世界を賭けた魔王との戦い。
「何を言い出すかと思ったら……。くだらん」
私の質問は、魔王によって一蹴されてしまった。
ヴァンもそりゃそうだろうといった顔でこちらを見ている。
「で、でも! こうして会話だって出来るのに。戦って相手を倒すことでしか生きられないなんて」
「我らと人間は、遥か昔よりそうしてきたのだ。今さらそれが変わることは無い」
「変わらないって……。そんなの、昔はそうだったって言っても、いつだって変われば――」
「くどい! 人間と魔物はいわば光と闇。相容れることなど出来ぬわ」
魔王の殺意が高まる。
「貴様がくだらん考えで戦わぬというのなら、そこで黙って見ていろ。その間に聖女を一思いに殺してくれる」
脳裏にアシェルの死が蘇る。
それだけは、それだけは絶対にダメだ。
私の頭の中で、何かが弾けた。
風が辺りを満たしていく。私は体内の魔力を一気に解放した。
これ以上は会話も通じ合わないだろう。もう余計なことは考えない。私は雑念を振り払い覚悟を決めた。
「ほう。ここまで来るだけのことはあるか。始めからそうしていれば良いものを」
魔王と私たちの、最後の戦いが始まった。
「出でよ。我がしもべたち」
魔王の両手から、真っ暗な靄が現れる。
そこから次々と魔物が沸いて溢れてきた。
魔物は魔王によって生み出されているのだ。
単独で繁殖できる生物。ある意味完成された生き物の形なのかもしれない。
魔物は次から次へと沸いてくる。
さっさと倒さないと、この戦いは無限に終わらない。
風魔法<エアリアルレイン>
複数対象の魔法を使っても、一気に殲滅とまではいかない数だ。
「くらええええ!!」
ヴァンが特大の炎を魔王にぶつける。渾身の一撃だけあって、その火力はかなり高い。
でも……。
「なんだ!? まるで効いていない」
「馬鹿め。人間ごときの攻撃が、この魔王に効くわけがなかろう」
満足そうな魔王の高笑いが響く。
漆黒の皮膜。そう呼ばれる魔王の特性に阻まれて、ヴァンの攻撃はダメージを与えられなかった。
そう。その名の通り、魔王は常に黒いバリアを纏っているのだ。
これがある内は、こちらの攻撃が一切通ることはない。
「みなさん。私に任せてください!」
アリスがそう言って前に出る。
魔王のこのバリアを剥がすのが、聖女の最後の魔法の役割なのだ。
光魔法<ホワイトアステリズム>
アリスが詠唱を始めた。彼女の体に、魔力がどんどん集まっていく。
「ならば、俺たちは聖女を援護するぞ!」
沸いてくる魔物に向かってヴァンが火魔法をぶつける。
そこにアメリアも加わって、私たちは三人でアリスを囲むように戦い始めた。
この戦いは、まず魔王のバリアを解除するまで聖女を守り切る事が重要となる。
そしてそこから、本格的に魔王に向かって攻撃を始めるのだ。
ゲームではターン制だったが、今は現実で時間との戦いになる。
沸いてくる魔物だけなら問題ないが、そこに魔王の攻撃が加わることも考えるとそう楽ではない。
魔王も実際には知性があるので、システムのような決まった行動だけでなく、硬骨で嫌がらせのような攻撃もしてくる。
私はそれを、魔法でなんとか撃ち落として凌いでいった。
まずい……。緊張と時間に追われるハラハラ感に圧されて、集中力が途切れてきた。
ヴァンとアメリアも、徐々に押され始めている。
それでもアリスに傷を付けるわけにはいかない。
いざとなったら私が体を張るしか――。
あ、そうだ。そうすればいいんだ。
魔王が放った黒い波動に向かって、私は全身で突っ込んでいった。
「ラグナさん!?」
アリスが驚きの声を上げる。
でも大丈夫。私は彼女に向かって、親指を立てて応えた。
「お、お前……、なんでピンピンしてるんだ?」
信じられないといった様子でヴァンが見ている。
「ど、どういうことだ。なんなんだ貴様!?」
それは魔王も同様だった。
魔王のバリアは、解除されるまで一切の攻撃を通さない。
それは威力に関係なく、すべての攻撃が対象だ。
私はというと、単純に強くなりすぎて相手の攻撃が通じないのだ。
さらに今は、風魔法のバリアも纏っている。
もちろん魔王のように完全に防ぐことは出来ない。
だがノーダメージとはいかないものの、普通の人が即死する攻撃も普通に耐えられるのだ。
ダメ押しで自分に回復魔法もかけ続ければ、魔王の攻撃も大したダメージにはならない。
思い切って当たってみたが、本当になんとかなってよかった。
「こ、こんなことがあってたまるか」
明らかに魔王もうろたえている。
「魔王の攻撃は私に任せて、二人は沸いてくる魔物をお願いします!」
そうして私は、魔王の攻撃を一身に受け止める役に徹することにしたのだった。
これは……、傍から見たらけっこうシュールな光景だろうな。




