第11話 服がないので、洞窟を出ます
アスカが人型の姿に戻ってから、数日が経った。
俺は洞窟の中で、アスカを見ていた。
長い金髪。
青白い肌。
そして――レイから借りた白いシャツ。
それだけ。
「……アスカ」
「何ですじゃ?」
「服、それしかないの?」
「そうですじゃ」
「……」
俺は視線を逸らした。
シャツ一枚。
下は何もない。
所謂ノーパンである。
そりゃそうだ。
アスカはついこの前までスケルトンだったんだから。
服なんて持っているわけがない。
アスカの中身は82歳。
しかも死後何年経ったのかも、本人ですらわからない。
この姿でその辺をうろつくのを見ていると、歳を取りすぎて羞恥心すら忘れたのかもしれない。
見た目は18歳前後。
本人の希望でボン、キュッ、ボンである。
身長は150cmくらい。
要するにロリ巨乳という類に属する82歳の美少女なのだ。
自分で言ってて頭おかしくなりそうである。
***
そして問題は――。
俺はレイを見る。
「レイ」
「何?」
「お前は?」
「私?」
レイは自分の格好を確認する。
白いシャツはアスカに貸した。
残っているのは――革の胸当てと、いつもの装備。
つまり、今のレイは素肌に革の胸当てだけを身につけている状態だ。
そう。
こちらは豊満な谷間がコンニチワと挨拶している。
「…………」
俺は再び壁を見る。
うん。
洞窟の壁は素晴らしい。
何も考えなくていい。
「シン?」
「何でもない」
「さっきから壁ばっかり見てない?」
「壁はいいぞ」
「何それ」
俺だって好きで見ているわけじゃない。
目に毒なんだ。
色々と。
この手の毒耐性はいくら冥界の王と言えど、持ち合わせていない。
俺は溜め息をついた。
***
「……服を探そう」
「服?」
「そう」
「どこで?」
「それを考えてる」
俺は洞窟内を見回す。
俺も黒いローブとボロボロのズボンくらいしかない。
レイも今はまともな服がない。
アスカに至ってはシャツ一枚。
そしてマリ。
マリは巨大な灰色狼なので、当然服なんて着ていない。
そもそも三メートルを超える狼に合う服があるのかも分からない。
だが、それ以前に――。
「装備もない」
「確かに」
レイが頷く。
「弓と矢はあるけど、予備はない」
「レイは怪力だし弓、必要なくね?」
「シン、額に石埋めるよ?」
マリがその言葉にビクッとこちらを向く。
「俺なんて杖すらないぞ、手ぶらの冥界の王とか悲しすぎる」
「棒――、その辺に落ちてる」
「お前……。」
しかもローブの中は上半身裸。
どこの変態野郎なのかって話だ。
「アスカもないですじゃ」
ガゥッ。〈私も…〉*俺の意訳
俺はマリを見る。
マリは寝そべっていながらこちらに顔を向けている。
「……まあ、マリは武器が爪と牙なんだけどさ」
昔、異世界モノのアニメで見たカッコいい鉄甲や兜なんかを装着した武装した魔獣を思い出す。
「でも魔獣用の武器や防具なんかもロマンあるよなー」
クゥン。〈欲しいかも〉*俺の意訳
マリが尻尾を一度だけ振った。
***
「問題は服や装備の入手方法だ」
俺たちは洞窟で暮らしている。
ろくな服も無い。
食べないし、夜目も効くから焚き木もしない。
生活感すら全くない。
「俺たち⋯⋯もしかして原始人以下じゃね?」
金も勿論ない。
町へ行って少し脅せば借りる事は可能だろう。
だが――。
間違いなく討伐対象になる。
「人のいる場所には行きたくない」
俺が言う。
「どうして?」
「俺たちを見たら、絶対に普通じゃないと思われるから」
俺は指を折る。
「俺は死体から身体を作った元スケルトン」
「ん。」
「レイはゾンビ」
「ん。」
「アスカも元スケルトン」
「そうですじゃ」
「マリは巨大なゾンビ狼」
マリがこちらを見る。
〈……〉
「な?」
「ん。」
レイも納得したらしい。
「確かに町には行かないほうがいい」
「そこでだ」
