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全力全開、闇魔法の力!

 誰にも見つからないよう、私は街の外に出た。


 欠けた月が宵の景色を照らしている。

 そのお陰で、私はこの闇の中迷わず進むことが出来た。


 地面には、昼間街を襲った魔物たちの進軍の跡が残っている。

 これを辿っていけば、目的の場所に行くことが出来るだろう。


 風魔法<ファストエアリー>


 私は風の魔法で一気にスピードを上げた。

 真っ黒な木々が、するすると横目を過ぎていく。


 月の光を受けて、遠くに青白く浮かび上がる大きな山が見えた。

 魔物たちの痕跡は、そこに向かって伸びている。あそこが私の目的地……。




 目の前には異形の大群が広がっている。それは、王国を襲う魔物たちの第二軍だった。

 昼間に始まったレイドイベントは、もう一戦あるのだ。


 ゲームの所見プレイでは、一線を退けて安心していたところを絶望に突き落とすということで有名だった。

 連戦となるので、十分にキャラを育成していないとクリアすることが出来ず、序盤では一番の詰みポイントとなっている。

 王国自体も、それによって被害が広がってしまうはずだった。


 だが、そんなことは絶対にさせない。

 この世界では、私の大好きな街をこれ以上壊させない。


「グゥオアアオオアオ!」


 大群の背後には、ビルのように大きな一体の巨人。それはこの戦いのボスキャラ、ヘカトンケイルだ。

 巨人は周囲に群がる魔物たちに命令するように、その大きな口を震わせた。


 私という一点に向かって、魔物の群れが集まってくる。

 それは円を描くように、徐々に塊となっていく。


 私はため込んだ怒りと共に、魔力を一気に爆発させた。


 闇魔法<ブラックスフィア>


 黒い魔力に飲み込まれ、魔物たちが消滅していく。

 魔力は大きなドームとなって、魔物の大群を飲み込んだ。


 今ここにいるのは私一人だけ。

 だから私は、全力だ!


 闇魔法<ダークオンスター>


 右手に集まった黒い星が、刃となって長く伸びた。

 それを一振りすると、刀身に触れた魔物たちは流れるように消えていく。まるで煙を払うかのように。


 二振り、三振り。魔物たちはみるみるうちに数が減っていく。

 あっという間に地面を覆いつくしていた魔物は、私の目の前から消え去った。

 残るは巨人、ヘカトンケイルだけだ。


 唸るだけの巨人にも、感情はあるらしい。

 その巨体が、怯えるように後ずさる。


「これで終わり」


 私は黒刃の先を、巨人の頭よりも高く伸ばした。

 巨人はそれに目を奪われたかのように、一歩もそこから動かない。

 あとはこれを振り下ろすだけ。


 私は力を込めることもなく、魔力を握った拳の重みに任せて、ゆっくりと腕を地面に落とした。

 闇の刃が、巨人の体をするりと通り抜ける。


「ガォアアア……」


 風船の空気が抜けるような、気の抜けた声を発しながら、巨人は夜の闇に溶けていった。



* * * * *



「それでは、みんなで学園祭の出し物を決めてください」


 クラスの担任、メアリージュが言った。

 近々この学園では、学園祭が行われる。そこでクラスごとに何かをするのだが、我がクラスでも何をするのかを決めなければいけなかった。


 ゲームではプレイヤーが選択するのだが、この世界にはそんな機能はない。

 そのため、無難にみんなの意見で決定されるようだ。


 こういう時、だいたいクラスの中心人物の意見によって票が大きく動くのだが、このクラスはどうなんだ?

 まあ、前世と変わらず発言権の薄い私には縁のない話か……。


 そもそも中世っぽい世界観の学園で、学園祭ってなに? という感じだが、そこは乙女ゲームのイベントという設定が活きているのだろう。

 でももしかしたら、ヴァン様たちとの交流があるかもしれないし、私的には全然よしっ!


「あのお、こんな時に学園祭なんてしてていいんでしょうか?」


 クラスの女子が、控えめな様子で言った。


「こんな時だからこそよ」


 メアリージュは、穏やかな口調でそれに答える。


 魔物の襲撃から十日ほどが経った。

 街は未だ復興作業の途中だ。日々建物の修繕などで、住人たちは忙しそうにしている。


 それでも、街の人たちはどこか明るい。

 壊れた街に絶望することなく、みんな前向きに作業をしている。


 だからこそよ。メアリージュの言うように、こんな時だから明るいイベントが必要なのだろう。

 街の人たちも、今以上にやる気が出るだろう。


「ラグナさん。一緒に回りましょうね!」


 隣の席で、アリスが楽しそうに言う。

 まだ何も決まっていないのに……。彼女は遠足を待ちきれない子供みたいだ。


 そういえば、この前のお礼とかもしないとな。

 私はその誘いに小さく頷いた。

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