第17話 女王のために、血と金を集める
洞窟。
「だから俺は頭が変になったわけじゃないんだ」
俺は、独り言だと皆に思われていたことを順を追って説明していた。
「なるほど。この石と話してたんですじゃな?」
「アスカ、意図的に変な言い方をするな」
「この石の中のバンパイア女王と話していたんだって」
「思念――会話みたいな?」
「あ――レイ、それそれ。思念会話」
『どうやら理解してくれたかの』
黙って聞いていたミサトが俺に話しかける。
「でも、思念会話と言うなら、ご主人……声を出す必要ないのでは?」
「――あ。」
「狂シン→バカシンに戻った」
「ぐぬぬ……」
『ぎゃはははは。其方らそれ以上、妾を笑わすでない』
『しかもぐぬぬ、とか言いおって。ぶっ、ぶはははは』
『先ほどから笑い過ぎて腹が痛いわ――』
――ミサト、お前は痛む腹なんて無いだろ。
『はよ皆に妾を紹介せんか!』
「でだ。こいつの名前はミサト」
俺は赤い石を指さす。
「シン、石に名前付けてる――」
「違う! この石の中にいる女王の名前だ!」
『ぶぶぶっ。……もう勘弁なのじゃ』
――いちいち俺たちの日常会話でお前は笑うな!
『日常でこれなのか。ぶははは』
『笑いで妾にダメージを与えるやつは初めてじゃ』
――うるさい! 話進めるぞ。
「ミサトが皆によろしくと言っている」
アスカは少し真面目顔になる。
「――いろいろ思うことはありますじゃ」
「でもご主人が良いと言うなら、わしも問題ないですじゃ」
「ミサト、わしはアスカですじゃ。よろしくですじゃ」
『うむ。』
「シンが良いなら。私はレイ、よろしく」
『うむ。』
「で、あそこで寝そべってるやつがマリだ」
マリはこちらに振り向くと、尻尾で地面を叩く。
『ふむ。ミスリル以外で言えば、奴の攻撃によるダメージが一番大きかったぞ』
「ミサトは今後、俺たちに色々と協力したいから、魔力の回復のために人の血が欲しいんだってさ」
「血?――バンパイアだから?」
「そう。血で魔力を回復できるらしい」
「なるほどですじゃ」
「だからこれから、人の血の調達に向かおうと思う」
「はいですじゃ!」
「ん。」
『もっと皆、妾を警戒するかと思っておったが。ずいぶん素直じゃの』
――本心はどうあれ、仲間と認めたんだ。余計なことは言わんよ。
『うむ。シンを中心に皆、良い関係じゃの』
――ああ。自慢の眷属だ。
***
「マリ、悪いがお前はここで留守番だ」
クゥン……。
マリは耳を垂らし、伏せたまま凹んでいる様子だ。
「これから人がいる町へ行くんだ。お前が行くと騒ぎになる」
「マリ、わしが何かお土産を買ってきてやるぞ」
ガウッ。
マリは納得した様子。
しかし、アスカの話を聞いてふと疑問を抱く。
「――誰か、お金持ってる?」
「…………」
全員がマリのように耳を垂れて俯いた。
『わはははは。シンよ、其方らは洞窟暮らしでろくな衣服も無し、金も無し。原始人かの? ぶ、ぶはははは――』
――ちっ。痛いとこを……。
「シン、うちのクソ親父を殺して血と金を奪えばいい」
レイが突然、怖いことを言う。
「――冗談。」
「おい! お前が言うと冗談に思えないからやめてくれ」
『金なら妾の城へ行けば幾らでもあるぞ』
――おお。ここから近いのか?
『ふむ。妾なら飛んで行けば一週間てとこじゃな』
――遠いわ!
暫く金策を考える。
「よし。以下の行動指針から選ぶぞ」
「行動指針?」
「ああ、よく聞け。まず、診療所で怪我人に頼んで血を分けてもらうのは大前提だ」
「問題は、その後の金の工面だ」
①血の入手後は何も買わずに帰ってくる。
②路上で缶を置いて皆で正座する。
③レイとアスカがBARで接客する。
「さて、どれにする?」
「殺人、強盗という手もある。一石二鳥」
「…………。」
「冗談――」
「レイ、怖い冗談は無しにしてくれ」
『其方らはアンデッドよの。人間を憎む存在というのに変わっておるのう』
――俺たちの心は人間だ。
「①しか選べない。②も③も絶対嫌」
「わしも①ですじゃ。③も魅力的な提案ではありますが」
『待て待て。金が無ければ何も買えんではないか。妾は反対じゃ』
――お前の目的は血だろ! 煩悩に負けてるんじゃねぇ!
「まぁ①か。仕方ない」
『それでは何のために町へいくのか、わからんではないか!』
――お前のためだろ!!
俺たちはジャングルの中を、徒歩四時間かけて町へ向かった。
***
「この町はなんて言うんだ?」
「サンジオンの町」
俺たちは簡素な石壁で囲われた町の入り口に立っている。
ざっと見た感じでは村と町の中間程度の大きさ。
町と言うなら、小さい部類だと思う。
俺たちは長槍を持つ軽装備の門番の前を通り過ぎ、町中へ入っていく。
「ちょっと待て」
「はい?」
門番が俺たちを見て長槍を倒して前方を塞ぐ。
「皆、顔色が悪いが大丈夫なのか?」
――あー。俺たち死人だしな。
「はい。村で体調が悪い者たちが集まって、この町の診療所へ行こうかと」
「うむ。それは大変だったな。診療所はまっすぐ行って突き当りを左だ」
「あ、ありがとうございます」
「気をつけてな」
門番は長槍を戻して俺たちを通してくれた。
『ナイスじゃ、シン。診療所の場所まで言わすとは』
「ご主人、さすがですじゃ」
「バカシン→シンに昇格」
***
俺たちは通りを見渡しながら歩いていく。
メイン通りらしく、いくつもの商店が軒を並べていた。
忙しそうに行き交う人々。
中には亜人種と思われる人たちも見かけた。
冒険者、商人、騎士、町に住む人たち。
全てが珍しく、俺の心を舞い上がらせる。
街並みはアニメでよく見る中世の世界そのものだった。
「おお、中世の町かよ。テンション上がるなー」
「普通――。」
「まぁ、普通ですじゃ」
こいつらは全く何もわかってない。
そしてもう一人、テンション激高のやつが一人。
『おお、七百年ぶりの町じゃ。あまり前と変わった感じは無いが、懐かしいのう』
――七百年経っても変わらないってのも、ある意味凄いな。
『なにか美味いもんでもあるのかの?』
――アンデッドは食えないだろ!
『ん? 普通に食えるぞ? 味もわかる』
――え。まじ?
『ああ、問題ない。腹が減らんだけじゃ』
『スケルトンなんかは無理だがな』
――これはいい事を聞いた。
「おい。俺たちも飯を食うことは可能らしいぞ」
「え。ご主人、本当ですじゃ? わしは全然、お腹減らないですじゃ」
「ああ、ミサトが教えてくれた。腹が減らないだけなんだってさ」
「味、は?」
「ああ、味覚もあるらしい」
「それは素晴らしいですじゃ」
「諦めてた――。嬉しい」
『でも食事するにも金は必要じゃぞ』
――確かに。
「やっぱり金も必要か」
「ですじゃ」
「ん。」
そんな話をしながら、俺たちは診療所の前までやってきた。
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