真のエンディング。
「帰りましょうか」
少し落ち着いて、アリスがゆっくりと立ち上がった。
みんなの表情にも、やりっきた感が溢れている。
そりゃそうだ。なんせ魔王を倒したんだから。
世界を救った。それはとんでもなくすごいことだろう。
でも、まだ――。
「あの、みなさん。ちょっとこっちへ」
私はみんなを連れて、魔王のいた場所からさらに奥へと進んでいった。
上へ続く細い階段を、ぞろぞろと並んで昇っていく。
「おい。どこに行くんだ。なぜこんな階段があるのを知っているんだ!?」
文句を言いながらも、ヴァンは後ろをついてくる。
まあ普通はみんな知らないだろう。魔王のいた場所自体に、みんなは初めて来たのだから。
「わあ!」
強い風が、アリスの髪をなびかせる。
私たちの眼下には、枯れ果てた大地の景色が広がっていた。
「なんだこの場所は!?」
「かなり遠くまで見えますわ。それにこれは……?」
アメリアが指さした先には、透明なオーブが置かれた台座があった。
「あ、あそこ! みんなまだ戦ってます!」
下を覗いていたアリスが叫んだ。
それにつられて、みんなで辺りの様子を見回す。
魔王は倒れたが、魔物たちはまだ暴れ回っていた。
それは他の場所も同様で、今までに生み出された魔物たちはまだ世界中に残っている。
「本当ですわ。私たちも早く行きませんと」
「ああ。行くぞ!」
ヴァンとアメリアが、急いで階段の方へと向かう。
「ちょっと待ってください。みんなこっちへ」
私はそれを制止して、みんなを台座の前へと呼び寄せた。
目の前には透明なオーブがゆらゆらと浮いている。私の目的はこれだった。
「これがいったいなんだというのだ」
「ラグナ。こんな物より、早くみんなの所へ行きませんと」
焦る気持ちは分かる。
でもこれで――。
「アリス。ここに手を置いて」
きょとんとしながらも、アリスは私に従ってオーブに手を置いた。
続けて私もオーブに触れる。
「オーブに向かって魔力を流し込んで。そう。学園に入学した時みたいに」
「あの魔力測定の時みたいにですか?」
その問いに頷くと、アリスはゆっくりと光の魔力を流し始めた。
オーブの中に光が満ちていく。それは少しして、白銀の月の様に優しく輝き始めた。
続けて私も、オーブに向かって魔力を流す。流し込むのは……。
そう。ゲームでは二週目以降しか手に入らない闇の魔力だ。
光の魔力と闇の魔力。
白と黒の輝きが、オーブの中で混ざりあっていく。
光と闇は相容れない。魔王はそう言った。
でも、こんな風に溶け合う事だって出来るのに。
オーブの中心から、やがて新たな光が生み出される。
それは虹色の光。溢れ出た光が、オーブの中から飛び出した。
解き放たれた虹色の輪が、世界に向かて広がっていく。
「綺麗……」
その光景を眩しそうに眺めるアリス。
虹の光を反射して、彼女の瞳は七色に輝いていた。
「魔物たちが、消えていきますわ」
「どういうことだ。なんだあの光は!?」
信じられないといった表情で、アメリアもヴァンも目を見開いている。
「世界が……、始まるんですよ」
虹が通った場所から草木が生え、穢れた大地が生まれ変わっていく。
それと同時に、魔物は煙の様に消え去っていった。
「ラグナさん……。これは……」
アリスは夢でも見ていたかのような顔をしている。何が起きているのか分からないのだろう。
正直、私にも分からない。でもこれが――。
「これが、真のエンディングです」
遠くなった虹の光は、この世界を包むようにどこまでも進んでいった。
* * * * *
平和になった世界は、どこもかしこも大盛り上がり。
ヴェルオール王国でも毎日が大騒ぎだった。
凱旋パレード。祝勝会。祭り、祭り、祭りの連続。ここ数日、街はまったく眠っていない。
決戦に向かった学生たち。そこに参戦した戦士たち。その誰もが国から称えられた。
そして聖女。
魔王を倒した聖女に、世界中のみんなが祈りを捧げた。
本来なら魔王を倒して終わり。それだけでもすごいことだった。
だが、さらに世界からすべての魔物を消し去って、魔王が支配していた死の大地を蘇らせたのだ。
そんな聖女のことを、みんなは女神だと呼び始めた。人々を救うために、天より舞い降りた女神。
うん。確かにそうかもしれない。彼女はこの世界にとって……。いや、私にとっての――。
「ラグナさん。ここにいたんですか」
銀の月明かりを背に、アリスがそこに立っていた。
透き通るような肌。薄っすらと金に輝き、夜の景色に浮かび上がる髪。
「女神様。どうしたんですか?」
「もう。いじわるですね」
頬を膨らませながらアリスが隣にやってくる。
風に乗った柔らかな香りが、私の鼻をくすぐった。
街を見下ろす丘の上の広場。いつかのこの場所で、私たちは静かに隣り合って街を眺めた。
そこから眺められる景色の中では、今も賑やかな声が響いていた。




