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第14話 石棺の女王が目を覚ました

 顔の彫刻から手に入れた赤い石を持ち、俺たちは部屋の中央にある石棺へ戻った。


 蓋に刻まれた六芒星から、あの不快な感覚がまだ漂っている。


「ここに長くいるのは危険ですじゃ」


「ああ。早く調べよう」


 俺は蓋の中央にある窪みへ、赤い石を近づけた。


「これを置けばいいのか?」


「たぶんですじゃ」


 俺は赤い石を窪みに置いた。


 ――カチッ。


 石棺全体が低く震えた。


 六芒星が赤く輝く。


「うっ……!」


 身体の奥を削られる感覚が、急激に強くなった。


「シン!」


「大丈夫だ!」


 ゴオオオオ……。


 重い音が響く。


 六芒星は強く輝いたあと、少しずつ光を弱めていった。


「……?」


「弱くなってる?」


 レイが呟く。


 俺は六芒星を見つめた。


 どうやら、赤い石を入れたことで、六芒星に施されていた何らかの封印が解除され始めたらしい。


 だが、封印が消える直前、その力が一時的に強くなった。


 その影響で、俺たちアンデッドへの負荷も強まったのだろう。


「赤い石が俺たちを攻撃しているわけじゃない……」


「封印を解除するための鍵、ということですじゃ?」


「ああ。たぶんな」


 やがて六芒星の光が完全に消えた。


 そして――


 ゴゴゴゴゴ……。


 石棺の蓋がゆっくりと動いていく。


 俺は赤い石を手に戻すと、戦闘態勢に入った。


      ***


 そして――


 中に横たわっていたのは、一人の女だった。


 干からびた灰色の身体。


 長い髪。


 古びた赤いドレス。


「……ミイラ?」


 レイが呟く。


 その瞬間。


 ミイラの目が開いた。


 真っ赤な瞳。


挿絵(By みてみん)


『――血……』


 乾いた声が響いた。


 次の瞬間。


 姿が消えた。


「――っ!」


 気づいた時には、目の前にいた。


『遅い。血をよこせ!』


 拳が腹へ突き刺さる。


「ぐっ――!」


 身体が宙に浮く。


 そのまま石柱へ叩きつけられた。


 ――ドォン!


「ご主人!」


「シン!」


 俺は壁から身体を起こした。


 肋骨が何本か折れている。


 大きなダメージだ。


 だが、動ける。


「……ダーク・リカバリー」


 折れた骨が戻っていく。


 女が目を細めた。


『再生……?』


「まあな」


『面白い』


 女が消える。


「!」


 今度はレイの前に現れた。


 レイが咄嗟に拳を振り抜く。


 ――バキッ!


 拳と拳がクロスカウンターのように互いを殴る。


「くっ!」


 レイが吹き飛ばされた。


 しかし空中で身体をひねり、着地する。


「……強い」


 レイが弓を構えた。


「なら、これ!」


 矢を放つ。


 ――ヒュン!


 矢は女の胸へ一直線に飛んだ。


 しかし――


 ガキンッ!


 矢を女が手で弾く。


 女の身体には傷一つない。


「普通の矢じゃ、ほとんど効かない……!」


『その程度か』


 女が笑う。


 アスカが短剣を構えた。


「ならば、わしが行きますじゃ!」


「待て、アスカ!」


「大丈夫ですじゃ!」


「何が大丈夫なんだ!」


「わし、怖いものはありませんのじゃ!」


「それは強さの証明になってないぞ!」


「では、行きますじゃ!」


「聞けよ!」


 アスカが勢いよく飛び込む。


「せいやぁ!」


 短剣を振り抜く。


 女は身体をひねって、あっさりとかわした。


「なっ――」


 次の瞬間。


『ほれ』


 女の蹴りがアスカの背中に入った。


 ――ドゴッ!


「ぐあっ!」


 アスカが吹き飛ぶ。


「アスカ!」


 俺は魔力を集中した。


 手のひらに黒い魔力が集まる。


 攻撃魔法は初めてだが、躊躇したらやられる。


「ダーク・ランス!」


 黒い槍状の魔力が高速で女へ飛ぶ。


 ――ズガァン!


 直撃。


 石室全体が揺れる。


 だが、煙の向こうから女が歩いてくる。


「……効いていない?」


「嘘だろ……」


 闇属性。


 俺の得意な魔法だ。


 それでも、この女にはほとんど効いていない。


『その程度の魔法では、妾を傷つけることはできぬ』


「なら、別の方法だ!」


 俺は魔力の性質を変えた。


「ソウル・バインド!」


 黒い魔力が鎖となって飛び出す。


 だが、身体ではない。


 女の魂そのものへ絡みつく。


「――っ!」


 女の動きが止まった。


『これは……!』


「身体じゃない。お前の魂を拘束してる!」


 俺はさらに魔力を込める。


 女が力ずくで動こうとする。


 ギギギギ……。


 魂の鎖が軋む。


『小賢しい真似を……!』


「今だ!」


 マリが飛び出した。


「ガアアアアッ!」


 巨大な身体が女へ体当たりする。


 ――ドゴォン!


 女が大きく吹き飛ばされた。


 その瞬間――


 ギギギギッ!


