↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『彼とは、昼休みにしか会えなかった』  作者: ともり。


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/11

「いつもの席」

# 第五話


## 「いつもの席」


休日に誘ってから、

なぎとの距離感が少し変わった気がしていた。


いや。


変わったというより、

僕が勝手に意識してしまっているだけなのかもしれない。


昼休み。


スマホの時計が十二時を回る。


いつもなら、

そろそろなぎが二階へ降りてくる時間だった。


でも、

僕は席を立たなかった。


パソコンの画面を見つめたまま、

意味もなくメールを開いて閉じる。


「かなとくん、お昼行かないの?」


同僚に声をかけられ、

適当に笑った。


「ちょっと仕事残ってるので」


嘘だった。


本当は、

会うのが怖かった。


あの日から、

なぎはいつも通りだった。


普通に話しかけてくるし、

笑うし、

昼も誘ってくれる。


でも。


“休日に会う”ことだけは、

自然に流された。


断られたわけじゃない。


だから余計に苦しかった。


期待した自分だけが、

勝手に置いていかれている気がした。


結局その日は、

コンビニで買ったパンを休憩室で食べた。


一人の昼休みなんて、

久しぶりだった。


静かで、

気楽で。


……少し寂しい。


それから数日。


僕はなぎを避けるようになっていた。


昼の時間をずらす。


エレベーターを使わず階段を使う。


一階のレストランにも行かない。


自分でも、

面倒くさいことをしていると思う。


でも、

こうでもしないと、

気持ちがどんどん大きくなってしまいそうだった。


ある日の午後。


コピー機の前で資料を揃えていると、

後ろから声がした。


「かなとさん」


その声だけで、

心臓が跳ねる。


振り返ると、

なぎが立っていた。


「あ、お疲れさまです」


できるだけ普通に返す。


でも、

少し声が硬かったかもしれない。


なぎはそんな僕を見て、

少し不思議そうに首を傾げた。


「最近、お昼行ってないですよね」


胸が苦しくなる。


やっぱり気づかれていた。


「……ちょっと忙しくて」


咄嗟にそう答える。


なぎは「あー」と納得したように頷いた。


「年度末近いですもんね」


優しい。


本当に、

優しい人だ。


だから、

勘違いしてしまう。


「かなとさんと話すの、結構好きだったんですけど」


さらっと、

なぎがそう言った。


コピー機の機械音だけが、

妙に大きく聞こえる。


「……え?」


思わず聞き返してしまう。


「いや、一緒にいると落ち着くというか」


なぎは少し笑いながら続けた。


「職場で一番話しやすいんですよね」


その言葉が、

胸に刺さる。


嬉しい。


でも。


欲しかった言葉は、

きっとそれじゃない。


「……ありがとうございます」


なんとか笑う。


なぎは、

何も気づいていない顔で笑っていた。


その日の昼休み。


僕は用もないのに、

一階へ降りた。


レストランの前を通り過ぎようとして、

無意識に中を見てしまう。


窓際。


いつもの席。


なぎが一人で座っていた。


定食を前にしながら、

時々、

入口の方を見ている。


その姿を見た瞬間、

胸が締めつけられた。


――待ってたのかな。


そんな都合のいいこと、

あるわけないのに。


それでも、

少しだけ期待してしまう自分がいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。