少女の愛の告白。
月明かりの下、儚げな少女が立っている。
月光を浴びてぼんやりと輝く体の境界。そこに触れたら、彼女は今にも霧の様に消え去ってしまいそうだ。
「あの……、私、あなたのことが……!」
目の前の美少女が、ほんのり頬を染めながら言った。青白い景色の中で、そこだけがやけに熱を帯びている。
言葉を発したその唇は、桜の花びらのように小さく可愛らしい。
柔らかい風が、胸元に垂れ下がった金の髪の三つ編みをゆらゆらと揺らしている。
その髪色は、黄金というよりクリームのような優しい色で、触っただけで溶けてしまいそうな繊細さが感じられた。
彼女の表情は真剣そのもので、緊張しているのか耳の端が濃くなっている。
両の目には輝く大きな宝石。アクアマリンのように澄んだその瞳が、真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
全身から満ち溢れる美しさは、まさに聖女と呼ばれるに相応しい。
この可愛さ、……反則でしょ。
「好きですっ!!」
好きです。目の前の少女はそう言った。私のことが好きだと。
好き。LIKE。LOVE。好きってなんだっけ?
私はただ、目の前の少女に見惚れていた。
頭がまったく回っていなかった。
しばらくの間、彼女の言った意味がわからなかった。
そう。わからなかったのだ。
「あ、あの……」
言葉と一緒に、頭が急に回り始める。
止まっていた思考が一気に加速していく。
全てを突き抜けて、私の頭は爆発した。
今、好きって言った? 私の事を? この子が? 何これ。夢か幻?
残念ながらこれは現実だ。私の脳が、実際にビクンビクンと脈打っている。
いや、残念なんてことはない。こんな可愛い女の子からの告白、そうそうあるものではない。というか普通ない。
こんな女の子に迫られたら落ちない男はいないはずだ。だって宝くじレベルだもん。断ったら宝くじ捨てるようなものだ。
でも耐えられる。そう……、私ならね!
私は女なのだ。男だけど。だから女の子から告白されても大丈夫なのだ。
……そんなわけない。
もうすでに耐えられない。
だって、目の前の少女はあのアリスなのだ。
これまで一緒にいた、あのアリスなのだ。
胸の鼓動が止まらない。心臓が体をぶち破ってしまいそうだ。
脈の音が耳まで届いている。
アリスはじっと静かに待っている。私の言葉を待っている。
これは、どこぞの漫画のように実は寝ていたとかは通じない。マジなやつだ。
「わ、わた、私は、私の……」
言葉がうまく出てこない。急に喉がカラカラになってきた。呼吸も乱れて息が荒い。
これ、途中で気絶しそう……。
「私もアリスさんのこと、……好きです」
やっと言葉にすることが出来た。でも、私の言いたいことはこれだけではない。
彼女もそれが分かっているようで、真剣な表情のまま私のほうを見つめ続けている。
「私は、他にもいっぱい好きなんです。学園の人や、パーティーの仲間たち。国の人たちも好きだし。この世界が大好きなんです! だから……」
「はい」
頷いたアリスの顔は、優しさに満ちていた。
それは輝くような聖女の笑顔ではなく、普通の優しい少女の笑顔だった。
「だから、その……。世界が平和になったら、きっと答えます! 卑怯だとは思いますが……」
「そんなことないです。ラグナさんと同じように、私もこの世界が好きです。ラグナさんのいるこの世界が。だから私も同じ想いです。返事が今すぐ欲しいわけじゃありません。でも……、ただ言いたくなったんです」
アリスはそう言って、今日一番の笑顔を見せた。
嗚呼。なんていい子なんだ。そして私は、なんて畜生なんだ。
でも、今の私にはそんな返事しかすることが出来ない。私はこの可能性をどこかで考えながらも、今まで自分の中で誤魔化していたのだ。
だから魔王を倒すまでに、本気で彼女のことを考える。私はそう心に決めた。
「じゃあ、帰りましょうか」
アリスはそう言って、私の指をそっと握った。
「これぐらいいいですよね?」
彼女は少し照れながら小さく笑う。
なにこの子。どれだけ私の心臓を攻撃するのよ。
私たちはそのまま並んで歩き出した。
砂を踏む音が、少しづつ私の心を落ち着かせてくれる。この道が、終わりなくずっと続けばいいのに。
「戦いが終わって平和になったら、私また言いますね」
ちょっ! 落ち着き始めていた精神に不意打ちを受ける。
急に積極的になったなこの子。
そんなことを言われると、なんか今すぐOK出したくなってくる。
やばいやばい。これ、魔物との決戦までもつのか?
ふと振り返ると、砂浜には二人の足跡だけが遠くまで伸びていた。




