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人の願いと聖女の力。

「お婆さん。その……、死んだ人を生き返らせることは、出来ないんです」


 言葉を失ったアリスの代わりに、私はそう答えた。

 なにか良い伝え方がないかと考えたが、足りない私の頭ではそれは見つからなかった。


「そんな……。聖女様は、全ての人を救ってくださるのでは……」


 この世界の聖女は、そんな神様みたいな存在ではない。

 他の異世界によってはあり得るのかもしれないけれど、少なくともこの世界の聖女はそこまでの力は持っていない。

 ゲームでも、戦闘不能は気絶扱いだった。


 聖女の力を信じ切った老婆に向かって、私はそれをゆっくりと説明した。

 老婆は最後まで納得がいかない様子だったが、私たちはなんとかその場を離れることが出来た。


 ……。

 …………。


 アリスはずっと黙ったままだった。心配したミラの呼びかけにも、まったく反応がない。

 私たちは外で待っていた部隊の人たちと合流し、再び王宮に向かって進み始めた。




「ヴェルオール王国の方たちですか。少々お待ちください」


 外と同様に、王宮の中は荒れていた。

 負傷した兵士たち。避難してきたであろう普通の人たち。多くの人が王宮の中に詰めかけていた。


 私たちはその人たちを横目に、城の中を進んでいく。

 これはいくら回復魔法を使っても追いつかなさそうだ。


「ようこそおいで下さいました。国は今このような状況で、大したもてなしも出来ず申し訳ない」


 広間の玉座には、一人の男性が座っていた。

 その姿は意外なほど若い。


「いえ。こちらこそ、こんな状況で受け入れていただき恐縮です。国王様は不在でしょうか?」

「……。王は先の戦いで亡くなりました。今は息子である私がその跡を継いでいます」


 ミラの質問に、衝撃的な答えが返ってきた。

 王の死。そんな背景があるなんて知らなかった。


 目の前の若い王様は、疲れ切った顔をしている。突然王様なんていう大役に就いてしまったら、誰だってこうなるだろう。

 私だったら、その大きな役割に圧し潰されてしまう自信がある。


「そんな……。それはお忙しいでしょう。私たちに出来ることがあれば何でも言ってください」

「ありがとうございます。ですがそれが王子であった私の務め。そして今、王である私の務め。どうぞお気になさらず」


 その顔には、若さに似合わない覚悟が感じられる。


「そう言えば、ヴェルオール王国の王子が同行していると伺っているのですが」

「はい。私がヴェルオール王国の王子、ヴァン・ヴェルオールです」

「おお、あなたが」


 クマで覆われていた彼の顔が、少しだけ明るくなる。

 似たような立場のヴァンに対して、何か思う所があるのだろうか。


「城下町でのこと伺いました。怪我人の治療にあたっていただいたそうで。それに、聖女様に対しての無理なお願いをした者がいたようで。大変申し訳ないです」

「い、いえ。私こそ力が足りず……、その……、申し訳ないです」


 アリスの表情が沈んでいる。こんな彼女は見たことがない。

 どうしていいのか分からない。いきなりのシリアス展開に、私の適応力が追いつかなかった。


「王子。いえ、王様。そろそろ一度休まれたほうが」

「いや、私はまだ民のためにすることがある。それよりもヴェルオールの方たちに、休める所へ案内を」


 近くの臣下が王を気遣っているが、彼はまったく取り合わなかった。

 それどころか、先に私たちの方を休ませようとしている。


 ありがたいことなのだが彼は大丈夫なのだろうか?

 今にも倒れそうな顔色で、目の焦点も虚ろになってきている。


 王様という立場は、それほどまでに過酷なのか。

 眠くなったらすぐに寝たい私には、絶対に無理な職業だ。




 私たちは城の兵士によって、城下町の一画にある宿泊施設へと案内された。

 元は別の施設だったであろうその場所は、戦闘の被害にあったのかボロボロだ。


 宿屋のようなしっかりした部屋はなく、広い部屋を大雑把に仕切りで区切られている。

 私たちは男子と女子に分かれて、その場所を使わせてもらうことになった。


 やっと横になれる。私は早速、重力に導かれながら布団の上に寝転がった。

 しかし、床が固い。そして冷たい。


 ベッドなんてものはなく、木の床に直に敷かれた布団はペラペラだ。

 こんな状態、水の国とは天と地の差がある。


「これは大変だな。少しでもこの国の力になれればいいが」


 同じパーティーのクライブが言った。

 さすが生徒会長付きの優等生。言う事が真面目だ。


 水の国であったような魔物の大規模な進軍は、この国でも予想されていた。だが、またそれには数日の猶予がある。

 私たちはそれまでの間、水の国でやったように街の手伝いをして過ごすことにしたのだった。

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