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第9話 人型の身体を作る魔法陣

 俺は、洞窟の壁に描いた魔法陣を眺めていた。


「……うーん」


「どうしたのですじゃ、ご主人?」


「まだ足りない」


「何が足りないのですじゃ?」


「シンの頭の中――」


「って、レイ!」


 前から思っていたんだけど――。


――俺って皆から、末っ子みたいに扱われてる気がする。


 何かにつけて構われるというか――。


――あ、いけね。


 前世の姉ちゃんを思い出しちゃった。


 怒るとすんごい怖いんだけど、普段はすんごい優しい人。


 高校三年だったから、レイと同じ年かな。たぶん。


 ふとレイを見ると、普段は見せない笑みを俺に向けていた。


 俺は意識を戻す。


「足りないのは、魂と身体を繋ぐところ」


 魔法陣の中央には、人間の身体を簡単に描いてある。


 その周囲には、肉体を構築する術式。


 さらに外側には、魔力を流す術式を配置していた。


 だが、これだけではアスカの魂を移したとき、身体とうまく繋がるか分からない。


「ボディ・リビルドだけなら、身体を作るところまではできそうなんだけど……」


「身体を作るだけでは駄目なのですじゃ?」


「うん」


 俺は魔法陣を見つめた。


 今ある肉体をいったん分解して、組み直す。


 ずっと、そう考えていた。


――でも、本当に分解する必要があるのか?


 ボディ・スナッチを使ったとき、俺は死体を元の形に戻したわけじゃない。


 死体を魔力で肉塊に変え、そこから新しい身体を作った。


――なら、元になる肉体がなくてもいいんじゃないか?


