↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
19/55

第18話 血を売ってください

 診療所。


 立派ではないが、二十人ほどが入れそうな木造平屋の建屋。


 玄関口にはサ(・)ン(・)ジ(・)オ(・)ン(・)診(・)療(・)所(・)と書かれた木製の看板。


 お昼過ぎの時間なので玄関は開け放たれており、中の様子が窺《うかが》えた。


 玄関を入ってすぐに受付。奥の方には何台ものベッドが並んでいる。


 ベッドで寝ている人もいるので、怪我人もいそうだ。


「入ってみようか」


「こんにちは。何の御用ですか?」


 受付台の前にいた看護服姿の若い女性が、丁寧に話しかけてくれる。


「こんにちは。えと、血が欲しいんですが……」


「え?――」


 受付の女性は――ヤバいヤツ来た。みたいな視線に変わる。


「あ。違うんですじゃ。血を料理に使いたいと言いますか……」


「血を料理――ですか?」


「バカ、アスカは黙ってろ」


 受付の女性は、完全に怪しいヤツを見る目になっている。


「血って、見てるだけで欲しくなりません? 口紅にしてみたり……とか」


「はぁ……」


「どうしたんだ?」


 女性の後ろから壮年の男性が割り込んできた。


「あ、所長。この人達が血が欲しいと……」


「はぁ? 血が欲しいって?」


 以下――割愛。


 俺たちは彼に何を言っても駄目だったわけで――。


 結局、追い出された。


     ***


 俺たちは人気の無い路地で車座になっていた。


「シン、頭悪すぎ。あれじゃ、全然だめ」


「は? レイだって賛同しただろ!」


「まぁまぁ。ご主人もレイも落ち着くのですじゃ」


『その辺で殺せば簡単な話なのにのう』


――ミサトも物騒なことを言うんじゃない!


 俺の作戦があまりにも浅慮《せんりょ》だったのは認めよう。


 だが、レイもアスカも、これといった案がなかったのも事実。


 ――しばしの沈黙。


 ふと、アスカが顔を上げた。


「ご主人、元気そうな人から血を買うのはどうですじゃ?」


「おお、その手もあるな。……あとは金か」


『むしろ、それを先に考えるのが普通じゃぞ』


 まぁ、簡単に血が手に入ると思ってたのが間違いだった。


 そんなことを話していると、目の前に『ムフフBAR』という看板が目に入った。


 俺はレイが煽情的《せんじょうてき》な衣装で接客する姿を想像する。


 こ、これは……。


「レイ。悪いがこの店で働いて……」


「却下――。」


――レイはこういうのが嫌いだったな。


 不快な表情で睨むレイが、俺の背後を急に見つめた。


 ん?――俺も背後を確認する。


 そこには別のBARの張り紙が貼られていた。


(とっても元気なオ(・)ネ(・)エ(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)。大募集よ~ん♡)


