二人の帰り道。
「私たちは……、ラグナさんの話してましたよ」
からかうようにアリスが言った。
その言葉に、心臓が飛び跳ねる。やっぱり私の話だったかあ。
いったいどんなことを話していたのだろう。とても気になる。
「ダンジョン攻略で、とても助かったって言ってました。具体的には、あまり詳しくは話してくれませんでしたけど。私のほうは、クラスでのラグナさんの様子とか。あ、雑貨屋の手伝いを楽しそうにしてる事とか話しました」
アリスはその場の楽しさを思い出すかのように、ニコニコしながら話している。
なるほど。そういう話ね。
無難そうな話だ。悪口じゃなくてよかったあ。モヤモヤしてごめんなさい。
私は頭の中で、二人に向かって土下座した。
「でも、やっぱりラグナさんはすごいですね」
アリスがそう言いながら、私の前にぴょんと身を乗り出した。
私はその仕草にたじろいでしまう。いちいち可愛いんだよなこの子。
「な、なにが?」
「いつの間にか色んな人と繋がって、頼りにされて。変なこと言ってくる人もいますけど、そんなの気にもとめないで、優しくて。やっぱりそれが、分かる人には分かるんですよ」
そんな……。それはアリスの買いかぶりすぎだ。
だって、変なこと言われて気にしてないなんてことないもん。めっちゃダメージ受けてます。
「でも……、ラグナさんのこと、最初に見つけたのは私ですからね」
アリスはそう言って、眩しいぐらいの笑顔を見せて笑った。
夜なのに、まるでそこだけ昼間になったかのようで。私の体は急に熱を帯びはじめ、奥の方からぽかぽかするのを感じた。
「は、はい……。っていうか、私はぜんぜんすごくないし。みんな、たまたまで」
やばい。今、私の顔ぜったい赤い。頬のあたりが熱い。どうしよう。
幸い今は夜のため、そこまで目立つことはないだろう。
私は急いでアリスを追い越した。
「そういうところも、ラグナさんらしいです」
背後から、楽しそうなアリスの声が聞こえる。
「か、からかわないで下さい。それに、自分よりアリスさんのほうがすごいですし……」
「ぜんぜんですよ! いつも助けられてばかりで。でも、私もがんばらないと」
いや、本当にすごいのはやっぱりアリスだ。
聖女という特別な存在でもあるが、それを盾にせず必死に頑張っている。
きっとこの世界では、アリスが聖女なのではなく、アリスだから聖女なのだ。
「明日も授業あるし、早く帰りましょう」
「はい!」
私はその後、なるべく顔を見せないようにアリスを寮まで送り届けたのだった。
「お、ラグナ。今日は遅いじゃん」
男子寮のロビーでは、ベジタボがスクワットをしていた。
なんでここで筋トレ? 部屋でやればいいのに。
そんなことを考えつつ、私はなんだかほっとした。
先ほどの雰囲気に飲まれた私を、ベジタボの非常識な行動がぶち壊してくれたのだ。
「筋トレなら部屋ですればいいでしょ」
「いやー、今部屋散らかっててさ」
立てるスペースがあればいいだけなのに、スクワットが出来ない散らかり具合ってどんなよ。
なんだか逆に見てみたくなってくる。
「それに、やっぱり見られるとやる気がでるっていうか。筋肉が見られたがっているっていうか」
「見たい人はそんないないと思う……」
「そうかー?」
こうして軽口を言い合えるベジタボとの関係は、今の私にとってとてもありがたい。
世界観とはだいぶズレているが……。
「ところで、なんか悩んでるのか?」
「え、別にそんなことなけど。なんで?」
「なんとなく、お前の筋肉に元気がないように見えてな」
どういう判断の仕方だ? 意味が分からない。
でも鋭い。
悩みというほどではないが、やはりさっきのアリスとの帰り道のことが頭の中に残っていた。
なんてことのないやりとりのはずだったのだが、どうしても頭から離れない。
「まあ、悩んだ時は筋トレだ。筋肉は裏切らない!」
ベジタボは、そう言いながらむき出しの白い歯を見せる。
どこまでも筋肉キャラだ。
だが一理ある。
私は無言でベジタボの隣に立ち、同じようにスクワットを始めた。
「お。ついにラグナも筋トレに目覚めたか。よし! 一緒に育てよう」
私たちは、そのままひたすらスクワットを続けた。
よし。運動してすっきりした。
これで何も考えることなくぐっすり眠れるだろう。
と思ったが、そんなことはなかった。
私はその夜、まったく寝つけなかったのだ。
ベットに横になった途端、脳が勝手に動き出してしまった。
体の奥がいつまでも熱い。頭にアリスの笑顔が残っている。
いったいどうしてしまったのか。
私の脳みそは、壊れたように同じシーンを流し続けた。




