級洋服店の店員は実は店の主人だったわけで、この家はその人が紹介してくれた物件だった。


 この家なら、二千八百五十万ギルの価値はあったと思う。



     ***



 早速、俺たちは部屋決めを行った。


 二階の左隅から俺、アスカ、レイ、中央にある風呂とトイレを挟んでミサトとなった。


 レイとミサトは風呂場に近いところが良いと言い張るのだ。


 ミサトの横にある二部屋は今のところ空室だ。


 マリは番犬の役目もあり、リビングの隅にふかふかのカーペットを敷いて寝床にしてもらった。


 マリもかなりご満悦の様子。


 ミサトも飲食で魔力を充填できるため、人の血が欲しいとはあまり言わなくなった。


 祝い事や記念日なんかの時だけで良いという。


 ただし、以前のような老人や病人とかの血は絶対に許さん、ときつく釘を刺された。


 ――血ならなんでもいいくせに。


 明日からは雇った家政婦もやってくる。


 可愛い子ならいいなと密かに期待している。


 なにしろ、うちの女連中はあまりに癖が強すぎるのだ。


 外見は凄いのだが、レイ以外はババアとスーパーウルトラ超絶ババア。


 俺はまだ十四歳なので、綺麗なババアには免疫が無いのだ。


 とにかく――。


 俺たちの生活は一気に変わっていったのだった。

10月10日  一挙5話公開 18:00に5話同時公開

10月11日~ 毎日3話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

10月16日~ 毎日2話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

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