新たな旅立ち。
祭りの夜から一週間。
私たちはグランマリーナを後にした。
次に目指すは雷の国、ゲインブールだ。
再び部隊を組んで、私たちは街道をぞろぞろと歩く。
周囲の景色はもう平野ばかりで、美しかった海はもう欠片も見えない。
国を出てまだ半日ほどなのだが、すでに青と白で彩られたあの景色が懐かしい。
国を出る際、住人たちは総出で私たちを見送ってくれた。
お土産もいっぱい持たせてくれて、荷物を乗せた馬車はパンパンになっている。
「次はどんな国なんでしょうか」
隣では、アリスがウキウキした様子で歩いている。
切り替えが早い子だ。私なんかもう宿屋のふわふわベッドが恋しいのに。
それにしてもあの夜の告白。あんな返事でよかったのだろうか。
アリスはこの世界で唯一の聖女。言わば世界のトップアイドルのようなものだ。
ちょっと違うか?
でもそんな彼女の告白を保留みたいにしてしまった私は、とんでもなく罰当たりなのではないだろうか。
どうにも気分が落ち着かない。アリスと話すと、変にドキドキしてしまう。
彼女からはそんな様子が感じられないのに。
そもそも告白イベントなんて、もっと後だったはずなのに。
あああ。何もかもがゲームと違う。前世でもそんな経験がなかった私には、難易度が高すぎる。
頭の中であの夜の光景が繰り返されていると、気づけば辺りはもう暗くなっていた。
久しぶりのキャンプ飯。だが私の脳がバグっているのか、舌から味が伝わってこない。
空腹感もあまり感じられず、おかわりもままならない。
だめだ。ちょっと散歩でもしてこよう……。
私は明るいその場を離れて、灯りのない方へと歩いた。
ふう。夜の風が心地いぜ。
背後には焚火を囲むみんなの姿が遠く見える。
元の私とはみんな正反対の集まりだ。
私はあの場所には似つかわしくない。大人しく星でも見ていよう。
「わああ。星、綺麗ですねえ」
センチメンタルな気分に浸っていると、いつの間にかアリスが近くに来ていた。
ななな、なんでこの子がこの場所に!?
心臓の鼓動が跳ね上がる。血液の循環が間に合わない。
これは過呼吸になる三歩手前ぐらいだ!
その日の夜は、アリスと何の話をしたのか覚えていない。
私は気付くとテントの寝袋に包まっていた。
翌朝のアリスはいつもの調子だったので、きっと変なことは言っていないだろう。
「そういえば、ラグナさんて星座に詳しいんですね。織姫さんと彦星さんの話とか、楽しかったです」
アリスが思い出すような素振りで話す。
そんな話をしていたのか。前世とこの世界の星空は違うのだが、なんか知ってることを適当に話したのだろう。
「でも、一年に一回しか好きな人と会えないなんて、悲しい物語ですよね。どこでそんな話を知ったんですか?」
「前……、じゃなくて、なんか古い本で読んだんですよお」
「へえー、すごい。ラグナさんて、色んな事知ってますね」
よしよし。いつも通りの会話が出来ている。
会話一つで常にドキドキしていたら、まるで私が思春期の子供みたいだ。
私は大人。私は大人。私は大人。
そう何度も、私は頭の中で繰り返した。
* * * * *
旅を始めて八日。次の国まではもう少しだろうか。
前のこともあってみんな旅には慣れていたが、いよいよ魔物の強さが上がってきていた。
手際は良くなってはいるのだが、一回の戦闘にどうしても時間がかかる。
ストーリー的にはもう後半。ゲームだったら中々うまいバランス調整だ。
最強状態の私でも、そろそろ舐めたプレイばかりはしていられない。
手加減も難しくなってくるので気を付けなければ。
「おおい! 次の国が見えたぞおお!!」
先頭のパーティーが大声を上げた。
それにつられてみんなの足が早くなる。
いよいよ次の目的地である、雷の国に到着だ。
次はどんな国なんだろうか。また水の国みたいに楽しいといいな。
「えっ?」
不意に映った光景に、私の目を奪われた。
街の中心にはアラビアン風な宮殿。そこには荘厳な雰囲気が感じられるはずなのだが……。
宮殿から、いや街の方からは、至る所に小さな煙が上がっている。時間が経った後なのか、もう火は消えているようだがこれは一体。
建物も所々が崩れていて、まるで戦いでもあったかのようだ。
「これは……。みんな急ごう!」
重そうな事態に、ミラが部隊のみんなを急かす。
私たちは浮かれていた気分から切り替えられないままに、急いで国の入口へと向かった。




