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ここで殺人を躊躇う理由はない。
俺は初撃から思い切り剣を振った。
「おらぁぁぁぁっ」
相手が例え死神だろうが、関係ない。
──そう思っていた。
「……?」
イザナミは無抵抗。
というより、抵抗する必要がないように見える。
だが構わない。
俺はそのままイザナミのもとへ走りこみ、斬りつけようとした。
そして……
ギィィィン‼︎
「何っ⁉︎」
イザナミが、超高速で剣を取り出した。
全く見えないような速さで。
俺の斬撃はその剣によって防がれる。
俺は体勢を立て直そうと、一旦後ろに飛び退く。
「……邪魔」
イザナミは、心底嫌そうな顔をして、剣を振り上げた。
───。
その刹那。
大陸が、真っ二つに割れた。
真一文字の斬撃を描いて。
大地が爆ぜ、海が大飛沫を上げる。
当然、その斬撃の軌道上にいた人間は全滅。
斬撃とはいっても、それがもたらした衝撃波は大陸のおよそ四分の一を吹き飛ばした。
俺は、その未来を“予見”した。
「ただごとじゃねぇな、これは……」
原因。
それは、当然目の前のイザナミだ。
「──やめろ。その剣を振り下ろすな」
すると、イザナミはきょとんと首をかしげて、言った。
「どうして?」
どうしてって……。
さすがにここまでさせると、俺個人の問題だけでは済まなくなってくるし、隠蔽は当然無理だ。
それ以前に、俺のせいでまた人々の生活を奪うなんて……。
しかし俺自身も気持ちを上手く言葉に表せなかった。
そして絞り出せたのはこのセリフだけ。
「──人が死ぬ」
「人は死んだって、生み出せるじゃない」
……は?
人を、生み出せる?
……そうか。
合点がいった。
倉庫街で現れた数多の人。それらは、全てイザナミによって生み出されたものなのだろう。
むしろ人を殺す神であるイザナミが、生命を造ることができるのは謎だが。
……だが。
「そういう問題じゃないだろう」
するとイザナミは俺の方に剣を向けてくる。
試運転──そんなものじゃ済まなさそうな破壊力を思わせる劔。
おそらくあれは──天叢雲剣だろうか。
「なら、私を止めてみる?力ずくで」
「ッ……」
俺は、イザナミの凄まじさを知っている。
たとえ俺が『覚醒』の能力を持つ『覚醒者』だとしても、さすがにイザナミに敵うかどうかは分からない。
いや、十中八九俺が負けるだろう。
イザナミは俺の無言が答えだと思ったのか、こう続けた。
「何の能力をもってして未来を視たのかわかんないけど、邪魔だけはしないで」
──なんということだ。
俺は、自らの非力さを呪った。
直後、イザナミの剣が振り下ろされる。
───────は?非力さを呪う?
アホか。
んなくだらないことやってられるか。
俺は神を殺す邪神だ。
ここで死ぬわけないだろう?
「こんなところで……立ち止まってられるかよ‼︎」
俺の心は、戦争と度重なる侮蔑で歪みきった。
ならば、そんな歪んだ俺ができること。
それは──
こいつを止めること‼︎
「おらぁっ‼︎」
俺はイザナミのもとへ走り、振り下ろされている剣を受け止める。
「……ッッッッ‼︎‼︎」
剣どうしが触れていないにも関わらず、力のぶつかり合いが俺の腕を刺激する。
重い。とにかく重い。重い──
だが負けてなるものか。
俺は弾かれつつも、体が吹き飛ばぬよう両脚でしっかりと支える。
体の真横からは、衝撃の余波による突風がびゅうびゅう吹いており、一瞬でも気を抜いたらすぐに呑まれてしまいそうだ。
「"汝は此処に死せるあり"」
‼︎祝詞か⁉︎
これはただの言葉じゃない──神が祝詞を詠むと神性を発揮する。
その結果がこれだ。
「……っ‼︎」
頭上に現れたのは、数多の隕石。
それらは浮いているものの、今にも自身の重さで降り注ぎそうなくらいだった。
「……バカかよ、おい……」
だが防ぎきるしかない。俺が勝利するためには。
「"其の力解き放ち邪なる者を封じ込めよ"」
その瞬間、空に浮かんでいた隕石が一斉に俺を目掛けて降り注ぐ。
「……そこだ‼︎」
俺は、『予見』を駆使。
隕石の切れやすいポイントを見つけ、そこを正確に断つ。
「おらぁぁぁぁっ」
イザナミ本人は、この隕石に力を使っているのか動く気配はない。ならば今はこの隕石を防げばよい。
──そもそも。
たかだか神話だけの存在に過ぎない神が存在するというのもおかしな話だが。
今はそれどころではない。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
とりあえず、隕石は止んだ。
だが体力もだいぶ使った。これからのイザナミの攻撃に耐えられるかはわからない。
「……しぶとい」
イザナミが呟く。
「それがどうした?お前は俺の前に立ちふさがるんだろ?なら殺すだけだ」
俺が返すと、イザナミはくしゃっと顔を歪め言った。
「……もう少し神に対する言葉遣いを気をつけろよ」
……ああ。
これだから、俺の殺意は尽きない。
ここまで人の命を蹂躙する神への、殺意が──
「自分で神だって名乗ってるうちはそこらの塵芥となんら変わりねぇよ。それよりも」
俺は続けて言う。おそらくは、俺にとって大切な──
「俺にはお前を恨む理由があっていいはずだ。なにせお前は俺を……」
もうだいたい予想はついている。
あとはその裏付けをするだけだ。
さあ──壊れる準備はあるか、イザナミ?




