王様からの指令。
立派な髭だなあ。
仰々しい豪華な椅子。そこに威厳のある装いのおじさんが、どっしりと座っている。
「みな、よく集まってくれた」
深い髭の奥から、力のこもった声が響く。マイクもないのによく通る声だ。その力強さに圧倒される。
目の前にいるその人物は、ヴァンの父親。そう、この国の王様だ。
私たち学園の生徒は、何人かが王宮に呼び出されていた。
みんな緊張した面持ちで、王の話を静かに聞いている。
「ここの所、魔族の活動が活発化してきている。我が国に魔物が進行してきたのも、その影響であろう。そしてそれは、他の国にも及んでいるとのことだ。このままでは、奴らによる被害が広がるばかり。そこで君たちの力を借りたい」
王は私たちを見渡すように言うと、大きく一つ息を吐いた。
「ラグナ・クローク」
突然、王が私の名前を呼んだ。
「は、はい!」
急なことで、思わず声が上ずってしまった。
王が鋭い視線で私を見る。
こ、怖い。何か悪いことをしたのだろうか。
「君は以前の魔物襲撃時に、多大な貢献をしたと聞いている。今回も君の力には期待している」
驚きだった。まさか王から直々に声をかけられるとは。
なんと返事をしたものか。でも、どうして私の事が……。
「父上、お待ちください!」
私たちの並びとは違って、偉い人たちの中にいたヴァンが声を上げた。
「こいつ……、いえ、彼に関する話は偽りです。みんな彼に騙されているのです!」
その場がシンと静まり返る。
とんでもないことになった。まさかこんな場で。
これヤバい流れなんじゃないだろうか。
なんか前世で見た追放系とかの話の始まりで、よくあった展開のように思える。
ここから私への批判の声が高まっていって……。
「お前は黙っておれ」
「なっ! 父上!?」
王がヴァンを一喝した。
「こいつは何の力も無いのに、周りから過剰に評価を集めている。みんな騙されいるんですよ! こいつは――」
「黙れと言っている」
王の言葉が辺りに響いた。
ヴァンだけでなく、他の人たちの間にも緊張が走る。
「彼の活躍は、学園外の者たちからの証言もある。王国の騎士、逃げ遅れた街の住人たち。みな、彼が必死に戦場を走り回る姿を見ているのだ。反対に、お前はあの時何をしていた? 何が出来た? お前の言う事にこそ信憑性がない」
王の言葉受けて、ヴァンの体はワナワナと震えている。
「みな分かるであろう。これからは、本当の強者が必要となってくるのだ。だが強者とは、ただ敵を倒す力を持っているだけの者ではない。人のために戦う心を持つ者こそが本当の強者。私は、彼のような者を必要としている」
そう言って王は、私のことを指した。
一瞬の沈黙。そしてその後、その場は拍手の波で埋め尽くされた。
「残ってもらってすまないな。そしてラグナ君。先ほどはすまなかった」
「い、いえ。とんでもないです」
私を含めた数人は、王の話の後にその場に残された。
残された者の中には、あのミラの姿もある。
「残ってもらったのは他でもない。君たちの学園に通っている、聖女のことについてだ」
聖女という言葉に、私の心臓が反応した。
当の聖女である、アリスは今この場にいない。
「昨今の魔物の動きが拡大している裏には、聖女の存在がある。魔物を統べる存在である魔王。それに対抗できる唯一の存在、それが聖女だ。伝説の存在であった聖女が現れたことで、人間側に希望が生まれた。だからそれを阻むように、魔族の活動が活発化しているものと考えられる。奴らの狙いの一つは……、聖女だ」
王は鋭い視線ではっきりと言った。
「そしてもう一つ。これも聖女にまつわるものだ。他の国にある聖女を強化する術。奴らはそれも狙っている。だから聖女がいるこの国だけではなく、他国にも被害が広がっているのだ」
私たちが通う学園があるヴェルオール王国。その近隣には、いくつか国が存在していた。
どの国も、この世界の属性にちなんだ名前で呼ばれている。それはこの国も例外ではない。
火の国、ヴェルオール。水の国、グランマリーナ。氷の国、ヒューネイン。風の国、フィールバング。雷の国、ゲインブール。土の国、サルーン。
ストーリーに関わる国はこの六つ。
火だの水だのと仰々しい名前が付いてるが、別にこの国に火山があったりするわけではない。
氷の国は北のほうにある雪国だとか、少しだけ名残があったりする程度だ。
「世界にこれ以上被害が広がることを防ぐべく、我々は魔族に対して打って出る!」
王が高らかに宣言する。
私たちはこれから、この国々に向かうことになるのだ。