 と書かれていた。


「シン、あの店で……」


「却下だ――。」


 この店は俺にはまだ早すぎる。


     ***


 俺たちは冒険者ギルドに来ていた。


 金のためとはいえ、死の軍団が物乞いやホステスでは悲しすぎる。


 だから冒険者なのだ。


 俺たちには比類なき力がある。


 冥府の覇者――シン。


 無情の怒弓――レイ。


 エロの賢姫――アスカ。


 鮮血の女王――ミサト。


 幽冥の魔狼――マリ。


 ――マリは留守番で、ミサトは口だけだが。


 このメンバーであれば、どんなモンスターも恐れるに足りん。


 ま、俺たちもモンスター(アンデッド)なんだけどな。


     ***


 〈ぷぷっ。あの新人グループ。パーティ名が月(・)の(・)墓(・)標(・)だってさ〉


 〈きゃはは。若い男の子が考えそうな名前だわ〉


 依頼掲示板を眺める俺たちの後ろから嘲笑が聞こえる。


「ご主人、ちょっと居心地が悪いですじゃ……」


「この崇高な名称の価値もわからないバカどもが――」


〈墓標とか縁起が悪いよね。すぐ死んじゃいそう〉


「私はもう――死んでいる」


 レイがぼそりと呟く。


 ――どこかで聞いたようなセリフだが、間違ってはいない。


『他人の戯れ言など放っておけばよい』


 さすがミサト。


 何も動じないのは、さすがミイラ七百年の歴史というところか。


「これなんかどうですじゃ」


 アスカが一枚の依頼書を掲示板から剥ぎ取る。


「サイクロプスの討伐。報酬十二万ギル。Aランク以上」


「サイクロプスか。相手にとって不足なし!」


 十二万ギルという金額の価値は正直わからない。


 ただ、決して安くはないことはわかる。


「――シン、私たちはFランクだから無理」


「……………」


 アスカがこっそりと依頼書を掲示板に貼りなおす。


「えと。Fランクだと……」


 サクラ 一時間 千ギル


 家の掃除 一時間 千ギル


 迷い猫の捜索 完了 二千ギル


 荷運び 一時間 千ギル


 レミナ草の採取 一キロ 三千ギル


 大道芸 一時間 五百ギル


「だる……」


――レイ、心の声が駄々洩 《だだも》れだぞ。


「ご主人、薬草採取ならわしが詳しいですじゃ」


「ほう、レミナ草か。俺は知らん草だが、一キロで三千ギルか」


「血が買える?」


「さぁ、わからんけど、とりあえず依頼を受けよう」


     ***


 町から出た北西の山麓にて。


 辺りはすっかり夜になっていた。


 アンデッドの俺たちは夜の方が元気になるというか、昼間より魔力が高まっているのがわかる。


「レミナ草は昼間より夜の方が見つけやすいのですじゃ」


「なんで?」


「レミナ草は夜に花びらが微かに光るんですじゃ」


「それなら見つけやすいかもな」


「夜は魔物の危険もあり、この時間からレミナ草を採取する人は少ないのですじゃ」


 なるほど、そうかもしれない。


「ありましたのじゃ!」


 アスカが指さす方向に、白く輝く小さな花たちが点々と見える。


「あ、本当だ。結構光って見えるもんだな」


「アンデッドだから。人とは見え方が違う」


「レイは生前、この草を摘んだんだな」


「ん。冒険者になったばかりの頃は、みんなそう」


 夜目の利くアンデッドだからこそ、レミナ草の採取には向いているのだ。


 アスカの知識のおかげで順調にレミナ草を摘んでいく。


 一時間も歩き回ると、三人の両腕いっぱいになるほどのレミナ草を採取することができた。


挿絵(By みてみん)


     ***


 町への帰り道。


「魔物なんて全く見なかったな。というか、洞窟から出たあとも姿すらなかった」


「そういえばそうですじゃ。運が良いと言いますか、ご主人の天運?みたいなものかもですじゃ」


「ははは、そうかな」


――アスカも愛《う》い事を言うやつだ。中身はババアだが。


「私たち、人間から見たら魔物だし。普通は襲われない」


「レイ、せっかくのいい雰囲気をぶち壊すなよ」


「アスカのヨ(・)イ(・)シ(・)ョ(・)でシンがニヤついてるから、イラッとしただけ」


 なんか最近のレイは棘があるというか、心に余裕が無さそうに見える。


 少し落ち着いたらレイと二人で話してみよう。


 なんと言ってもレイは最初の眷属であり、かけがえのない友達なんだ。


 そんな事を考えながら俺たちは両手いっぱいのレミナ草を携え、不夜城とも言われる冒険者ギルドへ向かったのだった。


10月10日  一挙5話公開 18:00に5話同時公開

10月11日~ 毎日3話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

10月16日~ 毎日2話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
応援をよろしくお願いいたします!
, ,

,

,

,

,
,
,
テキスト系

,
, , , , ,
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。