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そして、午前2時半。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
あれから随分走った。
全く疲れないのは何の道理か知らないが、肺はさらなる呼吸をしようとしている。
あと、100メートル──
ここは、おそらく江ノ島。なぜそんなところにいるのかも知らないし、そもそもその確証もないが。
俺は、近くの木に寄りかかって呼吸を整える。
「──よし」
俺は覚悟を決め、体を起こす。
そして前へと歩を進める。
あとは、全て振り払うだけ。
姉貴には、後で適当に説明しておこう。
ここでケリをつけなければ、もう後がない。そうすれば俺の生活は破綻する。
……いや、それで済めばマシだ。というより、もともと俺は全人類の生活を、「破綻させている」側なのだ。それは、誠意を以って受け入れよう。
その次。
ここでケリをつけられないということは、すなわちこれから敗北するということだ。
そうすると、沖田がどう動くのか知れたものじゃない。俺でも止められないとなると、おそらくフレイでも無理だろう。となると、この案件は完全放置となる。
上に報告すれば少しくらいは手助けしてくれるかもしれないが、せいぜいそこまで。厄介事を持ち込もうものなら、すぐさま首を切られるだろう。
だから、俺は、ここで──
潮風を受けて、コートがなびく。
だが真っ直ぐに進む。真っ直ぐ、真っ直ぐに。
あと、10メートル……
「おい、沖田」
俺は怒気──いや殺気を込めて、言う。
すると沖田はこちらを振り返り、心底嫌そうな顔をした。
「……またお前か。もう、お前は用済みなんだよ」
ここにきて、まだそんなことを抜かすか。このクズ。
「はっ、お前のことなんざ知るか。俺はお前をブッ殺さなきゃならねーんだよ」
ぶっ殺すというのは少し行き過ぎたか。いや、でもその可能性も十分にありえる。それこそが俺のやりかたなのだから。
それはそうと、「用済み」というのは気になる。昔、俺の研究は戦争によって止まったのだから、俺という存在は研究対象として喉から手が出るほど欲しい代物だろう。
いやそれとも、戦争を引き起こすような危険物はいらないということか……?
「だが俺はお前と戦う気はない。ゆえに、こうさせてもらう──おい。試運転だ」
……試運転?それは一体……
「うるさい。指図しないでこの豚」
「お前に存在価値を見出してやったのはこの俺のはずなんだが?いいからやれ」
「そんなもの最初から、自分でわかってる。……まあいい。ついでに鬱憤も晴らさせてもらうか」
奥から人が出てきた。
人が──
「‼︎‼︎⁉︎⁉︎‼︎⁉︎⁉︎‼︎」
冗談じゃねぇぞ⁉︎
おいおいおいおい⁉︎
こいつは、確か──
「……伊邪那美」
悪夢の象徴が、そこに居た。
日に千人を殺す、黄泉の国の永久の王者──
「……外道が。神を地球に堕ろしたってのか」
身体中から、底知れぬドス黒い憤怒が滲み出る。
……。
ならいいさ。
神でもなんでもブッ殺してやるよ。
本当にJ-ノグリーフは──
どうしようもねぇクズ野郎だ。
俺とともに堕せ。




