聖女の試練を乗り越えて。
私とアリスは、再び城に来ていた。
相変わらずここは神聖な感じがする。
「ようこそおいで下さいました。聖女の試練に向かう準備が整いましたのでお呼びしました」
玉座に座る王女。彼女も相変わらず美しい。
やっぱりこの人の年齢はよく分からない。
「はい。頑張ります!」
アリスの顔に気合がみなぎっている。
初めての聖女の試練だ。緊張するのも無理はない。
私はアリスのサポートとして一緒に行くように言われていた。
本来この役割は、アリスの好感度が高い者が選ばれるのだが……。
きっとヴァンは一緒に来たかっただろう。
はあ。これでまた彼に嫌われてしまう。
「案内はこの者が行います」
王女がそう言って、一人の少女を呼んだ。
「どうも」
その少女は、不愛想にぼそりと呟いた。
なんだか眠そうな瞳だ。
黒髪の少女は、神官のような装束を身にまとっている。
しかしその表情は、清楚な装いとは違ってどこか暗い。
彼女の雰囲気は、おおよそこの街の人たちとは違っていた。
どちらかというと私と似ているような気がする。
「では行きましょう」
私たちは、その少女に従って城を出た。
試練の場所は、街から離れた神殿で行われる。
あ、ちょっと待って。
これゲームだとすぐだったけど、またけっこう歩くやつじゃない?
* * * * *
目の前には神殿の大きな入り口が見える。
ここで聖女の試練をするのかあ。それは緑の木々に囲まれて、ゲームで見た景色よりずっと壮大な感じがする。
しかしやっぱり予想通りだった。ここまで来るのに、なんと二日もかかった。
距離感に関しては、ゲームの感覚でいたらだめだな。私は深く反省した。
驚いたのは、ここまで案内してくれた少女だ。
ここに来るまでに何度か戦闘があったのだが、彼女の戦闘能力はとても高かった。
おまけにキャンプスキルもあって、けっこう快適にここまで来ることが出来たのだ。
「別に……。一人でキャンプするの、好きだから」
それを褒めると、彼女はぼそりと言った。
ゲームで付いてきたただの少女が、まさかこんな子だなんて思わなかった。
「ここから先、私は何も出来ません。ですので、この中では二人で進んでください。私はここで待ちます」
少女はそう言って、いそいそと神殿の前でキャンプの準備を始めた。
なんだか活き活きしてるな。
眠そうな目のギャップ神官。無口で人付き合いが苦手そうなソロキャン女子。
色んな属性もりもりだな、この子。
私とアリスは、彼女を置いて神殿の中に足を踏み入れた。
早く踏破しよう。急がないと、そろそろ魔物の侵攻が始まってしまうはずだ。
「ここ、どうやって進むんでしょう?」
私たちの前に謎解きギミックが現れた。
これは……、あれだ。ランダムギミックだ。謎解きの方法が毎回変わるやつ。
私はこれが苦手だった。決まった攻略法がなくて、毎回頭を悩ませられた。
このギミックを作った人を本気で恨んだ。突破するのに何日かけたことか。
過去のトラウマが蘇る。
詰んだ……。私の頭の中は、絶望感でいっぱいになった。
「あ、分かった! こうですね!」
そんな私の目の前で、アリスはあっという間に謎を解いてしまった。
え、そんなことある? 天才かこの子。
この後のギミックも、アリスのお陰で足を止めることなく進むことが出来た。
これ、私いらなかったんじゃないか?
「この先に、聖女の力を……。ここ、私だけで入るんですよね」
「ですね」
装飾が施された扉の前で、アリスの顔が強張っている。
無理もない。誰だって最初の攻略は緊張する。
「アリスさんなら大丈夫。ここで待ってるから」
私は精一杯彼女を励ました。
それしか出来ないのがもどかしい。
「それじゃあ行ってきます!」
アリスは拳を握り、部屋の中に入って行った。
* * * * *
「あの煙は……」
神殿から出た私の目に、高く昇る黒い煙が見えた。
「どうやら戦闘が始まったようです」
キャンプの焚火で作ったらしきお茶を飲みながら、いたく冷静に神官の少女が言った。
ぶれないなこの子。いいキャラしてる。
「ラグナさん。行きましょう」
後ろから出てきたアリスが言った。
その顔つきは、ついさっきまでの彼女とは違う。
「うん。行こう!」
私はアリスの手を取った。
彼女の細い指が、それを力強く握り返してくる。
「一緒に行きます?」
「私はここでもう一泊してから行きます」
神官の少女は、こんな空気でもマイペースだった。




