第13話 地下遺跡の謎かけ石像
石の階段を、俺たちはゆっくりと下りていった。
先頭は俺。
その後ろにレイ、アスカ。
最後尾をマリがついてくる。
マリはここで何かを感じているのか、気配を探るように辺りを見回している。
階段はかなり古い。
ところどころ欠けているものの、崩れる気配はない。
「……かなり深いな」
「ん」
レイが短く答える。
しばらく下り続けると、やがて階段が途切れた。
ここまで降りると入口からの日光もほぼ届かない暗闇。
俺達アンデッドには暗闇も関係なく、視界は澄んでいる。
周囲を見渡す。
その先に広がっていたのは――巨大な地下空間だった。
「……なんだ、ここ」
思わず声が漏れる。
広い。
天井は高く、何本もの太い石柱が並んでいる。
壁には奇妙な彫刻。
床には円形の模様がいくつも刻まれ、その周囲にも複雑な文様が続いている。
天井にも規則的な模様が刻まれていた。
ただの地下室とは、とても思えない。
「祭壇……でしょうかの?」
アスカが辺りを見回す。
「分からない。だけど、何かの儀式に使われていた場所みたいだな」
俺も周囲を見回す。
ここが何のために作られた場所なのかは、さっぱり分からない。
ただ――
妙に整っている。
古代の施設。
そんな言葉が頭に浮かんだ。
そのときだった。
「……ん?」
レイが何かを見つけた。
彼女の視線の先。
部屋の中央に――
一つの石棺が置かれていた。
「棺……?」
近づいてみる。
石で作られた棺だった。
しかも、棺蓋には彫刻が施されている。
そこに彫られていたのは――六芒星だった。
六芒星の中心には小石サイズの窪みがあった。
「シン、気持ち悪い」
「わしも不快感を感じるのじゃ」
「ああ、俺もだ」
確か六芒星は聖なる印。
恐らく聖なるものは俺たちには不快として感じるのだろう。
「しかし、中が気になる」
「シン、やってみる」
不快そうな顔をしながらレイは構えた。
「えい!」
ドゴッ。
「…………」
だめか――。
「俺たち魔属性には封印は解けないかもしれないな」
「シン、腕が折れた」
レイが折れた腕をぷらぷらさせてこちらを見る。
「ここは後回しにしよう」
「ん。」
「ですじゃ」
俺はダーク・リカバリーでレイの腕を治しながら石棺を離れた。
***
ガウッ、ガウッ。
マリが吠えている。
辺りを見回すとマリが広間の最奥の壁に向いて吠えていた。
「どうした?マリ」
クゥン。〈ここが気になる〉*俺の意訳
俺たちがマリに近づいていくと、壁に顔だけの彫刻があった。
「何、これ」
「気色悪いのじゃ」
床から1メートルほどの位置に人の顔が彫られている。
顔は大きく口を開け、こちらを睨むような目。
髪も髭も伸び放題。
だがこれが男性だとはっきりとわかる。
まるで前の世界のローマにある真実の口にそっくりだ。
マリはこの顔の彫刻をずっと凝視している。
「やっぱこれに何か意味がありそうだな」
「ん。」
――その時だった。
『幾千年の時を超え、汝らよ。よく来た』
広間全体に響くような声が顔の彫刻から聞こえる。
「おわっ、びっくりした」
マリは唸って威嚇し、レイとアスカは後退る。
これはヤバいヤツかもしれない。
俺は攻撃魔法の準備をする。
『我は――』
顔の彫刻の目が赤く点滅する。
ビーム?目からビームが来るのか?
『――忘れた』
「はい?」
アスカは後ろでずっこけていた。
「何。この人」
「いや、人ではないがな」
ツッコミは忘れない。
『我は――』
彫刻の顔は言い直す。
『禁断の至宝の守護者――かな』
「おい!ふざけてんのか!」
『無礼者!ふざけているのは――』
『――――我だ』
ちっ。――完全に俺の闘気が失せる。
後ろでは再びアスカがずっこける。
「……バカなの?」
レイの厳しい一言。
『無礼者!バカという奴がバカなのだ』
くぅ……アスカ以来、変なの来た。
これだと話が進まない。
***
「なあ、あんたが禁断の至宝だっけ。守護者なんだろ?」
『如何にも』
「で、俺たちに話しかけるってことは何か意図があるってことだよな?」
『――さぁ』
「くっ。殺すぞ!このジジイ!」
『我に奪われる命など存在せぬ』
もう頭おかしくなりそう。
「レイ、バトンタッチ。俺はMP0になった」
「ん。」
「あなたは何、したい?」
『今から三つの質問を我に言うのだ』
「質問を言う?」
『我が全問正解すれば、汝らの勝ち』
『一問でも間違えれば、我の負けだ』
「……どっちに転んでも、俺たちの勝ちじゃないか?」
『そうとも言う』
「そうとしか言わないだろ!」
「え? 私たちの勝ち確?」
レイまで混乱している。
これは精神魔法の類なのか。
「アスカ、チェンジ頼む」
「はいですじゃ」
『質問を言うのだ』
「1気圧という条件下で絶対零度(-273.15℃)でも凝固しない地球上にある唯一の物質は?」
アスカ。おまっ……。
『ヘリウム』
「正解。中々やりますじゃ」
『次だ』
「相対性理論の中には二つの理論がある。その二つの理論は?」
へ。何言ってるのかわかんない。
『特殊相対性理論と一般相対性理論だ』
「正解。さすが守護者じゃ」
『次だ』
「最後は四択ですじゃ」
「チャールズ・ダーウィンが提唱した自然選択説について、当時その理論が抱えていた大きな問題は次のうちどれですじゃ?」
「① 生物が環境に適応する理由を説明できなかった。
② 生物の個体差が、どのように親から子へ受け継がれ、世代を超えて維持されるのかを説明できなかった。
③ 生物が子孫を残すことで、種が増えていく仕組みを説明できなかった。
④ 異なる環境に生息する生物が、それぞれ異なる特徴を持つ理由を説明できなかった。」
『②だ。ダーウィンは、生物に個体差が存在し、その差によって自然選択が起こることは説明した。しかし、その個体差がどのように遺伝し、世代を超えて維持されるのか、その仕組みまでは説明できなかった』
「正解。解説まで完璧ですじゃ」
『次だ』
「もう三問終わっただろ!」
こいつ……。
『くっ――全問正解か』
『――残念ながら潔く負けを認めるとしよう』
わけがわからない壮絶な問答だった。
しかも勝った気が全くしない。
勝負に勝って試合に負けた、みたいな。
『では禁断なる至宝、持っていくがよい』
突然、顔の彫刻からガラガラと機械音のような音。
と同時に顔の彫刻から嗚咽が谺する。
『おえっ…おえっ…おえっ…げぇぇぇえええええええ』
カラン。
顔の彫刻の大きく開いた口の中に赤い石が落ちる。
『さあ、持ち去るが良い』
「キモイ。シン取って」
「無理。酸っぱい匂いしそうだし」
「わしもちょっと……」
クゥン。〈無理です〉*俺の意訳
『汝ら。これは至宝だぞ』
「お前が受け取りづらくしてるんだよ!」
結局じゃんけんで負けた俺が受け取った。
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