7話 結ばれて・殺されて
その瞬間に周囲の環境はなくなったように感じた。虫の鳴く音、波が揺れる音、全ての音を置き去りにしたような、それくらいの緊張感が辺りに染み渡る。私は雰囲気に圧倒された。
マガモ「この話はねぇ、あの子に伝えると行ってしまうと思って言わなかったんだがな」
私は唾を飲み込み話を聞く。
マガモ「タワーには『結羽』(ムスビバネ)があるんだ」
蒼「結…羽?」
結羽。その言葉は今まで一度も聞いたことがない言葉だった。
タワーにそれがあるなら、この世界から出るために何か関係があるのだろうか?と考えた。
蒼「その結羽がこの世界から出るのに関係あるってことですか?」
マガモ「まだあたしにもよくわからない…が、この世界から出るのと関係があることはわかる」
蒼「なんで出れると思うんですか?」
さっきまでなくなっていた音が周囲に響く。
マガモ「あたしはタワーに行ったことがある」
どうやらマガモさんはタワーに行ったことがあるらしい。
蒼「なんでマガモさんはタワーに行ったんですか?」
マガモ「若気の至りみたいなもんだよ、友人と一緒にタワーを調べにいったのさ」
マガモさんはシャツをめくり脇腹を見せる。そこには、何かに突き刺されたような大きな傷あとがあった。
マガモ「この傷はねぇ…奴らに負わされたんだ」
私は昨夜の会話の記憶が脳内に駆け巡る。
蒼「ウミネコ、ですか?」
マガモは頷き、語りかける。
マガモ「タワーに行けば何かがわかる、それをソラに伝えたら必ずタワーに行くとわかっていた」
マガモ「あえて隠していたのに、あの子はタワーに行こうとした」
マガモさんは今までとは違う、マガモさん自身の本心がボロボロと口から溢れていた。
もう失いたくない
という感情が何も事情を知らなかった私にも伝わってきた。
マガモ「あんたたちが、行くことはあたしには止められない」
マガモ「嗚呼、これが『運命』ってやつなんだねぇ…」
マガモさんは涙を流しながらそう言葉をこぼした。
マガモ「でも、あんたと数日共にしてわかったさ、蒼、あんたにも帰りたいっていう『信念』があることを」
信念…か、私は今までそんなこと考えずに生きていたのに、なぜかその言葉が頭にこびりつく。
私の帰りたいという思い、それを『信念』と言うのだろうか。
蒼「それはなんでですか?」
マガモ「勘っだよ」
その声を聞き、やっぱり育ての『親』だと実感した。
お茶をすすり、エイヒレがなくなる。
マガモ「いやだねぇ、年を取るとすぐ涙もろくなっちゃうなんてねぇ」
マガモさんはいつもと同じ声に戻った。
マガモ「そうだそうだ、あそこに行く前に、備えが必要だねぇ、そうだ、これを持っていきな」
マガモさんは部屋に戻り、あるものを持ってきた。
蒼「銃!?」
急に近代的な武器をマガモさんは私に託してきた。
さっきの暖かかった空気が、一気に冷え切ったように感じた。今日までずっと平和に暮らしてきた。釣りをして、料理を教えてもらった。
でも
目の前に渡されようとしているのは、人を殺すための道具だ。私はそれを、受け取らないといけない。
マガモ「この先、絶対に使うことになるだろうねぇ、その時は、タダでは帰れないだろう」
その発言に、冷や汗が背筋を伝う。
蒼「で、でも銃なんて使い方わからないですよ!」
マガモ「大丈夫大丈夫、あたしが教えてあげるよ」
ぐっと重い考えが広がる。ここは異世界だ。元々の世界のように法律がなければ、守ってくれる警察の存在もいない。
自分が銃を使うってことは、殺され、殺す可能性がある。
私はそんなことはしたくない。
マガモ「ああ、もう夜遅い、あんたももう寝な、睡眠が足りないと明日に支障が出るよ」
そう言い、マガモさんはトンビコートを羽織り、部屋に戻っていった。
部屋に戻り、布団に入る。その時、横から声が聞こえた。
ソラ「マガモさんと話していたの?」
蒼「あ、うん」
私は目をそらし、テンパった。
ソラ「マガモさんから何か話されたんだろ?」
ソラ「まあ、良い。少し言いたいことがあるんだ」
ソラ「明後日の朝にここを出る」
その言葉に目を見開いた。
蒼「え、もう出るの?」
ソラ「あまり、長居し過ぎると良くないからな」
蒼「…マガモさんはそれを知っているの?」
ソラ「あの人のことだ、最初からずっと気づいていただろう」
蒼「……そっか」
一晩にして、私の頭の中では整理しきれないほどの情報量が話された。
マガモさんのこと、ソラのことを考えるとやるせない気持ちが浮かび上がってきた。
私は今後について考え、眠りについた。




