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学園祭の王子と姫。

 学園祭は大賑わいだった。一般開放された園内には、街の住人達も押しかけている。

 みんな街の復旧作業で忙しそうだったが、その息抜きとばかりに集まっているのだろう。


 投票の結果、私たちのクラスの出し物は劇に決まっていた。

 室内ホールで行われるその劇は、今舞台に出ている演奏会の後となっている。


 劇の内容は、敵対する国の王子と姫の悲恋の物語。

 よくある話だ。


 私たちクラスのみんなは、すでに舞台裏に集まっていた。


「ラグナさん。そろそろ始まりますね」


 薄汚れた質素な衣装を着たアリスが、浮かれた様子で小さく言った。

 こんな衣装姿でも、元が可愛い彼女は相変わらず眩しい。


 アリスの役割は町娘。

 序盤にしか出番のないわき役だ。


 ゲームで劇を選ぶと、主人公であるアリスが姫役、親密度の一番高い攻略対象が王子役になったはずだ。

 その他の配役もプレイヤーが選択すようになっていて、それによって内容の出来が変わるというミニゲームのようなものだった。


 この世界にはそんな機能がないので、劇の配役は普通にくじ引きとなった。

 結果、アリスは町娘となったわけだ。


 だが彼女は、そんなちょい役であるにも関わらず一生懸命に練習していた。

 さすがアリス。相変わらず真っ直ぐな女の子だ。


 ところで主役の二人はというと……。


 まず王子役はヴァンだった。

 最高の配役だ。王子が王子を演じるなんて、これ以上の役はない。


 そして肝心の姫。

 それはあのアメリアだった。


 役が決まった時の、彼女の喜びようといったらなかった。

 いつもの二人の場でも、ずっとその話をしていた。


「ただのクラスの出し物とはいえ、私は全力で挑みますわ。そうすれば、彼も私のこと少しは見てくれますでしょうか……」

 そんな風に話すアメリアを見て、私は少し泣いてしまった。

 彼女の嬉しさが伝わってきたのだ。


 王子の相手役、私がやってもよかったのだが、同じ志を持つもの同士の晴れ舞台。

 ここは彼女のことを応援しよう。


 真っ暗な舞台の方から、ゴトゴトとした音が聞こえてくる。

 闇の奥では、小道具担当のクラスメイトが劇の準備を進めていた。


「おいお前。俺の足を引っ張るんじゃないぞ」

「かしこまりましたあ!」


 王子役であるヴァン王子からの激励。

 敬礼しながらそれを受け取った私のテンションは、急激に上昇した。


 舞台の幕が上がる。

 袖から見た観客席は、大勢の人で埋まっていた。


 劇は順調に進んでいく。

 さすがヴァン様。王子の衣装がよく似合う。

 そりゃあ本物だからね。かっこよすぎて眩暈がしてくる。


「ラグナさん。出番ですよ!」


 アリスの声で、私ははっと我に返った。

 いけないいけない。妄想の世界に入り込んでしまっていた。


「王子! この手紙は、私がきっとあの方に届けてみせまする!」

「ああ、頼む」


 私の役は王子の部下という設定で、姫との間を取り持って両国を行ったり来たりする人物だ。

 途中、二人の関係をよく思わない自国の偉い人に殺されてしまうのだが……。


 頼む。演技ではあるのだが、ヴァンが私に言った言葉。それが私の中で鳴り響く。

 もういつでも脳内再生余裕だ。でも、できればリアルで言われたい。


「お疲れさまでした」


 出番を終えた私に、アリスが言った。

 随分前に出番が終わった彼女は、ずっと舞台袖で見ていたようだ。


「ありがとうございます。アリスさんも、お疲れさまでした」


 私もそんな彼女に、労いの言葉をかける。


 残りの劇を、私もそこで見守ることにした。

 アメリア、頑張って。そんな思いと共に。


「あなたと結ばれないのなら、こんな人生に意味はない」

「僕もだ。こんな世界に悔いはない。一緒に天の世界へゆこう」

「ええ。あなたと一緒なら、ほかに何も要りません」


 アメリアの言葉に、しっとりとした感情が乗る。

 きっとあれは、本心が混じっている部分もあるのだろう。


 その迫力に圧されてか、客席からは鼻をすする音がいくつも聞こえる。

 私だって泣きそうだ。だって、彼女の想いを知っているのだから。


 そして二人が心中し、物語は終わりを迎える。

 横たわった二人に向かって、盛大な拍手が送られた。


「ラグナさん。すっごいよかったですね!」


 そう言って隣で喜ぶアリス。私はそれに頷いて答えた。

 声を出すと、力が抜けて涙が落ちてしまいそうだった。


 主役の二人が戻ってくる。

 すれ違いざまに、アメリアは私に向かって笑顔を見せた。


 よかったなあ。

 そう思った瞬間、私の涙腺は崩壊した。

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