アメリアの問いかけ。
私とアメリアは、たまに隠れて会っていた。学園から離れた小さなカフェで。
お互いにその日に見つけた萌え話や、頭の中で考えたシチュエーションなどを、心ゆくまで語り合っていた。
「で、結局ラグナは、あの聖女とどういう関係なの」
「な、なんですかその質問?」
話が一区切りした後、アメリアが突然言った。
「だってあなたがクラスの男子に嫌われているのって、あのアリスって子と一緒にいるからでしょう? みんな彼女の美しさに夢中。でもあなたのような変な男が一緒にいるせいで近付けない。当の本人も他の男子には興味がないようですし」
さすが悪役令嬢。思ったことをそのまま言う。
でもそれは間違っていないだろう。みんなアリスのことが気になるのだ。
「それにヴァン王子だって……」
「え?」
一瞬、アメリアの表情が悲しげな色を見せた。
「彼ね、子供のころ勇者と聖女の物語が好きだったの。悪を払う聖女を守る、勇者の物語。彼はその勇者に憧れていたわ。いつか自分もって。その頃から……、真っすぐな彼を、私はずっと好きだった」
アメリアは遠い目をする。まるでその時の様子を思い出しているかのようだ。
「私が聖女だったらって思ったわ。でも聖女なんて伝説の存在……、だったはずなのに。まさか私たちと同年代に現れるなんてね」
諦めたような悲しい笑顔。
私は何と言えばいいのか分からなかった。
「だから彼は、物語の勇者のようになりたいと思ったの。子供のころの夢だった勇者に。でも聖女のそばにはあなたがいた。だからヴァン王子は、あなたのことを嫌っているのよ」
ヴァンにそんな夢があったなんて知らなかった。
入学時にちょっと目立ってしまったことで生意気だと思われたとか、アリスのような可愛い子と一緒にいるのが気に入らないとか、そんなのが理由なのだと思っていた。
だから彼は、私やアリスに自分の力を見せたかったのか。
「意外と子供っぽい方でしょう? 一国の王子ともあろうお方が。でも、そんな所が愛らしいのですけど」
「そんな。かっこいいと思います。それに、真っ直ぐですし」
それを聞いて、アメリアはふっと笑った。
彼女は私が嘘を言っていないことを分かってくれている。
「だからこそ、あなたが聖女と離れれば、彼もあなたに対してキツイ態度をとらなくなるわ」
「でもアメリアさんは」
「私はいいのです。最初は少し……、いじわるな事を考えたりもしましたが……。そんな事をしても、彼の気持ちを変えることなんてできませんもの」
少し? 私はゲームでのアメリアの行動を思い出し、少し首を傾げた。
「それに……、あなたのお陰で少しだけ気分が晴れましたわ」
そう言ってアメリアは、照れくさそうに顔を赤くした。
アメリアに助けられたのは私も同じだ。
話したいことを話せる彼女の存在は、私にとっても救いだった。もはや親友と言ってもいい。
「まあ、決めるのはあなたですけど」
私は、アメリアの行った事をゆっくりと考えた。
確かにみんなの注目の的であるアリスと離れれば、クラスの人たちとの関係は変わるだろう。
すぐには無理かもしれない。でも、時間がたてば少しずつ……。
「私は……、私はこれまでと変わらないです」
それが私の口から出た答えだった。
だって、何回考えても変わらない。
アリスは自分を、聖女として見られたくないと言った。特別ではなく、普通の人として扱われるのが嬉しいと。
私だって、彼女は聖女だって知っていた。誰よりも前から知っていた。
でも彼女は、可愛すぎるだけの普通の女の子だった。
私は、そんなアリスの友達なのだ。今さら距離を置くなんてしない。
この世界でアリスといる時間は、私にとってとても楽しいのだから。
そしてアリスは、私を最初に見つけたのだから。
「そうですか。まあ、あなたは元々、ヴァン王子の嫌いなタイプかもしれませんしね」
からかうようにアメリアは言った。
「なああ! そんなはずないですよ。ないですよね?」
焦る私を見て、彼女は大きく笑い出した。
なんてひどい。これが、悪役令嬢。人のからかい方を熟知してやがる。
「これ以上嫌われることはないと思いますので安心なさい」
「えええ。ほんとに嫌われてるんですか? へこむ」
「逆に嫌われてないと思えるのがすごいですわ」
「それは……、照れ隠しとか」
「ないですわね」
私の小さな希望の芽を、彼女はバッサリを切り落とした。
でも、やっぱりアメリアと話すとスッキリする。気持ちが整理されていくような。
口は悪いかもしれないが、こちらの心配もしてくれて。設定上は悪役令嬢だが、彼女はきっと優しい人なのだろう。
私が聖女だったら……。
そう言ったアメリアの想いが届くように、私は心の中で祈った。




