決着。そして……。
アリスの体から、聖なる魔力が溢れ出ている。
「行きます!」
その掛け声とともに、両手から星屑のような魔力が飛び出した。
「ぐおおおお、小賢しい!」
光を受けた魔王は、もがきながら辺りを見境なく攻撃し始めた。
しかしアリスの魔法は、ゆっくりと確実に漆黒の皮膜を剥がし取っていく。
「こんなことで、貴様らが有利になったと思うな。我が力で、その光ごと飲み込んでくれる!」
魔王との戦いはここからが本番だ。
前半はチートのような戦い方で少し気が抜けてしまったが、あらためて気を引き締めていこう。
後がなくなったからなのか、魔王の攻撃がいっそう激しさを増した。相変わらず魔物も沸き続けている。
これこそラスボス戦に相応しい戦いだ。
攻撃が通るようになった今、私も遠慮していられない。
闇魔法<ダークオンスター>
星を模った黒い魔力の剣。
魔王すら知らない隠し魔法だ。
「な、なんだその魔法は!?」
凝縮された魔力の塊に、さすがの魔王も驚いている。
私は高く跳躍すると、その剣で魔王に切りかかった。
「ごああああ!」
ダメージを受けて魔王が叫ぶ。それは今までにない程の絶叫だった。
ずっとバリアに守られていた魔王には、この痛みは初めての体験なのだろう。
それにしても、意外と中々倒せない。
ゲームでも魔王の体力は凄まじく、カンストダメージを与え続けてもかなり時間がかかった記憶だ。
「ええい。鬱陶しいわ!」
魔王の攻撃が四方から飛んでくる。
光魔法<ブリリアントヴェール>
光の膜がそれを包んでかき消していく。
魔王のバリアを剥ぎ取ったアリスは、その後サポートに回っていた。
アリスさんマジ天使。
あんな大仕事の後にも関わらずありがたいことだ。
そして徐々にだが、確実に戦いは終わりへと近づいていく。
人間と魔物の戦い。聖女と魔王の戦い。それが、もうすぐ――。
「ぐうう……。ありえん。こんなことが……、我が人間などに……」
魔王の体から、力が抜けていくのが分かる。
恐ろしい程の威圧感を放っていた巨体が、まるでしぼんだ風船のようだ。
「我が闇は消えぬ。全てを飲み込んで、無に還してくれる」
魔王の体が急速に縮み、口の中から黒いガスのようなものが噴き出した。
これが魔王の最終形態。死を予感した魔王が、全てを道連れにするために無の化身となった姿だ。
闇ではなく無となって、この世界の全てを飲み込んでしまおうとしている。
これが本当に最後の最後。
もう全部を出し切ってしまってもいい。
闇魔法<エンドオブハーヴェスト>
私は最強の闇魔法を解き放った。
持てる全ての魔力を使って、魔王の体を、いや、無となった魔王を黒い光で包み込んでいく。
「消える……。消えていく……。我が……、消え――」
魔力はそのまま無の化身と共に消え、魔王だった存在は文字通りの無となった。
しばらくの間、辺りは静寂に満ちていた。
魔王から生み出されていた魔物も、いつの間にか消え去っている。
「終わりましたの?」
沈黙を破ったのはアメリアだった。
それと同時に、固まっていたみんなも動き出す。
「やったのか……」
ヴァンは力が抜けてしまったのか、握っていた剣を床に落とした。
ガランと金属の重い音が響き渡る。
「ラグナさん」
ボーっとしていた私に向かって、アリスが恐る恐る声をかける。
私はどんな反応をすればいいのだろう。なんだか今、とても不思議な気分だ。
「魔王……、倒したみたいです」
わっとみんなが騒ぎ出す。
四人しかいないのに、もうお祭り状態だ。
「すごいすごい! ラグナさん、やりましたね!」
「おいお前! さっきの魔法は何なんだ!?」
「ラグナ。あなたどこまで……」
みんなテンション全開で、次々と言葉が溢れてくる。
もう誰もが会話になってない。
「はあー」
私も一気に気が抜けて、その場に尻をついて座り込んだ。
景気よく魔力を全部使ってしまった反動だ。少し回復を待たなければ。
「ラグナさん、大丈夫ですか!?」
「はい。ちょっと魔力を使いすぎちゃったんで」
私はそう言って、魔力の回復薬を取り出した。瓶の中に、薄い青色の液体が入っている。
中の液体をぐいっと飲み干して、私はひとまず一息ついた。
あー生き返る。
これ、前世のスポーツドリンクみたいな味で美味しいんだよなあ。
「そ、それなら私のも!」
「え?」
アリスがそう言って、ありったけの回復薬を私の口に流し込んだ。




