オタク同士の楽しい語らい。
アメリアはせきを切ったように喋りだした。
ヴァン王子とアシェルに対する想いが爆発したかのようだった。
これは婚約者であるヴァン王子への、恋慕の類といった内容ではない。
これは、そう。私と同種、同属性のものだ。
彼女の口だけがまるで倍速になっているかのようで、次々に言葉が飛び出してくる。
この情熱、私と同等。いや、それ以上かもしれない。この世界にこんな強い人がいたなんて。
「あなたにこの考え、理解できて? って、あっ!」
ひとしきり話し終えると、アメリアは先ほどの私のように焦りだした。
きっと彼女も喋りすぎたことに慌てているのだろう。
ここで私の答えは――。
「アメリアさんの考え、理解できます」
「え?」
そう。これが正解のはずだ。
「私は、自分があの中に入りたいとかではないんです。ただこうして見守っていたい。二人の尊い関係に、ひっそりと心震わせていきたいんです!」
「あなた……」
こうして私たちは出会ってしまったのだ。
お互いの想いを共有し合える友に!
私たちは、熱い想いをぶつけ合った。
そして共感した。新しい視点も開けた。まるでそれはケミストリーだった。
「なんてこと。あなたのような者がいたなんて」
「こちらこそ驚きです」
「私はあなたを誤解していたわ。まさか同志だったなんて……。さっき言ったことは忘れて頂戴」
「いえ。あれもヴァン王子のことを思ってでしょう。私は気にしていません。何より、すごく嬉しい」
「私も。まさか学園でこんな話ができるなんて」
ヴァンとアシェルに対する私たちの気持ちは、恋愛というものとはちょっと違う。目にも頭にも優しい、イケメン二人の関係を尊重したい。
そしてその二人の関係を、脳内で色々あれやこれやと妄想するのが幸せなのだ。
でも、そんなことを周りに話すことなんて出来るわけがない。
だって、引かれる自信も自覚もあるのだから。まあ、私の方が特に危ないが。
どうやらそれは、彼女も一緒だったようだ。
前世の私のような者だったらみんな納得だが、アメリアのような綺麗な令嬢がそんなことを言えるはずがない。
きっとずっと我慢してきたのだろう。その辛さ、分かる。
私たちはその後、場所を移して語り合った。
みんなに聞かれてはまずい内容なので、学園から少し離れたところのカフェでゆっくりと。
「あなた……。いえ、ラグナ。こんなに楽しい時間は久しぶりでしたわ。感謝します」
「こちらこそ楽しかったです。今まで誰ともこんな話できなかったので」
「その……、私たち……」
「はい! 友達ですね。秘密の」
「ええ、秘密の」
先ほど初めて会ったばかりのアメリアは、ゲーム画面でも見たことのないような笑顔で微笑んだ。
またこうして隠れて会おう。
私たちはそう約束して別れた。
ああ。今日は楽しかったなあ。
その日の夜。ベッドの上の私はご機嫌だった。
今までも楽しいことはたくさんあったけど、今日みたいなことは初めてだ。
初めて私の内にあるものを共有できた。なんだか嬉しさが止まらない。
もっと彼女と話したい。ヴァンやアシェルのことだけではなく、他のキャラのことも。
きっとアメリアなら分かってくれる。彼女の話も聞いてみたい。
彼女は、私の知らないヴァンたちの事も話してくれた。
そりゃそうだ。私はゲーム開始からの彼らの事しか知らないが、アメリアはもっと前から彼らの事を知っているのだ。
ヴァンの幼少時代の様子。
子供の頃から真面目で、頑張り屋だったとか。でも昔は少し泣き虫だったとか。
そんなの絶対見た過ぎる。なんでこの世界には写真ないの!?
あとは意外にもお母さん子というところとか。
甘えてる場面を想像しただけで、両方の鼻の穴から血が飛び出そうだ。
まだまだアメリアに聞きたいことがありすぎる。
そして思った以上に、彼女はヴァンとアシェル、二人のカップリングにどっぷりだった。本人は片方の婚約者なのにだ。
これはもう尊敬するしかない。
そう。これだ。
私はこれを求めていたのだ。
私はこの世界にやってきて、なんの因果か性別が変わってしまった。
せっかく恋愛が主体の乙女ゲームの世界に転生できたのに。
それならば、せめて密かに推しの様子を眺めるしかない。そう思っていた。
でも最近は、それを忘れてしまっていた。今日それを、アメリアのおかげで思い出したのだ。
この世界の、私なりの楽しみ方を。
私の心は晴れやかだった。
ここ最近のもやもやした気分は、どこかに吹き飛んでいた。
これからは、いっそう推し活に励もう。色んなキャラも全力で見守ろう。
私はそう決意した。できれば少しは仲良くなりたいけど。




