「終わりのはじまり」
# 第七話
## 「終わりのはじまり」
その日も、
いつも通り昼休みが始まった。
「かなとさん、お昼行きます?」
三階から降りてきたなぎが、
いつものように笑う。
「はい」
並んでエレベーターへ乗る。
一階のレストランへ向かう。
窓際の、
いつもの席。
店員に顔を覚えられていることにも、
もう慣れてしまっていた。
「かなとさん、最近また唐揚げ率高くないですか?」
「なぎさんが毎回それ言うからですよ」
「いや、本当に好きなんだなって」
笑いながら、
なぎも同じ定食を頼む。
そんな、
いつも通りの昼休みだった。
ずっと、
続く気がしていた。
「……あの」
珍しく、
なぎが少し言いづらそうに口を開いた。
箸を持つ手が止まる。
「どうしました?」
なぎは少しだけ視線を落として、
水の入ったコップを指で触った。
それから、
困ったように笑う。
「来月、異動になりました」
一瞬。
周りの音が遠くなった気がした。
「……え?」
間抜けな声が漏れる。
なぎは苦笑いした。
「急ですよね。僕も昨日聞いて」
県外の本社。
そう説明されても、
うまく頭に入ってこない。
ただ。
“来月からいなくなる”
その言葉だけが、
胸の中に重く残った。
「あー……出世ですね」
なんとか笑って返す。
声が少しだけ掠れていた。
「いやいや、全然ですよ」
なぎはいつも通り笑う。
その“いつも通り”が、
少しだけ苦しかった。
「寂しくなりますね」
気づけば、
そんな言葉が口から出ていた。
なぎが少し目を丸くする。
でもすぐに、
柔らかく笑った。
「ですね」
たったそれだけ。
でも、
その短い返事が、
妙に嬉しかった。
昼休みは、
いつも通り過ぎていく。
仕事の話。
上司の愚痴。
どうでもいい話。
笑い声。
全部、
いつも通り。
なのに。
もう、
終わりが見えてしまった。
昼休みが終わり、
店を出る。
エレベーターを待ちながら、
僕は無意識にカレンダーを思い浮かべていた。
来月。
あと何回、
こうして一緒に昼を食べられるんだろう。
「かなとさん?」
なぎに呼ばれて、
慌てて顔を上げる。
「大丈夫ですか?」
「え?」
「なんか、ぼーっとしてました」
心配そうに笑うなぎに、
慌てて首を振る。
「大丈夫です」
本当は、
全然大丈夫じゃなかった。
エレベーターが開く。
いつものように、
二階と三階で別れる。
「午後も頑張りましょう」
なぎが笑う。
「……はい」
閉まりかけた扉の向こうで、
なぎが軽く手を振った。
その姿を見ながら、
僕は思ってしまった。
終わってほしくない。
初めて、
そう強く思った。




