表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/40

姫、歌を詠む

 

「目上の方を差し置いて、私から先に詠むなど畏れ多いことです。それに、私は湯殿の火焚き女。歌など詠めるはずもありません」


 姫は遠慮していた。これ以上、ここで自分が何かするのは生意気すぎると思ったからだ。

(私は雇われていた身分だし、新参者だし。目立つことをして、これ以上憎まれるようなことになったら……)


 ずっと俯き加減だったにのさまが、顔を上げて姫を見据え、強い調子で言った。

「何を仰るの? 今日はあなたのお披露目の日なのよ。いわばあなたが主賓(しゅひん)なのですから、最初にお歌を詠んで下さらなくては」


「にのさまの言うとおりですわ。……でも、そうね。何か、お題が必要かしら。春夏秋冬の花を詠む、なんてどう?」

 いっちひめの言葉に仕方なく、姫は用意された色紙と筆を手に取った。


(歌なんか、すぐに詠めるもんじゃないわ。手蹟()も楽しみ! どうせ下手くそな歌を下手くそな手蹟()認めて(したためて)、お茶を濁すつもりよね。さぁて、どうやって笑い者にしてやろうかな)


 いっちひめの思考は、姫の「出来ましてございます」という言葉に遮られ、彼女は「ぷはっ」と変な声を漏らした。


「もう出来たの?!」

 いっちひめの問いに、姫が恥ずかしそうに微笑む。

 姫から大蔵、そして北の方に色紙が渡され、色紙を見た北の方は驚きの声を上げた。

「なんと見事な!」


 北の方はまず、姫の手蹟の見事さに唸り、歌のうまさに感嘆した。

 春夏秋冬の花、春は桜、夏は橘、秋は菊、冬は寒梅。

 四季を彩る大和国の花全てが美しく、人間である私たちが比較するのは烏滸がましい、といった歌であった。


(その通りだわ。

 嫁比べも同じこと。

 人間の優劣を競わせるなど、失礼極まりない。

 私たちは、神仏や地獄の閻魔様でもあるまいに)


 北の方は恥ずかしくなった。提案者である大蔵など涙目である。




【註】

 手蹟())書いた文字、筆跡のこと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