 魂に絡みついていた黒い鎖が、引きちぎられるように伸びる。


「まずい!」


 ――バキンッ!


 ソウル・バインドの鎖が砕け散った。


 女が自由になる。


『……ふん』


 女はゆっくりと立ち上がった。


 マリはそのまま女へ飛びかかる。


「ガウッ!」


 女が身をかわす。


『獣……』


 赤い瞳がマリを捉える。


『不味いだろうが、貴様から血をもらおう』


 女が一瞬でマリの前へ移動した。


 マリが噛みつく。


 しかし女はマリの首を掴み、牙を突き立てた。


 ――ガブッ!


『……?』


 女の表情が変わった。


『血が……ない?』


 マリが女を振り払う。


「ガウッ!」


 女が距離を取る。


 その表情から笑みが消えた。


『アンデッド……?』


 女は俺たちを見回した。


『ほう、面白い。同類とはの』


 女は不敵な笑みを浮かべる。


『復活したばかりでまだろくな術も使えぬ身』


『――だが、妾はバンパイアの女王』


「……バンパイアの、女王?」


 俺は女をまじまじと見た。


 灰色で干からびた肌。


 長い髪。


 古びた赤いドレス。


 どう見ても――


「なあ……」


『何だ』


「こんなし(・)わ(・)し(・)わ(・)な女王って、いるのか?」


「ご主人、それを本人に聞くのですじゃ?」


「いや、だって……」


 レイが女を見る。


「……確かに、しわしわ……ババア」


「おい、レイ!」


 女が固まった。


『…………』


 赤い瞳が、ゆっくりと俺たちを睨む。


『貴様ら……』


 声が低くなる。


『妾を怒らせたな……?』


「いや、事実を――」


『死ねぇぇぇぇっ!』


「うわっ!」


 女がブチ切れて再び突っ込んでくる。


 俺は拳を受け止めた。


「ぐっ!」


 凄まじい力。


 いかん、挑発しすぎた――。


 押し切られる。


 レイが横から蹴りを入れる。


「はあっ!」


 女が腕で防ぐ。


 その隙にマリが背後から飛びかかる。


「ガアアッ!」


 爪が女の背中を切り裂く。


「ぐっ!」


 だが、傷はすぐに塞がっていく。


「再生まで……!」


 レイが驚く。


 女はマリから距離を取ると、こちらを睨んだ。


 俺たちは一度、距離を取った。


 女は血肉を失った状態でこの強さ。


 封印されたのも納得できる。


 そして――


 シンたちの過激な初陣は、まだこれからだった。



     ***



 女王が鬼の形相でこちらへ向かってくる。


『妾をしわしわだと……!』


 その声には、先ほどまでとは比べものにならないほどの怒気が込められていた。


 女王の身体には、すでに血肉らしいものはほとんど残っていない。


 灰色の皮膚。


 細くなった身体。


 それでも――


 その存在から放たれる魔力は、凄まじかった。


「来るぞ!」


 俺が叫んだ瞬間。


 女王の姿が消えた。


「――っ!」


 次の瞬間、目の前に女王が現れる。


 爪が振り下ろされた。


 俺は咄嗟に腕を上げる。


 ――バシッ!


 爪が腕を弾いた。


 凄まじい衝撃で身体が吹き飛ばされた。


「ぐっ……!」


 背中から壁に叩きつけられる。


 骨が軋んだ。


 だが、ダメージを気にしている暇はない。


 女王はすでに次の標的へ向かっていた。


「レイ!」


「ん」


 レイが弓を引く。


 ――ヒュン!


 矢が女王へ向かって飛ぶ。


 しかし――


 女王は身体を僅かに傾けただけで矢をかわした。


 そのままレイへ迫る。


「――っ!」


 レイが後ろへ跳ぶ。


 女王の爪が、さっきまでレイがいた場所を切り裂いた。


 石床に深い爪痕が残る。


「マリ!」


「ガアアアアッ!」


 マリが横から飛び込んだ。


 巨大な身体が女王へ激突する。


 ――ドゴンッ!


 女王の身体が吹き飛ぶ。


 だが――


 空中で身体を捻ると、そのまま何事もなかったかのように着地した。


『フン……この程度か』


 女王がこちらを見る。


 その赤い瞳には、まだ余裕があった。


「……化け物かよ」


 俺は立ち上がった。


 先程の戦闘で俺は肋骨を何本か折っていたようだ。


 すぐにダーク・リカバリーを使う。


「ダーク・リカバリー!」


 魔力が身体を包み、砕けた骨が元へ戻っていく。


 しかし――


 治している間にも、女王は襲ってくる。


 休む時間すらない。


「アスカ!」


「はいですじゃ!」


 アスカが短剣を構えた。


 女王へ向かって走る。


 女王の爪と短剣がぶつかった。


 ――キィン!


 その瞬間。


 女王の爪に亀裂が入った。


「……?」


 アスカが短剣を見る。


 白銀色の刀身には、傷一つない。


 そして――


 女王の爪には、明らかな傷が残っていた。


10月10日  一挙5話公開 18:00に5話同時公開

10月11日~ 毎日3話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

10月16日~ 毎日2話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

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