 肉体を分解するのではなく、魔力から直接作り上げる。


――身体を作るために、身体を壊す必要はない。


「……そうか」


「どうしたのですじゃ、ご主人?」


「肉体を分解しなくても、魔力から直接構築できるかもしれない」


 俺は魔法陣の術式を書き直した。


「そうすれば、アスカの今の身体を壊さずに、新しい身体を作れる」


「それは……わしにもできるのですじゃ?」


「まだ分からない。でも、試す価値はある」


 俺は壁に、新しく文字を書き足した。


 ボディ・リビルド。


 その横に、ソウル・トランスファー。


 さらに、リジュベネーション。


「この三つを組み合わせれば、身体を作って、年齢を調整して、魂を移すところまではできそうだ」


「では、もう完成ではないのですじゃ?」


「そこなんだよ」


 俺は腕を組んだ。


「魂を移したあと、どうやって身体を動かす?」


「今のわしと同じように、魔力で動かすのではないのですじゃ?」


「それならいいんだけど……」


 俺はアスカを見た。


 今のアスカは、獣の身体を持っている。


 魂と魔力で、その身体を動かしていた。


 でも、これから作るのは人間の身体だ。


「人間の身体なら、普通は心臓が動いて、血液が流れて、呼吸して……」


 そこまで言って、俺は口を閉じた。


「……いや」


「どうしたのですじゃ?」


「それじゃ駄目だ」


 俺は壁に描いた式を見た。


 リザレクション。


 あれは死んだ人間を蘇らせる魔法だ。


 でも、俺たちアンデッドは、生きた人間と同じ仕組みで動いているわけじゃない。


「アスカを人間の身体に移すなら、その身体をどう動かすか考えないと」


「わしは今まで、どうやって動いておったのですじゃ?」


「魂と魔力で身体を動かしてた」


「では、新しい身体でも同じではないのですじゃ?」


「……そうか」


 俺は壁に大きく書き込んだ。


 魂+魔力→肉体を制御。


「これだ」


 アンデッドは、魂が魔力を介して肉体を制御する。


 だったら、新しい身体も同じ仕組みで動かせばいい。


「つまり、新しい身体を作って、アスカの魂を繋いで、魔力で身体を制御できるようにする」


「それなら、できそうなのですじゃ?」


「うん。少し見えてきた」


     ***


 俺は魔法陣を書き直した。


 肉体を構築する術式。


 その中心に、魂を接続する術式。


 さらに、その周囲に魔力を流す術式。


「ここをこうして……」


 線を一本引く。


「こっちは……」


 もう一本。


「違うな」


 線を消し、別の場所に引き直す。


 レイが横から覗き込んでいた。


「シン、さっきから同じところばっかり書いてない?」


「そこが重要なんだよ」


「そんなに難しいの?」


「魂だからな」


 俺は真剣に答えた。


「身体なら壊れても直せるかもしれない。でも、魂はそう簡単にはいかない」


 アスカが静かに俺を見た。


「ご主人……」


「ん?」


「わしのために、そこまで考えてくれておるのですじゃな」


「当たり前だろ」


 俺は振り返った。


「アスカを人型に戻したいんだから」


「……ありがとうですじゃ」


「うまくいけば、死体は必要なくなる」


 アスカが少し笑う。


 俺は照れくさくなり、すぐに壁へ向き直った。


「よし。次は年齢だ」


「年齢はどうするのですじゃ?」


「リジュベネーションを使う」


 俺は術式を確認した。


「今の身体を若返らせるんじゃなくて、新しく作る身体の細胞年齢を最初から調整する」


「よくわからんのですじゃ」


「俺が理解しているから問題ない」


     ***


 俺は、さらに考えた。


「アスカは若いころ、どんな姿だった?」


 アスカは少し考えた。


「この金色の髪くらいで、背は小さいほうですじゃ」


――その程度か。


「……結構、大変だ」


「アスカの好きな容姿にしてあげたら?」


「それも、そうだな」


 以前、アスカがふざけて言っていた言葉を思い出す。


 たしか、ボン、キュッ、ボン――だっけ。


 俺は少し笑い、魔法陣を見た。


 最初に描いたときより、かなり複雑になっている。


「これなら……」


 俺は魔法陣の中央に手をかざし、魔力を少しだけ流した。


 描いた線が淡く光る。


「おお……」


 レイが声を上げた。


「ちゃんと反応してる」


「まだ試すだけだよ」


 俺はすぐに魔力を止めた。


「今日は身体を作るところまで試す」


「もう使うのですじゃ?」


「本番じゃない。まずは小さな肉片を作ってみる」


「いきなり人間を作ったら危ないですからのう」


 俺は魔法陣の一部に魔力を集中させた。


 壁の前に、小さな肉の塊が現れる。


「……できた」


「これ、本当に肉?」


「たぶん」


「また、たぶん」


 俺は肉塊に魔力を流してみた。


 すると――。


 肉塊が、生きているかのように脈打った。


「おお……」


――肉体を作れただけじゃない。魔力で動かせるのか?


挿絵(By みてみん)


 俺はさらに魔力を流した。


 肉塊は、ゆっくりと脈動を続ける。


 次に、肉塊を腐らせるイメージを思い描いた。


 肉が黒ずみ、形を崩していく。


「これが細胞年齢の劣化か」


――今度は、元に戻せるか?


 ボディ・リビルドの術式を使う。


 崩れた肉塊が、ゆっくり元の形を取り戻した。


「よし。細胞年齢を戻せた」


 小さな実験だが、肉体を作るだけでなく、魔力で動かし、形や細胞年齢を変えられることも確かめられた。


「一歩前進だな」


 俺は魔法陣を消さずに残した。


 肉体は作れそうだ。


 年齢も調整できそうだ。


 魂を移す術式もある。


 あとは、それらを一つにする。


「あと……もう少しだ」


 身体を作り、魂を移す。


 あとは、魂と新しい身体を魔法陣で正しく繋げられるか確かめるだけだ。


「もう少し考えれば、形にできそうだ」


「ご主人、無理はしないでほしいですじゃ」


「分かってる」


 俺は壁から離れた。


「今日はここまでにしよう」


「もう休むのですじゃ?」


「うん。身体を休めるっていうより、頭を休めたい」


 魔法陣を最後にもう一度確認する。


 まだ完成していない。


 でも、最初よりずっと先に進んだ。


「明日、もう一度考えよう」


「はいですじゃ、ご主人」


 俺たちは魔法陣を残し、洞窟の奥へ戻った。

10月10日  一挙5話公開 18:00に5話同時公開

10月11日~ 毎日3話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

10月16日~ 毎日2話公開 毎日18:00から30分毎に1話づつ

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