2話 港と管理人
波の音がなくなり、脳内の時が止まった。
まるでゲームのメニュー画面のような感覚に襲われ、頬から冷たい汗が垂れる。それと同時に何処か安心や嬉しいといった感情が押し寄せてきた。
そう
私は「ソラ」という名前を知っている。
だが、知っているだけでその名前については何も覚えていない。例えるなら幼少期に見ていたテレビ番組のキャラクターを覚えているような感覚だ。
トントントン
ソラ「おーい、大丈夫か?」
肩を叩かれ、止まっていた世界が動き出す。
蒼「あ、ごめんごめん、ちょっとぼーっとしてて」
ソラ「もう少しでつくよ」
そう言われ、奥を見てみると小さな漁港と船が何隻か並んでいた。
その手前には和風?というべきか、山小屋のような木造の家が見えた。
港が近づくにつれ船や家がよく見えた。家は手入れがされていて、他の廃墟にはない生活感が感じられる。
ガタガタガタ
ドアが開き、誰かが出てきた。
ソラ「あ、マガモさーん!」
マガモ「やぁ、ソラ生きてたのかい」
「マガモ」というらしい。見た目は20〜30歳ほどで、髪は緑色。黒い帽子を被っている。服装はザ・大正浪漫のような感じだ。
ソラ「ちょっと、冗談やめてくださいよ!」
ソラは不機嫌そうに言い返した。
マガモ「まあまあいいじゃないか」
マガモはソラの表情を見て楽しんでいるようだ。
マガモ「おっとと、そっちの人は?見ない顔だねぇ」
マガモ「お前さん、名前は?」
蒼「あ、蒼っていいます!」
マガモ「そうかい!あたしゃここで管理人をやってるマガモって言うんだい」
マガモ「こんな辺鄙な場所にくるなんてあんたは随分物好きだねぇ」
ソラ「船を借りに来たんです」
ソラは少しイライラしながらマガモに対し、船を貸してくれるよう頼んだ。
マガモ「ええよ、借りてき!」
マガモ「でも、もうすぐ日が沈む。今日はうちに泊まり」
そう言われ、私たちは家へ入っていった。
家に入ると木の匂いだろうか、おばあちゃん家や実家のような安心感が体に広がった。
玄関にはカギや傘が置いてあり、廊下には箱がいくつも積まれている。
マガモ「狭い家ですまないねぇ」
ギシギシ
階段の壁には大きな魚拓が飾られている。
マガモ「今日はここで寝てくれ、飯ができたらまたくるからねぇ」そう言いマガモは下に降りていった。
部屋は四畳程度の広さで、丁寧に掃除されていて、机があり、襖には布団がいくつか入っていた。
荷物を置き、ソラと蒼は座る。
ソラ「この部屋はな、元々俺が使ってたんだ」
ソラ「今は一人で住んでる場所を転々としてる」
ソラは寝転がりながらそう言った。
蒼「マガモさんとは親子なの?」
ソラ「いや、一人でいる時に保護して貰ったんだ」
バタンッ
マガモ「飯できたで」
マガモが急にドアを開けてきた。
ソラ「うわぁ!せめてノックぐらいしてくださいよ!」
中学生が親に急に入られたようにソラはびっくりした。
マガモ「すまんすまん、冷めちまうから早く下に降りてき」
階段を降りて、居間に入った。
居間は広く、畳には座布団が3つ敷かれていて、その間には長い机が置いてある。壁には廊下の壁と同じような魚拓が飾られていて、その下には本棚があり、古い本が並んでいる。奥の襖は開かれていて少し涼しく感じる。
マガモ「はよ、座り」
おっと部屋をジロジロ見すぎていたか。座布団に座る。
マガモ「腹減ってると思うし、もう食べてええよ」
蒼「ありがとうございます!」
ご飯は野菜の味噌汁と青魚が焼いてあった。野菜の味噌汁は温かく、疲れた体にしみる。具はアサリなどの貝や大根やニンジンなどの根菜が入っている。
魚は白身で身がフワフワでシンプルな塩味の味付けがとても美味しい。
マガモ「ハハハ!そんなに腹が減ってたのかい!」
蒼「この味噌汁めちゃくちゃ美味いですね」
マガモ「この野菜はうちの畑で育てた野菜だからねぇ、喜んでもらえてなによりだい」
飯を食べ終わり、ソラが真剣な眼差しで口を開いた。
ソラ「マガモさん、依頼の話なんですが…」
ソラ「『ウミネコ』はいませんでした」
マガモ「そうかい、なら良かった」
蒼「あのー、その『ウミネコ』ってなんなんですか?」
私は初めて聞く言葉に疑問を持った。
ソラ「あ、そっか蒼は来たばかりだから知らないか」
ソラ「簡単に説明すると、2〜3メートルぐらいの大きさでさ、羽毛の生えてるやつも入れば鱗に覆われているやつもいる二足歩行の怪物」
ソラ「ようするにバケモンつーわけ」
蒼「そんなバケモンがいるの!?」
マガモ「だから今日は泊まりって言ったんよ」
私は驚愕した。異世界だとはわかっていたが、そんなアニメやゲームのようなバケモンがいるとは。
ソラ「それでさ、マガモさん俺たち『タワー』に行こうと思うんだ。」
その瞬間、空気が重くなり、マガモはさっきのような陽気な雰囲気ではなくなった。
マガモ「二人で行くんやったらあたしゃあまりおすすめしないね」
マガモ「それこそ、冗談じゃなく本当に死ぬかもしれないからね」
マガモは玄関のときとは違う、本当に死ぬと私たちに言っている、そう感じた。
マガモ「ま、今日はもう夜が遅いし早く寝な」
空気が戻り、部屋を出た。その後、風呂に入り、服を貸してもらい、私たちは部屋へ戻った。
布団を敷き、二人は布団に入る。
蒼「今日は色々あったなぁ」
私は窓を見て、綺麗だと思った。夜空は都会では見れないであろう美しい星々が輝いていた。
私は美しい夜空を見ながら眠りに落ちた。




