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崩れかけた国、ゲインブール。

 雷の国、ゲインブール。確かここは武力国家だったはずだ。

 その国が今やボロボロになっている。


 私たちは門番に促され、国の中へと足を踏み入れた。

 どうやら街を案内する余裕が無いらしい。大通りを真っすぐ進めば王宮にいけるらしいのだが。


「ひどい……」


 部隊の面々からそんな声が上がる。遠くから見た以上に街は壊れていた。

 以前襲われたヴェルオール王国よりも、その被害は大きい。


「あれは!?」


 何かを見つけたアリスが走り出した。

 その先には、怪我を負った子供の姿が見える。


「大丈夫?」


 駆け寄ったアリスは、その子に向けて回復魔法をかけた。

 レベルの上がった彼女の魔法は、すぐに子供の怪我を治した。


「痛くない! ありがとうお姉さん」


 子供は途端にはしゃぎ出した。


「ありがとうございます! あなたは一体!?」


 子供の母親らしき人が驚きの声を上げる。

 その声につられたのか、街の人たちがぞろぞろと集まりだした。


「あ、あのみなさん。私たちは……」


 いつの間にか、アリスの周りには人だかりができていた。囲まれたアリスが焦っている。

 それにしても怪我人が目立つな。中には包帯巻き巻きの人もいる。


「みなさん、どうか落ち着いて。私たちはヴェルオール王国から来た者です。みなさんと一緒に魔物と戦うために来ました」


 ミラがそう言いながら、アリスの肩に手を置く。

 それを聞いた人々は、途端に顔色を変えた。みんな戸惑ったようにざわざわしている。


「ヴェルオール王国……。それじゃあ、もしかしてその子が……、聖女様?」


 その質問にミラが頷くと、人々は一斉に歓喜の声を上げた。


「おおお、ついに聖女様が!」

「嗚呼、聖女様……」

「聖女様! どうかこちらに!」


 私たちは街の人に囲まれながら、崩れかけた協会へとやってきた。

 扉は開けっ放しで、片側が外れかけている。


「うっ! これは……」


 中は酷い有様だった。乱雑に怪我人たちが寝かされており、みんな苦しそうな声を上げている。

 こんな光景、実際に見るのは初めてだ。


「大変です!」


 アリスが我先にと怪我人たちの元へ走っていく。

 そしてすぐに聖女の回復魔法を使い始めた。水の国で覚えた、あの強力な光魔法だ。


「待っていてください。みなさんきっと治してみせますから」


 アリスは必死に魔法を使い続けている。

 ぼーっと見ている場合ではない。自分も彼女を手伝わなければ。


「自分もやります」

「ラグナさん。ありがとうございます」


 私も風の回復魔法を怪我人に当てる。


「他にも回復魔法が使える者は、二人を手伝ってくれ」


 ミラの言葉で、何人かの学生が怪我人たちの治療を始めた。

 ここにいる人たちは、怪我の状態がけっこうひどい。これは聖女の魔法か、私ぐらいの高レベルじゃないとつらいかもしれない。


 それからしばらくの間、私たちは魔力を使い続けた。


「ありがとうございます。さすが聖女様」

「なんというお慈悲。ありがたやありがたや」


 中に寝かされていた人たちの怪我は、なんとか治療することができた。

 完治とまではいかない人もいるが、最初よりはだいぶマシだろう。

 近くで見守っていた家族であろう人たちも、その様子に泣いて喜んでいる。


「聖女様。申し訳ないですが、こちらも見ていただけますでしょうか?」


 力を無くした老婆がこちらにやってきて言った。


「婆さん。そりゃあ無茶な……」


 周りの人が途端に暗くなるのが分かった。

 そんなに酷い人がいるのだろうか。


「大丈夫です。診せてください」


 アリスが老婆に言う。

 その瞳には、決意と力強さが漲っていた。


 老婆に案内されて、私たちはゆっくりと奥の部屋へと向かう。

 その先は薄暗く、ひんやりとした異様な空気が漂っていた。


「こちらです。なんとか聖女様のお力で息子を……」


 老婆はそう言って、一枚の布をめくる。

 その中には、白い顔の男性が寝かされていた。


 これは……。


「この方は……」


 アリスの顔も青ざめて、言葉がそこで詰まってしまっている。


「どうか息子を、生き返らせてください」


 目の前の男性は、もう息をしていなかった。

 寝かされているのはこの人だけではない。ここには布に包まれたものがいくつも並んでいる。おそらくその全てが……。


「あの……、私……」


 アリスが困惑している。

 無理もない。そう。この世界には、死者を生き返らせる魔法は無いのだ。


「どうか。どうか」


 老婆はアリスに向かって、必死にお願いをしている。

 それでもアリスには、聖女にはどうすることもできないのだ。

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