俺は立ち上がった。
「廃村を探す」
ビシッと洞窟の入口を指さす。
「廃村?」
「誰も住んでいない村だ」
「そこなら人に会わない?」
「その可能性が高い」
「なるほど」
「そこで服や装備、道具などを揃える」
アスカが頷く。
「探検ですじゃな」
「そう。探検だ」
俺はうなずいた。
「私たち、ゴミを漁る浮浪者――。」
レイが言ってはならない発言をする。
「ふ、浮浪者とか言うな。ジプシー⋯⋯そう、俺たちはアンデッドジプシーなのだ」
「ジプシーって⋯⋯」
「旅先の村で休む。そこは偶然にも廃村。人を探すうちに色々な残り物を見つける。そして俺たちがそれを有効に活用する。どうだ?何もやましくないだろう」
レイも頷く。
「それと――」
俺は少し考えた。
「墓場にも行く」
「…………」
レイの顔が固まった。
「墓場?」
「うん」
「シン」
「何?」
「それって……」
レイが俺を見る。
「墓場荒らしじゃない?」
「そういう言い方もある…」
「認めるんだ……」
俺は肩をすくめる。
「だって、それしかないだろ」
「何が?」
「人に会わずに物を手に入れる方法」
「…………」
「服だって、装備だって、生きてる人間から奪うわけにはいかない」
「それはそうだけど……」
「だったら、誰もいない場所にあるものを利用するしかない」
「だからって墓場……」
「仕方ない」
俺は真顔で言った。
「俺たちは金がない」
「ん」
「町に行けば人に会う」
「ですじゃ」
「下手したら討伐対象だぞ」
「あ。そうかも――」
「人に会わずに手に入れるなら、廃村と墓場しかない」
「……シン、時々ものすごく開き直る」
「気にするな」
「――気にする」
アスカが手を上げる。
「ご主人」
「何?」
「墓場には何があるですじゃ?」
「服を着せられた死体とか?」
「それは……」
レイが嫌そうな顔をする。
「ちょっと嫌」
「いや、別に死体から脱がせるとは限らないだろ」
「限らない?」
「供物として色んなものが棺に入れられてるだろうし」
「墓守の小屋や古い建物があるかもしれない」
「ああ……」
レイが少し納得する。
「そういうことなら……」
「それに」
俺は続ける。
「俺たちはアンデッドだ」
「今さら?」
「悪しき存在なんだぞ?今さらだ」
俺は胸を張った。
「そもそも俺たちは墓場がホームグラウンドみたいなもんだろ」
「それ、シンが言うと説得力ある」
「だろ?」
マリが立ち上がった。
巨大な身体をゆっくり伸ばす。
そして俺たちを見る。
「マリも行く?」
「ガウッ」〈行く行く〉*俺の意訳
力強い返事。
「よし」
俺は頷いた。
「決まりだ」
レイが弓を背負う。
アスカは借り物のシャツ一枚のまま、準備を始める。
俺も黒いローブを整える。
ローブの下は裸にボロボロのズボン。
ちょい変態ぽいが仕方がない。
――装備らしい装備はない。
だが、それでも出発するしかない。
「目的地は廃村」
俺は言う。
「そして墓場」
「本当に墓場まで行くんだ……」
レイが呟く。
「行く」
「墓場荒らしにならない?」
「もういい。話をループさせるな」
「でも⋯⋯」
「我が家へ帰るとでも思うんだ」
俺は歩き出した。
「俺たちは探検に行くぞ」
「その言い方で誤魔化してるだけじゃない?」
「気にするな」
こうして――。
俺たちは洞窟を出た。
目的は衣服と装備の確保。
向かう先は、廃村。
そして――墓場。
人に会わずに必要なものを手に入れるための、俺たちにとって初めての「探検」が始まった。
10月10日 一挙5話公開 18:00に5話同時公開
10月11日~ 毎日3話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ
10月16日~ 毎日2話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ




