苦手な場では、食うにかぎる!
店内は、思ったよりもガヤガヤしていない。
酒場というからには、もっとあらくれ者たちが騒いでいる所だと思っていた。
ここは……、そう。落ち着いた大人の飲み屋みたいな感じだ。
安い居酒屋みたいな所ではなく、お洒落なバーみたいな? 行った事ないけど。
それでいて店内は明るく、みんな笑顔で飲み食いしている。
「このお店、いいだろう?」
キョロキョロしていた私に向かって、ミラが得意気に言った。
「あ、はい。とてもいい所だと思います。よくこんな所知ってましたね」
「そうだろう。ここは、私のとっておきなんだ」
得意げな鼻は、さらに上を向く。
初めて出会った頃と今では、ミラの印象はまったく変わっていた。
相変わらず表情は薄いが、実は裏では感情が色々とあるらしい。
「ところでラグナ氏。その子は……」
ダンジョンを一緒に攻略したモブキャラの一人が、モジモジしながら言った。
その子とは、私の隣のアリスのことだろう。
「ああ、この子は同じクラスのアリスです」
私は手を添えながら、軽く彼女を紹介した。
「は、はい。アリスと言います。ラグナさんのクラスメイトで、今日は無理言って参加させてもらいました。でも……、私場違いですよね」
「そんなことない!」
「全然問題ないよ!」
「むしろありがとうございます!」
申し訳なさそうなアリスを、男子たちが全力で歓迎する。
そりゃあ、こんな美少女の同席を断る奴などいないだろう。アリスはお金をとってもいいくらいだ。
男子たちはテンションが上がり、アリスに向かって様々な質問を投げかける。
それに嫌な顔ひとつせず対応する彼女。流石だ。
さて。これで私は、見事に周囲の会話から取り残されてしまったぞ。
あれだ。飲み会とか大人数の場であるにもかかわらず、一人ぽつんとしている奴と一緒だ。このポジション、懐かしい。
こうなってしまったからには、やるべきことはただ一つ。私は夢中で目の前の食べ物を口に運んだ。
自分は今、食べることを優先していて、それで話に入っていかないだけというアピールだ。
こうすれば周りからの、あいつハブられてね? という疑惑を回避できる。まあ、前世からの得意技だ。
「ラグナ氏。アリスさんとはどういう関係なん?」
「ブフォッ!」
漫画みたいに吹き出してしまった。
「どういうってどういう!?」
「いやいや。そのままの意味だよ。あんな美少女が隣にいるなんて羨ましい」
「ちょっと待って。私とアリスはただの友達ですよ」
「えええ! マジで? ラグナ氏、視力悪い?」
視力関係ない。
そう。私とアリスは良いお友達だ。
「もったいない。じゃあ僕が……」
「ないです。先輩、ミラさん一筋のはずでは?」
やれやれ。みんな浮かれおって。
当のアリスは、いつの間にか席を移ってミラと話している。
なんの話をしているんだろう?
「そうなんですよ! ラグナさんは……で、みんな……」
「確かにな。彼は……だと思う。この前も……」
なんだかよく聞き取れない。でも、なんか私のことを話しているみたいだ。
もしかして悪口? いやいや、そんなことを言う二人ではない。
しかし、万が一ということもある。人の頭の中なんて分からないものだ。
だめだ。人を疑うの、よくない。でも昔のトラウマが……。
そんなことをグダグダ考えていると、いつの間にか時間が過ぎていた。
「それじゃあ今日は、これでお開きにしようか。みんなダンジョン攻略、本当にお疲れ様。またよろしくたのむ」
ミラの言葉に従って、私たちはそろって店の外へと出た。
外はもうすっかり真っ暗で、酒場の周辺の雰囲気は昼間とはまったく違っている。
「ラグナ君。今日は来てくれてありがとう。アリス君も。ぜひまた来てくれ。みんなも喜ぶ」
「はい! とっても楽しかったです。ありがとうございました」
二人はいつの間にか仲良くなったようだ。
こんなにすぐに人と打ち解けられるスキル、とても羨ましい。
「ラグナ君。もう暗いからしっかりアリス君を送り届けるように」
ミラはそう言って、私たちに向かって小さく手を振った。
「あ、はい。じゃあ、アリスさん。帰りましょうか」
「はい!」
私たちは、ポツポツと街灯が照らす道を、二人で並んで歩き出した。
街の明かりはどこか暖かく、前世であった電気の明るさほど眩しさがない。
そしてこの街は、比較的治安もよく穏やかなため、安心して歩くことができる。腹ごなしの散歩には調度よかった。
「ラグナさんは、なんの話をしていたんですか?」
「え? ああ、なんだったかな。けっこう食べてばかりで」
「料理美味しかったですよね! 昼間もやってるらしいので、今度行きましょう」
「そうだね……。アリスさんは、ミラさんと何話してたの?」
気になっていたことを、私はついつい口に出してしまった。




