突然のレイドイベント。
響き渡るような悲鳴で、私はベッドから飛び起きた。
なんだか外が騒がしい。
カーテンを開けると、街の方からいくつも煙が立ち昇っているのが見えた。
窓を開くと、人の叫び声がはっきり聞こえてくる。
これは……、レイドイベントだ!
眠気でまどろんでいた私の頭が覚醒する。
イベントの発生時期が近いのは覚えていたが、最近風邪で寝込んでいたせいか日にちが曖昧になっていた。
ストーリー序盤の山場。大量の魔物が街を襲うというイベントバトルだ。
王国の騎士や学園の生徒たちが、力を合わせて戦うイベントとなっている。
窓から顔を出して見下ろすと、学園の生徒たちが散り散りに街の方へと向かって行くのが見える。
大変だ。私も早く行かなければ。
だが、体が思うように動かない。まだ風邪が治りきっていないのだ。
こんな一大事に。思えば前世でも、修学旅行とかで風邪をひいて行けないキャラだったな。
私はそんなことを思い出しながら、怠い体を引きずってのそのそと部屋から外に出た。
ロビーに降りると、人はもうほとんどいなかった。
みんな戦いに行ったのだろう。イベントが始まってから、もうどれぐらい時間が経ってしまったのか。
「ラグナ。何してんだ、大丈夫か?」
振り返るとそこには、筋肉キャラのマッシュがいた。
どうやら彼は、まだ男子寮にいたらしい。
「大丈夫じゃないけど、行かないと。マッシュは何してるの?」
「腹壊しちゃってさ。俺もこれから向かうところ」
プロテインの飲みすぎだ。筋肉自重しろ。
「それよりお前、風邪だって聞いたけど。そんな状態で戦えるのか?」
そばに来たマッシュが、心配そうに言う。
友達の優しさがありがたい。
「なんとか……。私は大丈夫だから、先に行って」
「そうか。外、けっこうヤバそうだからな。お前は後からゆっくり来いよ」
無理するな。そう言い残して、マッシュは外に向かって走って行った。
「私も早く行かないと」
マッシュの後を追って、私は寮の外に出た。
ツンとする煙の匂い。辺りには、いつもと違った空気が漂っていた。
「こんな……」
私は声が出なかった。
急にみんなの事が気になった。
重い体を無理やり動かし、街の方へと急いで向かう。
街はひどい状態だった。
綺麗だった街並みは、所々の建物が崩れて灰色になっている。
周りには魔物が溢れていて、鎧を着た王国の騎士たちがそれを抑えている。
住人たちの姿は少なく、もう避難した後のようだ。
こんなのって……。
私の中に、なんとも言えない感情が沸き上がってきた。
風魔法<エアリアルレイン>
風の魔力が魔物を吹き飛ばす。
私は無意識に魔法を放っていた。
風邪のせいでうまく魔力が練れないが、雑魚の魔物を倒すぐらいなら問題ない。
「助かった! ありがとう。君は学園の生徒か?」
戦っていた王国の騎士たちが集まってきた。
「いえ。街は、どういう状況なんですか?」
「ああ。急な襲撃で、王国は対応が遅れてしまった。住人の避難を優先したため、その間に魔物たちは街に広く入り込んでしまっている状況だ」
私の頭の中に、ウェンディの雑貨屋が思い浮かんだ。
「ありがとうございます」
そう言って私は、雑貨屋の方へと走り出した。
所々で戦闘が行われている。
数は多いが、強い種類の魔物ではないため、そこまで苦戦している様子はない。
でも街の被害は、確実に大きくなっている。
私は出来る限り、魔法で彼らを援護した。早く魔物を撃退しなければ。
「ラグナさん!」
遠くからアリスの声が聞こえる。
声の方を見ると、アリスが光魔法で魔物の攻撃を防いでいるのが見えた。
私はその魔物たちを、風魔法で蹴散らした。
目の前の敵がいなくなって、アリスがこちらに走ってくる。
「ラグナさん、体は大丈夫なんですか?」
心配そうに言うアリスに、私は頷いて答える。
「ウェンディの店に行こうと思って……」
「はい。私も心配してました」
意見があった私たちは、雑貨屋へと向かって走り出した。
ウェンディの雑貨屋は、半分ほどが崩れていた。
中がむき出しになって、並んでいた商品が地面に散らばっている。
サンディやその母の姿は見えない。
きっともう避難したのだろう。
「そんな……」
店の様子を見て、アリスの表情が沈んでいる。
みんなで手伝っていたお店がこんな姿になっているなんて、私だってショックだ。
ウェンディとサンディの姉妹が、仲良く商品を並べている姿。おいしいお茶を淹れてくれる、二人の母の姿。
それらの様子が、崩れた店の中に映し出される。
腹のあたりに、なにか思い感情が広がっていく。
これはそう、怒りだ。




