「休日には会えない」
# 第四話
## 「休日には会えない」
気づけば、
なぎと昼を食べるようになって半年が経っていた。
最初は緊張していたはずなのに、
今では自然に隣へ座っている。
「今日は定食にします?」
「うーん、かなとさんは?」
そんなやり取りも、
当たり前になっていた。
なぎは、
僕の好きなメニューを覚えていた。
「かなとさん、唐揚げ率高くないですか?」
「いや、ここの唐揚げ美味しいんですよ」
「わかります」
笑いながら、
なぎも同じものを注文する。
そんな小さなことが、
嬉しかった。
昼休みの一時間。
それだけで、
十分幸せだったはずなのに。
最近は、
少し違った。
もっと話したい。
もっと知りたい。
昼休みが終わるたび、
物足りなさが残る。
仕事中、
ふとスマホを見てしまう。
なぎからLINEが来ていないか確認して、
来ていないことに少し落ち込む。
完全に、
好きだった。
自覚したくないくらいには。
「かなとさんって、休みの日何してるんですか?」
ある日の昼休み。
なぎが箸を止めて、
何気なく聞いてきた。
「え、僕ですか?」
「はい」
「映画見たり……家いたりですかね」
「インドアですね」
「なぎさんこそ、友達多そうじゃないですか」
そう言うと、
なぎは少し困ったように笑った。
「いや、全然ですよ」
たぶん、
そんなことない。
優しいし、
話しやすいし、
絶対モテる。
でも、
本人は本当に自覚がなさそうだった。
「最近、なんか映画やってましたよね」
なぎがスマホを見ながら言う。
「あー、話題のやつですか?」
「それです」
そこまで言って、
会話が途切れる。
今だ。
そう思った。
でも、
喉が変に乾く。
誘うだけ。
ただ、
「一緒に行きませんか」って言うだけ。
なのに、
心臓がうるさい。
もし断られたら。
もし、
困らせたら。
そんなことばかり浮かぶ。
でも。
このままずっと、
昼休みだけで終わるのは嫌だった。
「……もしよかったら」
自分でも驚くくらい、
声が小さかった。
なぎが顔を上げる。
「今度、一緒に行きませんか?」
言った瞬間、
逃げたくなった。
なぎは少しだけ目を丸くして、
それから小さく笑った。
「休日ですか?」
「……はい」
「なんか、不思議ですね」
「え?」
「かなとさんと、仕事以外で会うの」
その言葉に、
胸が苦しくなる。
期待してしまう。
もしかして、
って。
でも。
「あー……でも最近、休みの日ずっと寝てるんですよね」
なぎが苦笑いしながら、
水を飲む。
「あ、そうなんですね」
なんとか笑って返す。
断られたわけじゃない。
でも、
誘いに乗ったわけでもない。
その曖昧さが、
逆に苦しかった。
「忙しいですもんね」
「ですねぇ……」
なぎは申し訳なさそうに笑う。
優しい。
本当に優しい人だ。
だから、
期待してしまう。
昼休みが終わり、
二人で店を出る。
午後の日差しが、
ガラス越しに差し込んでいた。
エレベーターの前。
いつもの距離。
いつもの空気。
「じゃあ、また来週ですね」
なぎが笑う。
「はい。また」
エレベーターの扉が閉まる。
映った自分の顔が、
思ったよりちゃんと笑えていて、
少し安心した。
――結局。
僕たちは、
昼休みの外では会えないんだな。
そう思った瞬間、
胸の奥が、
少しだけ痛かった。




