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何もわからない。
何も見えない。
ここはどこなのか。
意識は覚醒しているのか。それとも、夢の中なのか。
それすらもわからない。
ただひたすら漠然とした空間を彷徨っている。
「んっ……」
頭と両足に走るのは重い痛み。
ずっしりと、身体の芯に響くような感じがする。
ただただ、一面の暗闇である。
そこには何もない、真っ黒な世界。
「よ、っ……」
起き上がろうと、足元に手をついてみる。
もちろん下方も同じく暗闇だが、何か地面らしきものがあるのか、しっかりと踏ん張ることはできた。
意味もなく、周囲を見渡す。
当然何もないが、こうしてしまうのは何かの癖なのだろうか。
「確か、俺は……」
肝心な記憶は完全に抜け落ちている。
先ほどまで俺が何をしていたのか、何故こんなところにいるのか。
推測すらできない。
そもそもの話、ここはどこだというのだ。
絶対に地球上にこんな場所はありえないし、地面だって立てる理屈がわからない。浮いているわけでもないからな。
それにしても──
「俺の服は……どこだ」
何も着ていないのである。
シャツもズボンも下着もコートも、何もかもない。
不思議と寒くはないのだが、入浴時でもなければこんな素っ裸になることなんてない。
急に不安になって、二、三度、右手を握ったり開いたりしてみる。
感覚に異常はない。
足も、少しブラブラさせてみるが、何ら問題はなかった。
「……とりあえず、どこかへ……」
恐る恐る、歩いてみる。
地面という地面がない以上、どこで落下するかわからない。
もしかしたら、すぐそこに見えない壁でもあるのかもしれない。
はたまた──
「ああ、もう!」
俺は半ばヤケクソになって、適当に駆け出した。
目的地もなく、ただひたすらに。
どこぞのドラマの主人公が感極まって街を走り出すのと同じような感覚だ。
「ハァ、ハァ……、クソッ」
段々と息が上がってくる。
これだけ全速力で走ってきたのだから、当然といえば当然だ。
やがて体力が保たなくなり、手を膝について立ち止まる。
「ぜはぁ、ぜはぁ、……」
そして息を整えたところで、顔を上げてもう一度前を向く。
ふいに。
「……ぁ」
溢れんばかりの記憶と情報が、俺の頭に流れ込んできた。
「あああああああああああああああああっっっっ!!」
痛みはないが、わけがわからなくなって絶叫する。
「うわあああああああああ」
慟哭のたび、違う記憶が脳内に移る。
「ああああああああ」
慟哭のたび、視界が開けていく。
「ああああ」
そして少しずつ、流れていく速度は遅くなり。
「あああ……、はぁ、はぁ……」
全て流れ切ったのだろうか、脳の異常はなくなり、その途端に俺はもう一度地面に突っ伏した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
己の呼吸に引き戻されて、まぶたを開く。
「……!!」
コンクリートだ!
地面は、コンクリートになっている!
──いや、そんなことよりも。
俺は、俺は……っ!!
「……フレイ。沖田……」
やっと思い出した。
俺は江ノ島で、あいつらに……!
起き上がろうと地面に手をつくと、視界に藍色のコートが映った。
「っ!服……!」
こんなものは俺はもっていないが……説明しようがないものはしょうがない。
まさか、無意識下で盗んだわけでもあるまいし。
「ここは、」
そして立ち上がり、遠景に目を凝らす。
海、そして向こうには山。
周囲。
こじんまりとした民家。
街路樹。
間違いない。
ここは、さっきの江ノ島だ。
さあ、これから──




