戦いの終わり。
混乱する戦場。広がっていく戦火。
この戦いは明らかに、水の国での規模を上回っていた。
「ミラさん!」
戦場を走り回った私は、やっとパーティーメンバーに合流することができた。
「ラグナ君、アリス君は?」
「街の方を護ってくれてます」
「そうか。ならば大丈夫だな」
安心したミラの笑顔。
アリスに任せておけば街は問題ない。
「どんな状況ですか?」
「思いのほか敵の数が多い。私たちはいいが、国の戦士たちが劣勢だ」
予想通りだ。部隊のメンバーは戦いを重ねたことでだいぶレベルが上がっているが、国の人たちはそこまで高くない。
ゲームではそんな所まで見えなかったのに、実際の戦いでは色々と事情が違っている。
「じゃあ私は、もうひとっ走り戦場を回ってきます」
「ああ、頼む!」
パーティーメンバーと別れて、私はまた戦場を走り出した。
魔法、魔法、魔法、剣、魔法、剣。
私は迷わず力を振るう。自分の都合で力を抑えて、人の不幸を増やしてはダメだ。
遠くに、煌めく金の髪が見えた。あの黄金のような髪。
見間違えるはずがない。あれはヴァンだ。
「ヴァン王子! アメリアさん!」
二人は敵の中でも特に強い奴らを相手していた。
それでも二人は、うまいこと連携して敵を倒している。
「ラグナ! ちょっと手伝いなさい!」
「貴様か。聖女の試練とやらはうまくいったのか?」
「はい! ばっちりです! アリスはそれで街を護っています」
「だったら貴様はこの戦場をなんとかしろ!」
はい。ヴァン様の激励、いただきました!
私はそれだけで、腹の底から力が沸いてくる。
風魔法<エヴァーサイクロン>
風の魔力が戦場に竜巻を起こす。これが風の最強魔法だ。
碧の風が流れ、渦を巻いて魔物の群れを飲み込んでいく。
「お前、なんて魔法を!?」
ヴァンが声を大きくする。
周囲から人々の悲鳴が聞こえた。どうやら少し頑張りすぎてしまったようだ。
「貴様はいったい何なんだ!? もっと考えて力を使え!」
「でも、これで奴らも動きますわ」
アメリアが言ったとほぼ同時だった。
少なくなった魔物の背後から、のっそりと巨人が立ち上がる。これまでに現れた巨人より一回り小さいが、その体から立ち昇るオーラは今まで以上に禍々しい。ギガンテス。それが巨人の名前だった。
「ヴァン王子! あいつを――」
前回のように私のサポート魔法をかければ、レベルの上がった今のヴァンなら倒せるだろう。
「お前が行け!」
「うぇ?」
「お前の力なら問題ないだろう。俺はもう自分の手柄のためだけに戦う男ではない。俺はここで、これ以上被害が広がらないように戦う。あいつはお前がなんとかしろ」
変わった……。
「俺は……、俺は民のために戦う!」
彼は変わった。
ヴァンの心が変わっていた。
それはこの国の王子と話した影響か。
そういえばヴァンは、この国にいる間王子と交流をしていたらしい。同じ立場の王子が民のために尽くしていた姿。あの姿を見た彼も、なにか思うところがあったのだろうか。
「さっさと行って終わらせなさい、ラグナ」
傍で戦っていたアメリアが言う。
ヴァンはもう、こちらを向いていない。
何故だろう。心が軽い。背中から翼が生えてきたかのようで、胸のあたりがフワフワする。
私は風に乗って、巨人の頭上へと飛び上がった。
魔力が体中からあふれ出す。
私はそれを、眼下の巨人に向けて打ち出すだけだ。
魔法を受けた巨人は、何も出来ず後ずさりしていく。
私のご機嫌な攻撃は、その全てがクリティカルヒットだ。
両の手に風の魔力を集める。さらに魔力を、混ぜて混ぜて混ぜまくる。
それを圧縮して凝縮して――。
「やってしまえ!!」
背後からヴァンの声が聞こえた。
私に向けられた言葉。憧れの人からの激励。
私の中で何かが弾けた。
勢いにまかせて、手の平に集めた魔力の塊を巨人の喉元に放つ。
色んな想いが混ざった魔力が、巨人を包み込んで爆発した。
小さく輝く魔力の粒が、風に乗って戦場を覆っていく。
戦いの終わりだ……。
街に戻ると、魔物は一匹も残っていなかった。
どうやらこちらの戦いも終わったようだ。
さっき見た街の状態から、特に変わった様子はない。
アリスの祈りが、この街を護ったのだ。
広場のほうが騒がしい。
行ってみるとそこには、たくさんの人だかりが出来ていた。
真ん中には見慣れた少女。
アリスの姿がそこにあった。
みんながアリスを持て囃している。彼女を囲む民の笑顔。
それを受けた彼女は、少女のように明るく笑っている。
アリスの祈りが、皆に届いたのだ。




