「今日も、隣の席で」
# 第三話
## 「今日も、隣の席で」
最初に一緒に昼を食べた日から、
気づけば、それが当たり前になっていた。
「かなとさん、お昼行きます?」
昼前になると、
なぎが二階へ降りてくる。
最初は偶然だったはずなのに、
今では自然と待ち合わせるようになっていた。
「今日は混んでますね」
「ですね。奥空いてるかも」
そんな会話をしながら、
一階のレストランへ向かう。
昼休みの一時間。
たったそれだけなのに、
僕にとっては、
一日の中で一番気が抜ける時間になっていた。
仕事の話もした。
取引先のこと。
上司のこと。
書類が多すぎるとか、
電話が鳴りすぎるとか。
どうでもいい愚痴を言い合って、
二人で笑う。
それだけで、
少し救われる。
「かなとさんって、ちゃんとしてますよね」
ある日、
なぎが味噌汁を飲みながら言った。
「え?」
「仕事できる感じします」
「そんなことないですよ」
思わず苦笑いする。
実際は、
毎日いっぱいいっぱいだ。
ミスしないように必死で、
余裕なんてない。
でも、
なぎは不思議そうに首を傾げた。
「いや、なんか安心感あります」
その言葉だけで、
胸の奥が熱くなる。
だめだ。
こんなの、
好きになるに決まってる。
最近は、
職場でも少しずつ知られるようになっていた。
「かなとくん、最近三階の人と仲良いね」
同僚にそう言われて、
心臓が跳ねる。
「いや、たまたま昼が被るだけですよ」
慌ててそう返したけれど、
自分でも苦しい言い訳だと思った。
だって、
毎日のように一緒にいる。
昼休みになれば、
自然となぎを探してしまう。
エレベーター前にいないだけで、
少し落ち込むくらいには。
「……重症だな」
誰もいない給湯室で、
小さく呟く。
なぎはたぶん、
何も考えていない。
ただ話しやすいから、
一緒にいるだけ。
それくらい、
わかっていた。
でも、
期待してしまう。
優しくされるたび、
勘違いしそうになる。
ある日の昼休み。
窓際の席に座りながら、
なぎがスマホを見ていた。
「休みの日って、何してるんですか?」
なんとなく聞いてみる。
なぎは顔を上げて、
少し考えるように笑った。
「友達とご飯行ったりですかね」
「あー、いいですね」
「かなとさんは?」
「僕ですか?」
特に思いつかなかった。
休みの日も、
疲れて寝て終わることが多い。
「映画見たり、家いたり……ですかね」
「インドアなんですね」
「まあ、そうですね」
なぎが小さく笑う。
その横顔を見ながら、
僕は少しだけ期待した。
映画。
もし、
「今度行きません?」って言われたら。
そんなことを考えてしまう。
でも、
なぎはそれ以上何も言わなかった。
ただ、
いつも通り笑って、
定食を食べている。
――そりゃそうだよな。
勝手に期待して、
勝手に落ち込む。
馬鹿みたいだ。
昼休みが終わり、
店を出る。
「午後も頑張りましょう」
なぎがそう言って笑う。
その笑顔だけで、
また明日も頑張れると思ってしまう自分がいた。
エレベーターの前で、
なぎがふとこちらを見た。
「かなとさんといると、落ち着きます」
心臓が、
大きく跳ねる。
けれど。
「職場で一番話しやすいです」
そう続けて、
なぎは柔らかく笑った。
嬉しいのに。
苦しかった。
僕だけが、
この時間を特別だと思っている気がして。




